角川の動画投稿サイト戦略(2008年4月/naoyakiyohar5)

ユーザーがユーチューブ(Youtube)で英語字幕

パソコンとインターネットの進歩は、情報を受け取る一方だった一般の人々を情報の発信者に変えている。プロ顔負けの高水準の映像作品や動画作品を生み出して、ユーチューブ(Youtube)やニコニコ動画(ニコ生放送)、Vimeo、サグール(sagool)などで公開する人もいて、そうした創造性を製品や作品のPRに活用する動きも出てきた。著作権を理由に動画サイトと反目してきた音楽・映画産業も含めて、ユーザーの存在は無視できないものになってきたようだ。(naoyakiyohar5)

ラッパー、KREVA(クレバ)がCM動画公募

ヒップホップ系ソロアーティストとして初めてオリコンアルバムチャート初登場1位になるなど20代を中心に幅広い人気のあるラッパー、KREVA(クレバ)さんは、2008年3月発売のベスト盤のCM動画をユーチューブ(Youtube)で公募した。

過去のPVをダウンロード可能に

過去のプロモーションビデオ(PV)をダウンロード可能にして提供し、これをもとに15秒のCMに自由に編集してもらう。「トップアーティストとしては世界でもたぶん例がない試みではないか」とポニーキャニオン音楽事業本部の片野健主任はいう。

ベスト盤の特典DVDにも収録

応募は400本以上にのぼった。企画を仕掛けたクレバさんの事務所、エレメンツの大沢真二さんによると、「数も質も予想以上。やっつけ的作品はほとんどなかった」。優秀作はユーチューブ(Youtube)のクレバさん公式ページで公開されたほか、テレビで放映、ベスト盤の特典DVDにも収録された。

パソコン1台でプロ並みの動画編集が可能に
専門機材がなければ制作は無理だった

以前は高価な専門機材がなければ動画制作は無理だったが、今はパソコン1台でプロ並みの編集が可能になり、一般ユーザーのすぐれた作品が動画サイトに続々と発表されている。

学生がiPodタッチのCMを制作

そうしたユーザーの力を商品のPRに生かす戦略は、欧米では珍しくない。アップルは2007年9月、液晶の表面に触れて操作するiPodタッチを発表したが、数日後に英国の18歳の学生が製品の特徴が一目でわかる30秒のプロモーションビデオを作ってユーチューブ(Youtube)に投稿、評判になった。アップルも気に入り、作者と交渉して、ほぼそのまま製品のCMに採用した。

スマホ用動画メッセージも募集

クレバさんのケースは、積極的にユーザー側にCM作りを働きかけ、アップル以上に踏み込んだ。「単なるPRでなく、ファンとのコミュニケーションを重視した」と大沢さん。「センスの良い作り手の周囲には人が集まる。そうした作り手とクレバを結びつけられたのも大きな収穫です」。CMのほか、簡単に作れるスマホ・携帯電話用動画メッセージも募集したことで幅広い層が参加、ファンとの結びつきが強まったとみる。ベスト盤もすでに売り上げ20万枚と好調だ。

フジテレビ系「ワッチミー!TV」

フジテレビ系動画サイト「ワッチミー!TV」はBSフジに番組を持ち、投稿動画のよりすぐりをテレビ放送するなどユニークなサイトだ。掲載前にすべてチェックするため違法投稿もない。大手企業をスポンサーに一般ユーザーを対象にした動画コンテストをよく企画するが、企業の製品のCM作製というテーマで募集する場合もある。

「レグザ」CM募集

2006年末には東芝のハイビジョンテレビ「レグザ」のCMを募集。テーマは「質感」と難解だったが、すぐれた作品が多数あり、東芝のレグザ専用サイトでも紹介された。

プロの力量

「明らかにプロの力量を持った人がいる。広告制作の場として実におもしろい」とレグザ専用サイトを運営するフジテレビラボLLCの時澤正社長は言う。大企業が数千万~数億円規模で打つ広告はテレビや新聞が主な舞台になる。「だが100万円単位の広告費のCMならネットでこそいろいろな展開が考えられる。いずれ広告業界はその可能性を切り開いていくのではないか」

著作権業界

ユーチューブ(Youtube)などと最も激しく対立してきたのが著作権業界だ。アニメを切り張りしてCDの音楽に合わせて踊らせるなど無許諾の映像が投稿されているからだが、動画サイトの影響力が高まり、共存の道を模索する動きも現れてきた。

角川グループホールディングス

「時をかける少女」「涼宮ハルヒの憂鬱」

「時をかける少女」「涼宮ハルヒの憂鬱(ゆううつ)」などのヒットアニメを手がける角川グループホールディングスは2008年2月、ユーチューブ(Youtube)と提携して公式チャンネルを開き、「護くんに女神の祝福を!」全24話を無料公開(期間限定)するなど、積極的に活用していく方針を打ち出した。

英語版DVDが大ヒット

かつてユーザーが角川グループホールディングスのアニメを勝手にユーチューブ(Youtube)に投稿、続けて別のユーザーが英語字幕をつけて再投稿したら、海外で人気が爆発したことがあった。その後、角川グループホールディングスが英語版のDVDを発売したところ、6万セットが売れた。勝手な投稿が宣伝になる場合もあるのだ。

似た動画を検知するグーグル(Google)のシステムに協力

事前に登録した動画と似た動画を検知するグーグル(Google)のシステムに実験段階から協力した。Googleは、Youtubeの親会社である。現在、検知された情報をもとに、グループ会社の角川デジックスが24時間、人の目でチェックしている。無許諾の動画を発見しても原則としてすぐには削除せず、アニメの作者ら権利者と協議して、合意が得られたものは公認マークを付けて残す。

投稿動画を1つひとつ確認

「著作権を守るとは、権利者の利益が最大になるようにすること。投稿動画を1つひとつ確認して、活用できるものは活用し、容認できないものは削除する必要がある」と角川デジックスの福田正社長。PR効果が高いなど、人気のある動画には角川デジックスのポイントを贈るといった対応も考えている。「そこまで丁寧に対応することで、クリエーターも角川を評価してくれるはず。もはやネットの拡大は止められないのですから」

アメリカでテレビ放送が始まったころ

このほど来日したグーグル(Google)のコンテント提携担当副社長デービッド・ユンさんは「ネットは新しいメディアで、最適な活用モデルが確立されていない」と語った。アメリカでテレビ放送が始まったころは、ラジオと同様にマイクが人数分用意され、人が立ったまま話していた。その後、テレビの特徴がわかり、今のスタイルに落ち着いた。同じようにネットも今、独自のスタイルを模索する時期だという。

双方向性というネットの特性を考えると、ユーザーの存在は重要だ。「私たちは権利者の意向を最も尊重するが、先進的な権利者であるほど、ユーザーの活力をうまく生かそうとするだろう。ユーチューブ(Youtube)の上で、いろいろな試みをして、よい利用法を見つけてほしい」

ネット×ユーザーのCM効果
ユーザーが勝手に作製・投稿、企業が採用(画像はYouTubeから)
「iPod touch」

ユーザー(イギリスの学生)製品の勝手CMを作製・投稿
  ↓
(アップル)見て気に入り、これをもとに公式テレビCMを作製

アーティストが映像などの素材を提供(画像はYouTubeから)

KREVA 過去のプロモーションビデオ素材をネット経由で無料提供 CM募集
  ↓
ユーザー ベスト盤用CMを作製・投稿
  ↓
・ベスト盤の特典DVDに収録
・テレビCM放映

「グレー投稿」でDVDが売れる

ユーザー1 アニメDVDなどの動画を勝手にアップロード
  ↓(ここまでは著作権法違反だが、権利者の間で認める動きも)
ユーザー2 それをダウンロードして勝手に英語字幕をつけ、再アップロード
  ↓
英語圏のユーザー 見て気に入り、DVD購入

記事掲載動画

ユーチューブ(Youtube)(https://jp.youtube.com/)で「KREVA」「角川アニメチャンネル」など検索。ワッチミー!TV(https://www.watchme.tv/)