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そこが知りたい家電の新技術
三洋電機・エネループ担当者に聞くヒットの理由

Reported by 本誌:伊藤 大地

eneloop(エネループ)
 2005年11月に発売され、「使い捨てない電池」としてヒット商品となった三洋電機のエネループ。自己放電の少なさなど性能もさることながら、話題となったのは“電池らしからぬ”パッケージデザインや広告展開だった。エネループの営業統括責任者である三洋電機 モバイルエナジーカンパニー 市販ユニットリーダーの下園浩史氏に話を伺った。





“脱デジカメ”を強いられたニッケル水素充電池

三洋電機 モバイルエナジーカンパニー 市販ユニットリーダーの下園浩史氏
――まず、どういったきっかけで、エネループが生まれたのかお聞かせください。

下園氏:もともと、こうした単3、単4型のニッケル水素充電池は、さまざまな機器に使用できるのですが、実際に使われている用途といえば、デジタルカメラが大半で、ほかの機器に使えることはほとんど知られていませんでした。

 そうした状況になった理由は、少しでも撮影枚数を増やすためにデジタルカメラのメーカーさんが、乾電池より容量の多いニッケル水素充電池をパッケージに同梱し、その存在と使い方を啓蒙していただいたからです。おかげで、2001年頃から、ニッケル水素充電池の市場はデジタルカメラの成長と合わせて、ぐんぐん伸びていきました。

 ところが、2003年頃からでしょうか。デジタルカメラ用の電池において、ニッケル水素充電池に代わって、よりエネルギー密度が高く、小型・軽量化が可能でデザイン上の制約がない、リチウムイオン専用電池へのシフトが起きたわけです。それと同時に、ニッケル水素充電池の売上も頭打ちになり、市場が縮小し始めました。

 これではまずい、ということでまず、市場調査を徹底的にやりました。そこでわかったのは、ニッケル水素充電池というものの存在感が薄い、という現実です。「どういった機器で使えるのかわからない」とか、「どこで売っているのか知らない」、「存在自体知らない」という意見が多数あったのです。

 ニッケル水素充電池をどうやって、誰に売ればいいのか。市場を考えると、国内だけで年間約22億本消費される乾電池に比べて、ニッケル水素充電池は約2,000万本。1%に満たない規模です。それを考えたら、“乾電池ライクなニッケル水素充電池”を作って、ニッケル水素充電池とは比べものにならないほど大きい、乾電池の市場を狙うべきではないか。そのためには、一般の人たちに訴えかけなくてはなりません。それは、「そもそも存在自体を知らない」人たちに向けて、ニッケル水素充電池を売らなければならない、ということを意味します。

 ここが、企画の原点です。まず考えたのは、誰でも知っている乾電池との比較でした。両者を比較し、“ニッケル水素充電池が使われない理由”を追求すると、使い方や購入場所など、導入への心理的障壁と、充電しても放置しておくと使えなくなるという、自己放電の2点に集約されます。

 これらを総合して、「よりわかりやすく、自己放電を防いだ新しい発想のニッケル水素充電池を作ればよいのでは」と考え、コンセプトが固まったわけです。


ニッケル水素充電池の市場は、乾電池の1%以下 価格や自己放電などへの不満があることがわかった

――今までのように、容量を増やしていくアプローチでは限界があったと。

下園氏:そうですね。今までは、デジタルカメラを念頭に置いて進化させてきたので、自然と耳を傾ける相手はメーカーさんやデジタルカメラのユーザーさんになりますし、撮影枚数を稼ぐために容量を増やすことが何よりも大事なことでした。

 しかし、エネループにおいて我々が目指すコンセプトはまったく趣旨が違う。そもそも、「どうすれば乾電池と同じように使ってもらえるか」という発想ですから、「高容量化よりも、自己放電だ」という形で方向転換したわけです。

 技術的な面で言うと、自己放電への対策も、基礎研究の成果である程度、メドが立っていました。では、なぜ今までそうした製品がなかったかというと、高容量化と自己放電の抑制はトレードオフの関係にあり、高容量化を優先して開発を進めていたから、ということが大きいのです。


「今までのやりかたをすべて捨てるところから始めた」

青を基調としたエネループのパッケージ
――自己放電特性を抑えたニッケル水素充電池に関しては、他社からも発売されていますが、エネループのような“ブーム”は起きませんでした。両者の決定的な違いは製品名やパッケージなど、マーケティング面だったように思います。できあがった製品を、どのように販売しようと考えていましたか。

下園氏:一番怖かったのは、「今までと同じ」と思われて、黙殺されてしまうことです。今までのニッケル水素充電池は容量そのものが価値でしたから、まず、容量の数字をパッケージや電池本体に描くことになる。我々が考えていたのは、“乾電池のような感覚で使えるニッケル水素充電池”でしたから、そうしたやりかたをすべて捨てることから始めましたね。

 製品名とデザインを決めるに当たって、念頭に置いたのは「女性に受け入れられるもの」ということです。これまで、ニッケル水素充電池のユーザーはほとんどが男性でした。しかし、乾電池の置き換えを狙う以上、ターゲットは女性、主に家庭にいる主婦層に受け入れられるものでなくてはなりません。

 まず、ネーミングに関しては、「~~エナジー」といった製品そのものを想起させるようなものを排除しました。なおかつ、ワールドワイドでも通用する名前、という条件がありましたので、結果、エネルギーをループする“エネループ”となったわけです。

 デザインに関しては、売り場での見た目からして、“まったく新しいもの”と感じさせるようなパッケージを採用しました。電池の分類としては“ニッケル水素充電池”かもしれませんが、それとはまったく別の“エネループ”という1つのジャンルであることを表現したかったのです。


冬季限定のパッケージデザイン
 いろいろと社内からもアイデアが出て、中には“使い捨てない電池”というコンセプトから、ペットボトルのような形にする、といったものもありましたね。最終的に、ブルーのパッケージを選択したわけですが、これも社内で論争になりまして(笑)、なぜかというと、あえて中の電池を見せないパッケージにしたからです。「中身がなにかわからないモノを手に取ってもらえるのか」といった意見もありました。結果的には、色がごちゃついた電池売り場において、統一感を出すことができたことは、ブランド認知の面でかなり貢献したと思います。

 いずれにしても、デザインやブランドに関しては、三洋電機全社で取り組んだことが大きいですね。開発段階では、電池部門が単独で取り組んでいたプロジェクトでしたが、全社で“Think GAIA”というビジョンを掲げることになり、Think GAIA製品第1弾としてリリースされることになりました。そこから、プロジェクトが全社規模になり、デザイナーや広告部隊など、全社から精鋭を集めてこれたのです。

 全社のバックアップを受けたことで、今までのニッケル水素充電池では考えられない、テレビCMを打つこともできましたし、会社ぐるみで勝ち取った成功だったと思います。


「エコも大事だが、本質的な魅力をアピールすることの方がもっと大事」

――今、Think GAIAのお話がありましたが、エネループは「エコな電池」というイメージが定着しているように思います。

下園氏:もちろん、環境にどう貢献できるのか、というのはメーカーの責任として、非常に重要な点だと思います。だからといって、「使い捨てないから環境に優しい」と前面に押し出しても、消費者への訴求は難しいでしょう。エコは決してそれだけで十分、という魅力には至らないのです。

 女性、特に主婦層をターゲットとすると、経済性を最初にアピールする方が有効でしょう。特に充電池は初期投資のハードルが高いので、そこで敬遠されないよう、「繰り返し使えるから経済的」という本質を伝えることが重要でした。こうした考えは、「ループ」という言葉を使った製品名にも現れています。

 経済性、そして乾電池と同じ使い勝手、こうした本質的な製品の魅力をまず最初に伝えた上で、さらに「エネループを使えば、環境にも優しいんだ」ということがわかってもらえれば、十分ではないかと思います。


販路を切り開いた「買ってすぐに使える充電池」

――ここまでは、製品を生み出す過程についてお聞きしました。ここからは、現在の状況についてお聞きします。エネループを発売しておよそ1年が経ちました。手応えはいかがでしょうか。

下園氏:大成功です。発売から2006年10月末までで、累計出荷数量1,500万本を達成しています。エネループを発売してから、国内の市販ニッケル水素充電池の売上数量が対前年比で、毎月200~300%の規模で伸びています。三洋ブランドの充電器セットのシェアでも、エネループ発売前は30%弱だったのが、直近では60%を超えました。近年、縮小傾向だった市場自体も、110%、120%と成長基調にあります。これはやはり、乾電池のユーザーを取り込めた結果だと思います(※注 数値はすべてGfK Japan調べ)。

――成功の原因はどこにあると考えていますか。

下園氏:やはり、これまでとは180度考え方を変えた製品だったこと、電池にまつわる一般消費者の不満を解消する製品だったことでしょう。

 結果として大きかったのは、「買ってすぐに使える」という点だったように思います。これは言うまでもなく、乾電池を意識したものです。特に難しい仕組みを施したわけではなく、出荷前に充電するという工程を1つ増やしただけですが、これは自己放電がほとんどないからこそ、できることです。

 「買ってすぐに使える」ことがもたらしたものは、販路の拡大です。エネループを出してから半年たったくらいから、急激に販路が変わってきました。これまで量販店がほとんどだったのが、コンビニやスーパー、ホームセンター、ドラッグストアに置いていただけるようになりました。これは明らかに、“買ってすぐに使える”ことが影響しています。つまり、乾電池と同じように扱われたということです。店舗数でいうと、5,000くらいだったのが、約3倍の15,000店舗まで伸びてきています。

 特にコンビニに置けたのは大きかった。生活に密着した店舗ですし、幅広い層の方が利用しています。もちろんコンビニでは、買ってすぐ使えるものでないと置いてくれません。エネループは初めてコンビニで扱われた充電池といっていいかもしれません。

 また、テレビショッピングやカタログショッピングといった販路も広がりました。結婚式の引き出物なんかも想定しています。電池を全く使わない家庭はほとんどないでしょうし、末永く使えますから(笑)。


他社製品への搭載も「大歓迎」

テレビショッピングで販売された家庭用のオールインワンパッケージ
――今のエネループに課題があるとすれば、どういったところでしょう。

下園氏:まだまだ製品のバリエーションを増やさなければいけないと思っています。デジタルカメラならばともかく、家庭で使うことを考えたら、単3型4本に充電器のパッケージではとうてい足りません。単4型もいるでしょうし、単1サイズ、単2サイズに変換するスペーサーもいるでしょう。こうした製品は今、バラバラで販売されているわけですが、用途に応じたパッケージを提案していくことは重要でしょう。

 2005年に、単3型を8本、単4型を4本、スペーサーと充電器をセットにしたパッケージをテレビショッピング限定で用意したところ、大変好評でした。これを受けて、店頭販売向けにも同様の製品を用意しました。また、充電時間をより短くした急速充電器のセットも12月に発売しています。なにしろ、応用範囲やユーザー層が広い製品なので、パッケージングに関しては、今後も素早く市場の要求に応えてきたいと思っています。


2006年12月に発売された急速充電器のセット
――その延長線上には、たとえば、他社の電気製品にエネループが採用される、といった可能性も含むのでしょうか。

下園氏:もちろんです。実際、そうした引き合いもいくつかあります。他社製品に採用されれば、第三者から評価されているという証拠になりますし、大歓迎ですね。こうした流れを作るために、今、どんどん我々はエネループの充電器を売っていきたいと思っています。

 充電器が普及すれば、採用するメーカーさんにとっては、「充電器を同梱せずに、コストダウンになる」というメリットが生まれます。それにより採用する製品が増えれば、家庭内にエネループが増え、結果的に次に買う製品もエネループを選ぶようになる。良いスパイラルが生まれるからです。乾電池の市場を目指すには、充電器の普及は大きなポイントですね。


――今後について伺います。まず、ニッケル水素充電池自体は、エネループに集約されていくのでしょうか。

下園氏:現在でさえ、8割以上がエネループですし、従来型とエネループとでは、ターゲットとなっている市場の大きさが違いすぎるので、数量では今後ますます、エネループが圧倒するでしょう。ただ、かつてのデジタルカメラのように、容量を要求する新たなアプリケーションが現れれば、話は別です。容量や充電サイクルなど、どこかのスペックに付加価値が付いたものでないと苦しいでしょうね。

――さらに性能を上げたエネループが登場する可能性はありますか。

下園氏:もちろん、日々性能アップを目指していますが、問題は「エネループにおける性能とはなにか」ということです。エネループの開発で教えられたことは「容量だけが価値ではない」ということ。容量をアップする、というのは誰しも考えますが、我々はそこではなく、むしろ、エネループの低自己放電という特性を、どのように活かしていくか、といったアプローチで考えています。

 極端な話をすれば、容量を減らして、サイクル回数を伸ばすという考えもアリだと思っているくらいです。

――最後に、今後の抱負をお聞かせください。

下園氏:今、エネループというブランドが世の中に定着したことで、社員のモチベーションもすごく上がっています。これを勢いに、もっと乾電池を置き換えていきたいですね。いくら伸びたとはいえ、乾電池に比べたら、1~2%に過ぎません。エネループが目指すところは、国内で約22億本、世界で約400億本という、無限にも近い乾電池市場です。2006年には、欧州、米国と世界進出も果たしました。世界中に「使い捨てない電池」を、広めていけたらと思っています。





URL
  三洋電機株式会社
  http://www.sanyo.co.jp/
  製品情報
  http://www.sanyo.co.jp/eneloop/

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2007/01/17 00:03

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