2012年 12月 02日
best20discs_2012&さよなら東京
こちら。
今年はライターとかやめまして~、会社でも異動があって~、いろいろ思い詰めたり悩んだり、自分で言うのも変ですが、精神的に不安定な一年でした(笑)。
それに、大体ぼんやりしていて新しい音楽をあまり聴きませんでした。
ついでにご報告ですが、思うところありまして、東京を離れます。
12月8日に名古屋に戻ります。
東京でお世話になった皆様、ありがとうございました。
■20位
新・チロリン | Chit Chat Chiroline ~おしゃべりチロリン~
チロリンの12インチEPが実家に二枚ある。リリースは86-87年。友達から借りたまま返す機会を失って25年。ごめん小西くんいつか返す。チロリンは岡田徹プロデュースによる、素晴らしく可愛い楽曲の、まさに伝説の女子バンドだ。今年突然リメイク・ユニット「新・チロリン」のCDが出たので驚いた。旧曲は嫌味のない程度で今ふうにアレンジされていて素敵です。「一人だけバタ臭いモデルがいて、他は普通の女の子たち」というメンバー構成もオリジナルに忠実だ。ただ、数曲収録された新曲が許しがたいほど軽率な印象で、ミステリアスでイマジネイティブなおれのチロリン観に泥を塗られたような気分。なのでこれらの新曲はなかったことに。
■19位
Negicco | あなたとPop With You!
今年も夏ぐらいまではけっこう自分の中でアイドル・ブームが続いていて、いろいろイベントに行った。AXとかコーストのアイドル横丁とかTIFとか。それなりに楽しかったけど、何か気持ちが冷めてきた。ほんとに面白いユニットやほんとに可愛い女の子は当然ごく一部ですから、かなり時間を無駄にしているような気がして、飽きた。かといってハロプロとかAKBを本気で追いかけるような年齢でもないしなぁ。Twitterで読んだ江森丈晃さんの七夕の願いもおれの気持ちに拍車をかけた。「アイドルを聴いていることに対して恥ずかしさが戻ってきますように!」。アイドル・ポップスを聴くということは自分の恥ずかしさや照れを受け入れるということで、その条件でのみ輝く奥床しい快感というものがあることを改めて認識しておきたい。
■18位
禁断の多数決 | はじめにアイがあった
去年突然連絡をいただいて、見せてもらった動画がすごく可愛くて、以来何度かほうのきさんとメールのやりとりをさせてもらっていた、禁断の多数決。順調に知名度を上げて、来年はライブもできるかも。彼のバックボーンには映像的な嗜好性の強さとアニマル・コレクティヴみたいな雑食性が共存していて、DIY精神も稀有な存在感を示している。とにかく複数の女性ボーカリストたちが声もルックスもキュートで、その「狙い過ぎてる感」がポスト相対性理論みたいなインテリジェンスと神聖かまってちゃん以降のハプニング性みたいな期待感を一身に浴びているかもしれない。まぁ、そんな相対的な立ち位置はともかく、あのキュートなダンス・チューン「透明感」が入ったCDがレコードショップに並んだというだけで2012年は記念すべき年なのだ。
■17位
昆虫キッズ | こおったゆめをとかすように
個人的にすっかりご無沙汰している昆虫キッズ。3年前は毎月メンバーに会っていたような気がする。野本さん元気かな。スリーヴに封入された高橋くんのやけに真面目なコメントが面白い。おれは高橋くんの歌詞が大好きだ。佐久間くんも元気かな。冷牟田くんにも会いたいよ。何となくライブへ行かなくなってしまったが、このアルバムで彼らが健在かつ全開なのがわかって安心。マネージャーのクマコーにも会いたい。「CHANCE」の80'sディスコ・コンシャスなソウル風味にニヤニヤ。今年はDEERHUNTERのリリースがなかったけど、昆虫キッズの新譜が出たから良かったなぁと思う。関係ないこと書くけど、おれはceroが嫌いだ。
■16位
平賀さち枝 | 23歳
今年もさっちゃんの歌声を聴くことができた。それだけでもう充分だ。今回のミニ・アルバムは優しい手触りのバックバンドに彩られ、ギター弾き語りの前作よりもバリエーションがあってキャッチー。容姿の美しさもあって、きっと来年はもう手の届かないスターになってしまうのだろうな。もうほんとに自分のことばっかり書いて気持ち悪いですが、去年二人で「ももいろクローバー」の最後のコンサート見に行ったのが懐かしい。温かくて優しい東京の想い出をありがとう。さっちゃん、これからも頑張って。なんだこのブログ、気色悪い。
■15位
Contrary Parade | 空想クロール~虹色
結局、お友達のCDばっかり聴いてた年だった、という感じは否めない。逆に言うと、おれには素晴らしい音楽家の友人がたくさんいて幸せだ。タナカマユさんのソロ・ユニットになったコンパレも、きちんと新譜が出た。この四曲入りEPのクオリティの高さは刮目に値する。特に表題曲「虹色」の丁寧なアレンジとコード展開には「可愛い」「キレイ」で終始していたコンパレがシティポップとしてのネクスト・ステージに踏み込んだという手応えを感じる。トレンドに流されず良心的なJ-POPをきちんと作っている作家が東京にはいて、それを支える真摯なスタッフや会社があるのだ、ということを覚えていたい。
■14位
スピッツ | おるたな
カップリングや未発表カヴァーなどでお茶を濁した今年のスピッツ、唯一のリリース。いまだに2007年の『さざなみCD』がヘビロテな私のiPodに早く新しい光を射しこませてほしいものだ。荒井由実「14番目の月」、初恋の嵐「初恋に捧ぐ」など好きな曲が入っていて嬉しい。花*花「さよなら大好きな人」でさえマサムネくんが歌うと素敵に聞こえる魔法。そういえばこないだ川本真琴さんとカラオケに行く機会があって、彼女はきゃりーぱみゅぱみゅとか知らないアニメソングとか最近の安室ちゃんとかを歌ってくれたんですが、当然ながらめちゃくちゃ巧いし可愛いし、至福でした。とても素敵な東京の想い出。おれは当然スピッツ歌ったよ。
■13位
KGY40Jr. | コスプレイヤー
千葉県鎌ヶ谷のご当地アイドル。DOMMUNEの「JGO」でライブを観て翌日CD買いに行った。これは何なんでしょうか。ジグ・ジグ・スパトニック以来の衝撃。歌詞は何ひとつ理解できないし、気持ち悪いほどにキャッチーで、可愛いのかどうかもよくわからない。とにかくラリルンルンルーンかつレロンローン。一回聞くと翌日の昼まで脳内リピートしてしまう悪夢の名曲。もはやアイドル・ブームがどうこうという問題ではない。グランジ・ブームのときにニューヨークのBLAST FIRSTから偶発的に産み落とされたBIG STICKというカテゴライズ不能の異形ユニットがあったが、その感触に近い。
■12位
TEST PATTERN | 羽化
春頃に村岡充くんに送ってもらって、ずーっと書きたかったんだけど、遅くなりました。すみません。岡山が誇るテストパターンの新作。結成当初はインスト中心のバンドだったが、このアルバムでは羅針盤を思わせるボーカルが効いている。ネオアコっぽいテイスト、ステレオラブみたいなミニマリズム、スティーブジャクソン的ポスト・ポストロックな野心が混在していて、めちゃくちゃ気持ち良いイージーリスニングでありつつ、実験音楽でもある。テストパターンこそ真の意味で「フュージョン」なのではないか。ホーンの使い方なんかPIGBAGとか思い出したりして。ジャケの凝り方も毎回凄くて、今回はインナーが細かく折れるようになっていて、折り方によって13種類のバリエーションがあるのですと。こんな感じ。
■11位
HALF SPORTS | Slice Of Our City
今年も「つぶろっく」のDJをやらせてもらったのですが、そこで出会ったバンド。岐阜や名古屋で活動しているHALF SPORTS。鋭角的で疾走感あふれる猪突猛進型ニューウエーヴ。闇雲にカッコイイ。Swell Mapsみたいな躍動感。あるいは初期のポリスみたいなピュアネス。清々しくて瑞々しい。ドラマーがメインボーカルという変則性もこのバンドのオリジナリティを感じさせる。全曲が英詞で余計な叙情性を排除しているのも潔い。名古屋に帰ったらまたライブを観よう。あと、the act we actも観たい。おれは名古屋が好きだ。
■10位
Tomato n' Pine | PS4U
この三年間おれの精神の中核にあった史上最強ガールズ・ポップ・ユニット、トマパイの最初にして最後のフルアルバム。昨年の私の年間ベスト3を独占したナンバーももちろん収録されている。ライブもたくさん観た。インタビューも二回させてもらった。後にも先にもおれが最も愛したガールズ・ユニットはトマパイだ、と生涯言い続けることになるだろう。トマパイの楽曲については、もはやおれのような門外漢が語るべきではない。言いたいことはすべて昨年末に言い切っていた。冒頭にリンクした昨年のブログの3位から1位を読んでいただきたい。おれのせいで、最後はフォースプリングスの皆さんにも、アゲハスプリングスの皆さんにも義理を欠く形になってしまった。もうこんなサイトご覧になっていないだろうけど、こっそり書いておきたい。お世話になりました。ありがとうございました。トマパイのこと、死ぬまで大好きです。
■9位
豊田道倫 | The End Of The Tour
みーくん久しぶりのリリースは四曲入りEP。タイトル曲についてはブログに書いたからもう書かない。新しいリリースもEPみたいで、かなり良さそう。いきなり女の子が歌うのでみんな驚くよ、きっと(ネタバレ)。今年はみーくんとよく会った。目黒とか五反田とか不動前とか恵比寿のプレハブ酒場とか。平日、会社を出るころ見計らったように電話がかかってきて晩ごはんに行った。愛人か。10月のパラガのライヴに出させてもらったのも嬉しくて、あの夜がこの東京生活でいちばん楽しかったかも。いや、こないだの川本さんとのカラオケも楽しかったなぁ。ヤクさんがいた鶯谷の飲み会も楽しかったなぁ。あぁ、そういえば、このCDのジャケット写真の、後部座席におれ座ってたんだよ。みーくんの運転はちょっと危なっかしいけど、ブレーキはワウペダルを踏むみたいに繊細で、良い乗り心地だった。淋しくなるけど、おれ名古屋に帰るよ。みーくんも大阪に帰ろうよ。
■8位
鴨田潤(イルリメ) | 君の好きなバンド
かもやんも小説が出たりバンドやったり大変ご活躍の様子で、逆瀬川ポセイドンズのメンバーとして誇らしい限りでございます。野球はもう何年もやっていませんが。今年の白眉はダウンロード販売されたこの曲。ドラムに昆虫キッズの佐久間くんを起用した、イルリメにしては珍しいストレートなギターバンド・サウンド。趣味を共有できる人との出会いのときめきを描いた甘酸っぱい歌詞が愛しい。おれもこの夏、表参道の「ふ~ちん」で、会社でいちばんキレイな女の子にiPodの中身全部見られて「原田知世の”ロマンス”が入ってる。あたしこの曲、大好き。鉄板ですよね」とニコニコされて、おれも「ロマンス」めちゃ好きで常々鉄板だと思ってたので、ときめいた。同じiPodを二人で見ているものだから顔がほとんどくっついてて、その距離感にときめいた。いろんなときめきありがとう東京。そんなことはまじでどうでもいい。二曲目に収録されている「featオノマトペ大臣」バージョンの破壊力が凄い。ライブハウスの情景の描写の細かいこと。「ココほんとに空調効いてんの」のリアリティ。よく知らないのですが、このラップの人、天才です。
■7位
Sister Paul | 彼と僕Ⅰ
二人組になって久しいシスターポールのニューアルバム。音の数が減っているのに、それに反比例するかのように加速する編曲と演奏のテンションの高さに驚く。削ぎ落とされ研ぎ澄まされる真剣の切れ味。彼らを表現するのにいつも使ってしまう言葉は「聖域」。神聖で不可侵な孤高のパンクス。神々しいほどの熱量とそれを支える崇高なストイシズム。途方もなくすっ呆けた歌詞にも毎回驚かされる。「子熊とスケート」の衝撃はパンクの原点であり、この曲はTHE CLASH「Rock the Casbah」以来の名曲と言えよう。そんなシスターポールのお二人と神宮球場で中日戦見たのも最高の想い出です。想い出ばっかり書いてすみません。
■6位
オシリペンペンズ | 心
もう立派な中年ですから年々ライブハウスから足が遠のいています。今年は大好きなペンペンズのライブさえ観なかったが、モタコがCDを送ってくれた。「100枚ぐらい送ります!」とメールが来たが、届いたのは2枚。1枚はライブ盤『お雪ちゃんは一人で走る気がする』で、ベストセレクション的な17曲入り。言わずもがなの痛快うどんサイケ真空パック。加速する中林キララの指使いと迎祐輔のジャジーなドラムスが相変わらず鉄壁。だが、もっとすごいのはスタジオ録音された新譜『心』。「ナンセンスを演じるセンス」を持つ表現者は稀有だが、ペンペンズは聴く者を笑わせ踊らせることのできる真っ当なナンセンス・アーティストだ。こんなバンドは他にない。ゴールデンボンバーより売れるべきだ。オシリペンペンズがメジャーデビューしない限り、日本の音楽業界に未来はない。『お雪ちゃんは一人で走る気がする』では「ファッションチェック」、『心』では「ハンバーグ」が好き(同じ曲)。
■5位
The Beach Boys | That's Why God Made the Radio
まったく洋楽に疎くなってしまって、NMEの50 Best Albums Of 2012を見ても、かろうじて知ってるのはFlying LotusとHot ChipとTHE XXとCrystal Castleぐらいで、ほとんど知らないわー。でもビーチ・ボーイズの新譜は買った。『Friends』と続けて聴いても遜色のない魔法のメロディ連発。「Isn't It Time」の構造美。サーファーズ・コンシャスな「Daybreak Over The Ocean」や「Beaches In Mind」。「Caroline, No」を思い出す「From There To Back Again」。何度聴いても飽きない中毒性は、あのハーモニーに因るものなのか、それとも私など及び知らないところに、無意識域に訴えるサブリミナルなコードが潜んでいるのか。2012年にさえ完璧なポップ・ミュージックを産むことのできるグループが現存していると証明された宝物のような作品。
■4位
いずこねこ | 最後の猫工場
中田ヤスタカがどれほど稼いでいるか知らないが、最近の彼のどの曲を聴いてもまったく感心しない。鼻歌みたいなメロディに使い回しの音色で紋切り型のアレンジ。慢心しているとしか思えない。小室哲哉が凋落した頃のイメージと重なる。何といっても歌詞がテキトーすぎて、その世界に深みを感じない。ヤスタカくんが冴えきっていた頃のPerfumeの楽曲に匹敵するインパクトを感じるのは、いずこねこ。凝りに凝った旋律。アイドル・ポップスと呼ぶには難解とさえ思える複合的なリズム。一曲のうちに何種類ものスネアを使う丁寧な編曲。にゃんこテイスト満載のブレイクと想像力を駆り立てられる幻惑的な歌詞の文学性とのギャップも圧倒的なオリジナリティ。ソング・ライティングからマスタリングまで行うサクライケンタはテクノ・ポップの概念を更新する天才だ。
■3位
パブリック娘。 | 初恋とはなんぞや
これはもしかしたら2012年のリリースではないのかもしれないのですが、今年の夏にダウンロードして、たくさん聴いた。大学生たちの稚拙だが実に純朴なトラックとラップ。リリックは限りなく日記に近いし、ラップについてもほとんどスキル無視だから正統派ヒップホップの世界では白眼視されるのだろう。ただ、この純情にグッと来ないようでは死んでいるのと同じだ。恩着せがましい心情や信条や身上を押し付けられることが多い昨今。「初恋とはなんぞや」にも「Summer Chance」にも「おつかれサマー」にも、そんな陳腐なメッセージは皆無。あるのはただエッチで怠惰な夏の日々。全然輝いてないけど、懐かしくて愛しい、あの夏。思い出させてくれてありがとう。この夏はパブリック娘。の夏だった。
■2位
かせきさいだぁ | ミスターシティポップ
ずっと聴かず嫌いだったかせきさいだぁ。こんなに何度も聴くことになるとは思わなかった。一曲目の冒頭で大滝詠一「カナリア諸島にて」の歌詞を引用するような80'sオマージュを散りばめつつ、2012年にしか出せないグルーヴに満ちた名盤。完全にハマってしまった。「さよならマジックガール」の凡庸ながら普遍的な恋の終わりの情景と、そのPVがおれの住んでる渋谷区東のマンションの周りで撮影されているのと、おれが急にこのアルバムに夢中になったことが、どうにも偶然と思えなくて、この秋は朝晩ずーっと聴いてた。道玄坂上から代官山を通って並木橋まで歩いた雨の夜。たぶんこのアルバム聴くたびにあの風景を思い出すのだろうな。しかし、この調子だとかつて雑誌で死ぬほどディスっていたTOKYO No.1 SOUL SETの新譜が出たら平気でこのチャートに入るかもしれないな。生理前の少女のように気まぐれなおれは、来年46才になります。
■1位
ライムベリー | Hey!Brother
今年もっとも多くステージを観たのは間違いなくライムベリー。その魅力については6月にブログに書きましたので見てね。待望の音源リリースは代表曲の「Hey!Brother」。緻密でキュートなリリックと超絶的にかっこいいトラックのダンサビリティは圧倒的で、NMEの50 Best Albums Of 2012に挙がってるどのアルバムより踊れるはずだ。全然知らんけど、そうに決まってる。そして、今年唯一、音楽を聴いて涙が出るほど感動したのは3曲目の「Ich Liebe Dich(HIKARU MIX)」。「たくさん本を読もうって決めたんだ」という冒頭の一節でもう泣ける。何なんだ、これは。この曲の詩には多くのテーマが込められている。ステージで演じることの覚悟。アイドルとしての矜持。オトナであること/コドモであること。
「大人は子供に戻りたがってる/子供は大人になりたがってる/境界線の上にあたしはいま立ってる」
「みんなはわたしに何を重ねて声をあげるの?/わたしはちゃんとあなたの期待に応えることができているの?」
この詩にこんな自己投影をするリスナーは想定外かも知れないが、おれだって今年はいろんな境界線の上で笑ったり迷ったり寝込んだりした。葛藤はあったけど、自分の気持ちに正直になって、いろいろ決断した。それが正しいのかどうかはわからない。
「それでもわたしはステージに立つ/もしかしてここが未来なんじゃない?」
なんとなく2012年を振り返る20枚。去年のは→今年はライターとかやめまして~、会社でも異動があって~、いろいろ思い詰めたり悩んだり、自分で言うのも変ですが、精神的に不安定な一年でした(笑)。
それに、大体ぼんやりしていて新しい音楽をあまり聴きませんでした。
ついでにご報告ですが、思うところありまして、東京を離れます。
12月8日に名古屋に戻ります。
東京でお世話になった皆様、ありがとうございました。
■20位
新・チロリン | Chit Chat Chiroline ~おしゃべりチロリン~
チロリンの12インチEPが実家に二枚ある。リリースは86-87年。友達から借りたまま返す機会を失って25年。ごめん小西くんいつか返す。チロリンは岡田徹プロデュースによる、素晴らしく可愛い楽曲の、まさに伝説の女子バンドだ。今年突然リメイク・ユニット「新・チロリン」のCDが出たので驚いた。旧曲は嫌味のない程度で今ふうにアレンジされていて素敵です。「一人だけバタ臭いモデルがいて、他は普通の女の子たち」というメンバー構成もオリジナルに忠実だ。ただ、数曲収録された新曲が許しがたいほど軽率な印象で、ミステリアスでイマジネイティブなおれのチロリン観に泥を塗られたような気分。なのでこれらの新曲はなかったことに。
■19位
Negicco | あなたとPop With You!
今年も夏ぐらいまではけっこう自分の中でアイドル・ブームが続いていて、いろいろイベントに行った。AXとかコーストのアイドル横丁とかTIFとか。それなりに楽しかったけど、何か気持ちが冷めてきた。ほんとに面白いユニットやほんとに可愛い女の子は当然ごく一部ですから、かなり時間を無駄にしているような気がして、飽きた。かといってハロプロとかAKBを本気で追いかけるような年齢でもないしなぁ。Twitterで読んだ江森丈晃さんの七夕の願いもおれの気持ちに拍車をかけた。「アイドルを聴いていることに対して恥ずかしさが戻ってきますように!」。アイドル・ポップスを聴くということは自分の恥ずかしさや照れを受け入れるということで、その条件でのみ輝く奥床しい快感というものがあることを改めて認識しておきたい。
■18位
禁断の多数決 | はじめにアイがあった
去年突然連絡をいただいて、見せてもらった動画がすごく可愛くて、以来何度かほうのきさんとメールのやりとりをさせてもらっていた、禁断の多数決。順調に知名度を上げて、来年はライブもできるかも。彼のバックボーンには映像的な嗜好性の強さとアニマル・コレクティヴみたいな雑食性が共存していて、DIY精神も稀有な存在感を示している。とにかく複数の女性ボーカリストたちが声もルックスもキュートで、その「狙い過ぎてる感」がポスト相対性理論みたいなインテリジェンスと神聖かまってちゃん以降のハプニング性みたいな期待感を一身に浴びているかもしれない。まぁ、そんな相対的な立ち位置はともかく、あのキュートなダンス・チューン「透明感」が入ったCDがレコードショップに並んだというだけで2012年は記念すべき年なのだ。
■17位
昆虫キッズ | こおったゆめをとかすように
個人的にすっかりご無沙汰している昆虫キッズ。3年前は毎月メンバーに会っていたような気がする。野本さん元気かな。スリーヴに封入された高橋くんのやけに真面目なコメントが面白い。おれは高橋くんの歌詞が大好きだ。佐久間くんも元気かな。冷牟田くんにも会いたいよ。何となくライブへ行かなくなってしまったが、このアルバムで彼らが健在かつ全開なのがわかって安心。マネージャーのクマコーにも会いたい。「CHANCE」の80'sディスコ・コンシャスなソウル風味にニヤニヤ。今年はDEERHUNTERのリリースがなかったけど、昆虫キッズの新譜が出たから良かったなぁと思う。関係ないこと書くけど、おれはceroが嫌いだ。
■16位
平賀さち枝 | 23歳
今年もさっちゃんの歌声を聴くことができた。それだけでもう充分だ。今回のミニ・アルバムは優しい手触りのバックバンドに彩られ、ギター弾き語りの前作よりもバリエーションがあってキャッチー。容姿の美しさもあって、きっと来年はもう手の届かないスターになってしまうのだろうな。もうほんとに自分のことばっかり書いて気持ち悪いですが、去年二人で「ももいろクローバー」の最後のコンサート見に行ったのが懐かしい。温かくて優しい東京の想い出をありがとう。さっちゃん、これからも頑張って。なんだこのブログ、気色悪い。
■15位
Contrary Parade | 空想クロール~虹色
結局、お友達のCDばっかり聴いてた年だった、という感じは否めない。逆に言うと、おれには素晴らしい音楽家の友人がたくさんいて幸せだ。タナカマユさんのソロ・ユニットになったコンパレも、きちんと新譜が出た。この四曲入りEPのクオリティの高さは刮目に値する。特に表題曲「虹色」の丁寧なアレンジとコード展開には「可愛い」「キレイ」で終始していたコンパレがシティポップとしてのネクスト・ステージに踏み込んだという手応えを感じる。トレンドに流されず良心的なJ-POPをきちんと作っている作家が東京にはいて、それを支える真摯なスタッフや会社があるのだ、ということを覚えていたい。
■14位
スピッツ | おるたな
カップリングや未発表カヴァーなどでお茶を濁した今年のスピッツ、唯一のリリース。いまだに2007年の『さざなみCD』がヘビロテな私のiPodに早く新しい光を射しこませてほしいものだ。荒井由実「14番目の月」、初恋の嵐「初恋に捧ぐ」など好きな曲が入っていて嬉しい。花*花「さよなら大好きな人」でさえマサムネくんが歌うと素敵に聞こえる魔法。そういえばこないだ川本真琴さんとカラオケに行く機会があって、彼女はきゃりーぱみゅぱみゅとか知らないアニメソングとか最近の安室ちゃんとかを歌ってくれたんですが、当然ながらめちゃくちゃ巧いし可愛いし、至福でした。とても素敵な東京の想い出。おれは当然スピッツ歌ったよ。
■13位
KGY40Jr. | コスプレイヤー
千葉県鎌ヶ谷のご当地アイドル。DOMMUNEの「JGO」でライブを観て翌日CD買いに行った。これは何なんでしょうか。ジグ・ジグ・スパトニック以来の衝撃。歌詞は何ひとつ理解できないし、気持ち悪いほどにキャッチーで、可愛いのかどうかもよくわからない。とにかくラリルンルンルーンかつレロンローン。一回聞くと翌日の昼まで脳内リピートしてしまう悪夢の名曲。もはやアイドル・ブームがどうこうという問題ではない。グランジ・ブームのときにニューヨークのBLAST FIRSTから偶発的に産み落とされたBIG STICKというカテゴライズ不能の異形ユニットがあったが、その感触に近い。
■12位
TEST PATTERN | 羽化
春頃に村岡充くんに送ってもらって、ずーっと書きたかったんだけど、遅くなりました。すみません。岡山が誇るテストパターンの新作。結成当初はインスト中心のバンドだったが、このアルバムでは羅針盤を思わせるボーカルが効いている。ネオアコっぽいテイスト、ステレオラブみたいなミニマリズム、スティーブジャクソン的ポスト・ポストロックな野心が混在していて、めちゃくちゃ気持ち良いイージーリスニングでありつつ、実験音楽でもある。テストパターンこそ真の意味で「フュージョン」なのではないか。ホーンの使い方なんかPIGBAGとか思い出したりして。ジャケの凝り方も毎回凄くて、今回はインナーが細かく折れるようになっていて、折り方によって13種類のバリエーションがあるのですと。こんな感じ。
■11位
HALF SPORTS | Slice Of Our City
今年も「つぶろっく」のDJをやらせてもらったのですが、そこで出会ったバンド。岐阜や名古屋で活動しているHALF SPORTS。鋭角的で疾走感あふれる猪突猛進型ニューウエーヴ。闇雲にカッコイイ。Swell Mapsみたいな躍動感。あるいは初期のポリスみたいなピュアネス。清々しくて瑞々しい。ドラマーがメインボーカルという変則性もこのバンドのオリジナリティを感じさせる。全曲が英詞で余計な叙情性を排除しているのも潔い。名古屋に帰ったらまたライブを観よう。あと、the act we actも観たい。おれは名古屋が好きだ。
■10位
Tomato n' Pine | PS4U
この三年間おれの精神の中核にあった史上最強ガールズ・ポップ・ユニット、トマパイの最初にして最後のフルアルバム。昨年の私の年間ベスト3を独占したナンバーももちろん収録されている。ライブもたくさん観た。インタビューも二回させてもらった。後にも先にもおれが最も愛したガールズ・ユニットはトマパイだ、と生涯言い続けることになるだろう。トマパイの楽曲については、もはやおれのような門外漢が語るべきではない。言いたいことはすべて昨年末に言い切っていた。冒頭にリンクした昨年のブログの3位から1位を読んでいただきたい。おれのせいで、最後はフォースプリングスの皆さんにも、アゲハスプリングスの皆さんにも義理を欠く形になってしまった。もうこんなサイトご覧になっていないだろうけど、こっそり書いておきたい。お世話になりました。ありがとうございました。トマパイのこと、死ぬまで大好きです。
■9位
豊田道倫 | The End Of The Tour
みーくん久しぶりのリリースは四曲入りEP。タイトル曲についてはブログに書いたからもう書かない。新しいリリースもEPみたいで、かなり良さそう。いきなり女の子が歌うのでみんな驚くよ、きっと(ネタバレ)。今年はみーくんとよく会った。目黒とか五反田とか不動前とか恵比寿のプレハブ酒場とか。平日、会社を出るころ見計らったように電話がかかってきて晩ごはんに行った。愛人か。10月のパラガのライヴに出させてもらったのも嬉しくて、あの夜がこの東京生活でいちばん楽しかったかも。いや、こないだの川本さんとのカラオケも楽しかったなぁ。ヤクさんがいた鶯谷の飲み会も楽しかったなぁ。あぁ、そういえば、このCDのジャケット写真の、後部座席におれ座ってたんだよ。みーくんの運転はちょっと危なっかしいけど、ブレーキはワウペダルを踏むみたいに繊細で、良い乗り心地だった。淋しくなるけど、おれ名古屋に帰るよ。みーくんも大阪に帰ろうよ。
■8位
鴨田潤(イルリメ) | 君の好きなバンド
かもやんも小説が出たりバンドやったり大変ご活躍の様子で、逆瀬川ポセイドンズのメンバーとして誇らしい限りでございます。野球はもう何年もやっていませんが。今年の白眉はダウンロード販売されたこの曲。ドラムに昆虫キッズの佐久間くんを起用した、イルリメにしては珍しいストレートなギターバンド・サウンド。趣味を共有できる人との出会いのときめきを描いた甘酸っぱい歌詞が愛しい。おれもこの夏、表参道の「ふ~ちん」で、会社でいちばんキレイな女の子にiPodの中身全部見られて「原田知世の”ロマンス”が入ってる。あたしこの曲、大好き。鉄板ですよね」とニコニコされて、おれも「ロマンス」めちゃ好きで常々鉄板だと思ってたので、ときめいた。同じiPodを二人で見ているものだから顔がほとんどくっついてて、その距離感にときめいた。いろんなときめきありがとう東京。そんなことはまじでどうでもいい。二曲目に収録されている「featオノマトペ大臣」バージョンの破壊力が凄い。ライブハウスの情景の描写の細かいこと。「ココほんとに空調効いてんの」のリアリティ。よく知らないのですが、このラップの人、天才です。
■7位
Sister Paul | 彼と僕Ⅰ
二人組になって久しいシスターポールのニューアルバム。音の数が減っているのに、それに反比例するかのように加速する編曲と演奏のテンションの高さに驚く。削ぎ落とされ研ぎ澄まされる真剣の切れ味。彼らを表現するのにいつも使ってしまう言葉は「聖域」。神聖で不可侵な孤高のパンクス。神々しいほどの熱量とそれを支える崇高なストイシズム。途方もなくすっ呆けた歌詞にも毎回驚かされる。「子熊とスケート」の衝撃はパンクの原点であり、この曲はTHE CLASH「Rock the Casbah」以来の名曲と言えよう。そんなシスターポールのお二人と神宮球場で中日戦見たのも最高の想い出です。想い出ばっかり書いてすみません。
■6位
オシリペンペンズ | 心
もう立派な中年ですから年々ライブハウスから足が遠のいています。今年は大好きなペンペンズのライブさえ観なかったが、モタコがCDを送ってくれた。「100枚ぐらい送ります!」とメールが来たが、届いたのは2枚。1枚はライブ盤『お雪ちゃんは一人で走る気がする』で、ベストセレクション的な17曲入り。言わずもがなの痛快うどんサイケ真空パック。加速する中林キララの指使いと迎祐輔のジャジーなドラムスが相変わらず鉄壁。だが、もっとすごいのはスタジオ録音された新譜『心』。「ナンセンスを演じるセンス」を持つ表現者は稀有だが、ペンペンズは聴く者を笑わせ踊らせることのできる真っ当なナンセンス・アーティストだ。こんなバンドは他にない。ゴールデンボンバーより売れるべきだ。オシリペンペンズがメジャーデビューしない限り、日本の音楽業界に未来はない。『お雪ちゃんは一人で走る気がする』では「ファッションチェック」、『心』では「ハンバーグ」が好き(同じ曲)。
■5位
The Beach Boys | That's Why God Made the Radio
まったく洋楽に疎くなってしまって、NMEの50 Best Albums Of 2012を見ても、かろうじて知ってるのはFlying LotusとHot ChipとTHE XXとCrystal Castleぐらいで、ほとんど知らないわー。でもビーチ・ボーイズの新譜は買った。『Friends』と続けて聴いても遜色のない魔法のメロディ連発。「Isn't It Time」の構造美。サーファーズ・コンシャスな「Daybreak Over The Ocean」や「Beaches In Mind」。「Caroline, No」を思い出す「From There To Back Again」。何度聴いても飽きない中毒性は、あのハーモニーに因るものなのか、それとも私など及び知らないところに、無意識域に訴えるサブリミナルなコードが潜んでいるのか。2012年にさえ完璧なポップ・ミュージックを産むことのできるグループが現存していると証明された宝物のような作品。
■4位
いずこねこ | 最後の猫工場
中田ヤスタカがどれほど稼いでいるか知らないが、最近の彼のどの曲を聴いてもまったく感心しない。鼻歌みたいなメロディに使い回しの音色で紋切り型のアレンジ。慢心しているとしか思えない。小室哲哉が凋落した頃のイメージと重なる。何といっても歌詞がテキトーすぎて、その世界に深みを感じない。ヤスタカくんが冴えきっていた頃のPerfumeの楽曲に匹敵するインパクトを感じるのは、いずこねこ。凝りに凝った旋律。アイドル・ポップスと呼ぶには難解とさえ思える複合的なリズム。一曲のうちに何種類ものスネアを使う丁寧な編曲。にゃんこテイスト満載のブレイクと想像力を駆り立てられる幻惑的な歌詞の文学性とのギャップも圧倒的なオリジナリティ。ソング・ライティングからマスタリングまで行うサクライケンタはテクノ・ポップの概念を更新する天才だ。
■3位
パブリック娘。 | 初恋とはなんぞや
これはもしかしたら2012年のリリースではないのかもしれないのですが、今年の夏にダウンロードして、たくさん聴いた。大学生たちの稚拙だが実に純朴なトラックとラップ。リリックは限りなく日記に近いし、ラップについてもほとんどスキル無視だから正統派ヒップホップの世界では白眼視されるのだろう。ただ、この純情にグッと来ないようでは死んでいるのと同じだ。恩着せがましい心情や信条や身上を押し付けられることが多い昨今。「初恋とはなんぞや」にも「Summer Chance」にも「おつかれサマー」にも、そんな陳腐なメッセージは皆無。あるのはただエッチで怠惰な夏の日々。全然輝いてないけど、懐かしくて愛しい、あの夏。思い出させてくれてありがとう。この夏はパブリック娘。の夏だった。
■2位
かせきさいだぁ | ミスターシティポップ
ずっと聴かず嫌いだったかせきさいだぁ。こんなに何度も聴くことになるとは思わなかった。一曲目の冒頭で大滝詠一「カナリア諸島にて」の歌詞を引用するような80'sオマージュを散りばめつつ、2012年にしか出せないグルーヴに満ちた名盤。完全にハマってしまった。「さよならマジックガール」の凡庸ながら普遍的な恋の終わりの情景と、そのPVがおれの住んでる渋谷区東のマンションの周りで撮影されているのと、おれが急にこのアルバムに夢中になったことが、どうにも偶然と思えなくて、この秋は朝晩ずーっと聴いてた。道玄坂上から代官山を通って並木橋まで歩いた雨の夜。たぶんこのアルバム聴くたびにあの風景を思い出すのだろうな。しかし、この調子だとかつて雑誌で死ぬほどディスっていたTOKYO No.1 SOUL SETの新譜が出たら平気でこのチャートに入るかもしれないな。生理前の少女のように気まぐれなおれは、来年46才になります。
■1位
ライムベリー | Hey!Brother
今年もっとも多くステージを観たのは間違いなくライムベリー。その魅力については6月にブログに書きましたので見てね。待望の音源リリースは代表曲の「Hey!Brother」。緻密でキュートなリリックと超絶的にかっこいいトラックのダンサビリティは圧倒的で、NMEの50 Best Albums Of 2012に挙がってるどのアルバムより踊れるはずだ。全然知らんけど、そうに決まってる。そして、今年唯一、音楽を聴いて涙が出るほど感動したのは3曲目の「Ich Liebe Dich(HIKARU MIX)」。「たくさん本を読もうって決めたんだ」という冒頭の一節でもう泣ける。何なんだ、これは。この曲の詩には多くのテーマが込められている。ステージで演じることの覚悟。アイドルとしての矜持。オトナであること/コドモであること。
「大人は子供に戻りたがってる/子供は大人になりたがってる/境界線の上にあたしはいま立ってる」
「みんなはわたしに何を重ねて声をあげるの?/わたしはちゃんとあなたの期待に応えることができているの?」
この詩にこんな自己投影をするリスナーは想定外かも知れないが、おれだって今年はいろんな境界線の上で笑ったり迷ったり寝込んだりした。葛藤はあったけど、自分の気持ちに正直になって、いろいろ決断した。それが正しいのかどうかはわからない。
「それでもわたしはステージに立つ/もしかしてここが未来なんじゃない?」
2012、さよなら東京。
by kamekitix
| 2012-12-02 02:37