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切れば切るほど固くなる。世界初の切断不能な金属が誕生(イギリス・ドイツ共同研究)

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(著) (編集)

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image by:SciTech Daily

 それは鉄鋼の15%の密度しかない。にもかかわらず切ることができない。それどころか、切ろうとすればするほどに、破壊力を増して工具を返り討ちにしてしまう。そんな驚くべき金属が開発されたようだ。

 ダラム大学(イギリス)とフランホーファー研究機構(ドイツ)の研究グループが作り出した世界初の切断不能な金属は、ギリシャ神話の海の神にちなみ「プロテウス(Proteus)」と呼ばれている。

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振動するセラミック球が工具を返り討ちに

 研究の中心人物ステファン・シニシェフスキ氏(ダラム大学)によると、プロテウスを切るということは、「塊が詰まったゼリーを切るようなもの」なのだそうだ。

 以下の映像でも分かるように、じつは表面だけならグラインダーやドリルで切削することができる。

 しかし、それが柔軟な素材に組み込まれているセラミック球に接触したとき、プロテウスは牙を剝く。振動が生じて切削工具の鋭利な刃の部分を破壊してしまうのだ。

Angle Proteus Angle Grinder Attack – First Manufactured Non-Cuttable Material

切れば切るほど硬くなり、破壊力を増す

 だが、ただ工具を破壊するだけではない。振動によって細かいセラミック粒子が生じ、プロテウスのマトリクス構造にある隙間を埋めるのだ。

 すると、この「セラミック粒子の原子間に働く力」のおかげで、切れば切るほどに硬くなる。プロテウスが受けた力は、グラインダーやドリルに跳ね返って、さらに刃を破壊。まさに物理空間における攻性防壁のような特性を発揮するのだ。

 シニシェフスキ氏によると、サンドバッグに高速の銃弾を打ち込んでも貫通できないのと同じような原理であるそうだ。

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グラインダーで限界まで切断したもの。表面に傷がついていても両断はできない

image credit:University Hannover, Germany

水流を分散し、ウォーターカッターも無力化する

 プロテウスは高圧で吹き付けられるウォーターカッターに対しても効果的だ。

 ウォーターカッターは、高圧をかけて小さな穴から噴射された水のジェットで物体を切断する。しかしプロテウスに命中すると、セラミック球によって水流が拡散し、ジェットの速度が50分の1にまで低下してしまうために、切断できなくなるのだ。

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プロテウスのCT画像。アルミの細胞状構造がセラミック球を包んでいる。左側の影は、グラインダーで切断を試みた痕跡

image credit::University Hannover, Germany

開発のヒントはグレープフルーツと魚の鱗

 開発のヒントになったのは、丈夫なグレープフルーツの果皮や、ピラニアの歯も通さない魚の鱗であるそうだ。

 グレープフルーツの果皮は、維管束と孔のある細胞状構造のおかげで、10メートルもの高さから落下しても、果肉を傷つけずに守ることができる。

 またアマゾンに生息するピラルクという魚は、階層構造の鱗で、鋭い歯を持つピラニアの襲撃から身を守る。

 鱗の層には正弦曲線の溝があるのだが、その周期性はピラニアの歯の間隔と位相がズレるようになっている。さらにその下にはコラーゲン繊維が交差する薄盤状に並ぶ。こうすることで、本来の鱗の強度以上の丈夫さを発揮することができる。

 このような自然界が何億年もかけて進化させてきた階層構造を金属に応用したものがプロテウスだ。

Nature inspires first manufactured non-cuttable material

絶対に切れない錠や防具に

 現時点では、切断不能な素材などプロテウス以外にないのだから、さまざまな応用が期待できるという。たとえば、バイクの錠や軽量アーマー、あるいは切断工具を使うときの防具としてもポテンシャルを秘めている。

 現在、プロテウスは特許出願中で、研究チームは一緒になって市販製品の開発を進めるパートナーを探しているとのことだ。

 となると、最強の矛と盾理論で、プロテウスの矛とプロテウスの盾で戦うとどんな結果となるのかが知りたいところだ。

この研究は『Scientific Reports』(7月20日付)に掲載された。

Non-cuttable material created through local resonance and strain rate effects | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-020-65976-0

References:Durham University / techeblog / written by hiroching / edited by parumo

本記事は、海外の記事を基に、日本の読者向けに重要なポイントを抽出し、独自の視点で編集したものです。

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この記事へのコメント 71件

コメントを書く

  1.  【アルミの細胞状構造がセラミック球を包んでいる。】
     これって金属じゃなくて、発砲アルミを母材、セラミックスを強化材にした複合素材では???
     動画も、わざわざ溶接で鉄?の箱を作ってるし、、、

    1. >>1
      方向性として対切断用工具に特化した構造のもの、というだけの複合装甲だね

    1. >>2
      そもそも話題と関係無い定期

      1000度以上は簡単に用意できないし、周囲への被害もでるから比較も意味ない

  2. 「またつまらぬものを切ってしまった…」と言えなくなるワケか

  3. 自転車の鍵とかに使えたら嬉しいな
    けど次は酸とかでやるやつが出てくるんだろうか

  4. T-64Bの装甲もこんな感じで球状のセラミックが封入されていたけど、あれとはまた仕組みが違うのかな?

  5. 戦車は弾が当たれば当たるだけ防御力が上がるが、弾を回収してまた使うわけにはいかないわな。
    ただAP弾では上がる前に貫通するし、当たる面積も狭いからアーマーの製作そのものが面倒くさそう。
    AP弾は当たる面積が狭いから生産するのは装甲よりは楽だろうな。

  6. 鋳造や鍛造しかできんってこと?
    カバー類には良さそうな性能だね

    1. ※22
      で?
      1000℃を超える熱で何をどうしたいんだ?
      例えばこれで金庫作ったとして、中身燃やしながら溶かすのか?

      1. ※29
        ※22は小説家になろうというアマチュア小説投稿サイトに投稿された作品のセリフが元と思われます
        セリフそのものよりも主人公が魔法で鉄の鎧を生成した敵に対して火の魔法を使い、熱で鎧を溶かすという描写が物議を醸したことでネット上では有名で、
        着ていた鉄の鎧が融解したなら熱いでは済まず即死しているだろうとか、そもそも鉄の鎧が融解するほどの熱量を浴びせられた時点で中の人間も炭化しているだろうなどとさんざんな突っ込みを受けましたが、作者はこれをファンタジーではなく地球の物理法則や科学知識と同じつもりで書いていたし何もおかしく無いと反論したことで余計にさまざまな指摘や突っ込み、批判を呼び込みました
        なお、該当の作品は作者が既に小説家になろうを退会しているので現在は読む事ができません

  7. すごいねこれ
    権利持ってる人は大金持ち間違いなしだわ
    世界中の銀行や重要施設から注文来るだろうな
    爆発には弱いんだろうか?
    それでも鉄鋼と鉄鋼の間に挟んだりなどの応用でかいけつできそう

  8. グラインダーのように徐々に切断するタイプには
    切削されたセラミック球が細かい粒子となって効果的に防ぐけど
    ワイヤーカッターのように一発で切断するタイプには
    セラミック球も効果が無さそう
    単体では用途が限られるけど様々な素材を複合した防護板を作る際に混ぜると良いのかな

  9. 曲げ強度も強いのかな?金属は曲げて戻して
    曲げて戻しての繰り返しても破断する。
    金属の破壊方法は切断と研削だけではない。

  10. 面白いなあ
    絶対に切れないは誇張にしてもどれくらいの強度があるんだろうね
    あとは切断できなくても曲がりやすくなると用途が限られる
    ただこれは外部を別の金属でコーティングすれば解決するかな?

  11. セラミックを使う装甲は「複合装甲」とか「チョバムアーマー」などで既に軍事技術として確立されているし、あえてスカスカの空間を用意しておいて高熱ガスやメタルジェットをその空間に逃して無力化する工夫も実用化されている。

    この記事を読む限り、そんなに革新的なことはしていないようにも思えるのだが。

  12. 結婚式のプレゼントにするなら縁起がいいのかそうでもないのかよくわからんね

  13. 金属というか構造体よね
    コンクリートの建造物を石製と言うのと同じくらい無理があるのでわ…

  14. ???「金属酸化物と金属片 それに燃料を適切に調合すれば2000℃で燃える その熱は考えうるほぼ全ての防壁を溶かせる C4との併用が 最強の組み合わせだ」

  15. 切断というか物をこすり付けて削られることに強いんだよね。

    指向姓爆薬だっけ?
    アルミで高温のガスを出すやつ、あれならどうだろう。
    (あんまり詳しくないので誰か解説してくれー)

    1. ※35
      消防が使ってるようなバカでかいカッターとかスプレッダーだと破壊できそう。
      これは装甲向けなのかな。

  16. 普通に切れてるように見えるんだが?
    SUS316が焼けるとこんな感じになるけど、切れないってことはない
    これならチタンのほうが切れないと思う
    あれはあっと言う間に刃がイカれる

    1. >>36
      表面って漢字が使われてると思うんだけど、探してみよう。

  17. ウォーターカッターに研磨剤とか入れたやつも防ぐのかな?
    あと加熱と急冷とかへの耐性も気になる

  18. かつて「プロチュース」って言う航空機用のエンジンがありまして、これが想像を絶するほどの駄々っ子で・・・。

  19. 工場レベルでは切断できる方法はいくらでもあるだろうけど、じゃあ現地ですぐにってなるとなかなか難しいかも

  20. 文字読んで想像した印象よりセラミック球がずっと大きくて戸惑う

  21. グラインダーなので研削刃物かな?
    まぁ切削刃物で通用しないと前提で一気に研削との事でしょうけど
    炭素鋼系は切れば切るほど固くなりますね
    とは言え材料の研究は機能は損なわずに切削研削しやすい方向でのが一般的なので、こういったのは面白いですね

  22. 切れば切るほど固くなる物な~んだ?

    答え・新素材… (´・ω・`)

  23. 金庫とか南京錠とか作ったとして、もし鍵が壊れたら絶望だね。

  24. 逆に大した振動がないものならどうなるんだろ
    錐のようなものでズブズブしてたらいけたりしそう

  25. 考え方は複合装甲のそれと同じだけれど、その更に高度な奴、と理解した。

    複合装甲みたいにセラミックをサンドイッチするんじゃなくて、金属の内部に無数の気泡があって、その気泡の全てにセラミックが詰まってる、みたいな?

    たとえるなら、ミカンの粒の中身が全部噛んだあとのガム、的な?

    合ってる?
    どうやって作ってるんだこんなもん。

    成形炸薬によるジェット噴流への抗堪性は気になるところやね。
    同じ厚さの均質圧延鋼板やアルミ合金よりは強そうではあるけれど。

  26. 金属塊ではなくて金属製構造物だね。
    本文でサンドバッグで例えてたけどまさにそれで、
    物体自体の硬さや粘りではなくて、形状と構造の妙によってかかる力を分散し切断を困難にする。

    だから、グラインダーやらの力任せにぶっこわす道具じゃなくて、
    たぶん表面の普通の金属箱部分を丁寧に剥がし、中身をゆっくりと優しくセラミック球を破壊しないように「掘り進め」ば、比較的簡単に突破できると思うよ。

  27. 戦うほどに、傷つくほどに、強くなっていくというのか、、、、、
    ヒーローみたいだ

  28. 本題の金属の話より『グレープフルーツは10メートルの高さから落としても果肉が傷つかない』という話のほうに感心してしまったw

  29. 矛は動力という素材以外の要素も加わるので基本的に負ける

  30. >>63 刑務所建設時に使えそう
    この発想好き。

    動画の厚みの金属板をハンドグラインダー程度で効率的に切れるとは思えない。
    実験結果としては予想通りで面白くない。
    ウォーターカッターのほうは興味深い。プラズマカッターとかレーザーカッター使って同じ結果であれば面白いし、いろいろな応用が利くだろう。

    似た構造だったら、金属発泡構造でなくとも荒い金属粒子+セラミック球分散の混合焼結でできそう。

  31. 装甲としては良いかもしれないけど繰り返し荷重を受ける構造材としては微妙

  32. U字ロックは結局ワイヤーカッターで押し切られるんだろ?
    使い道は金庫や扉ぐらいかね。
    体積増やすなら材質買える必要ないし。

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