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韓国の地下鉄に見るユビキタス社会
KDDI総研
森口泰行
KDDI総研 調査2部市場分析グループ。専門は情報通信サービスに関する需要動向の分析・予測であるが、本人は携帯電話の月々の請求がなかなか3千円に届かない3児の父。最近のレポートは、KDDI総研R&A誌「二極化する消費と富裕層サービス ~携帯電話は生き残れるか~」(2008年4月号)、「子どもの携帯電話利用の現状と今後について(2007年10月号)」など。
筆者はこの春、韓国ソウルに出張した。人生30数年で初めての訪韓であり、身近にある国ながら色々と現地で驚いたことも多かった。驚いた一つが携帯電話である。筆者は移動の多くは地下鉄を利用したのだが、ある時ふと目の前の座席に座る年配の女性に目がいった。推定年齢50歳前後。髪型は昭和30年代風のパーマ。そう、私の“おかん”も昔やっていたやつだ(くるくる巻いてネット被ってセットする、あれです)。やがて携帯電話をバッグから取り出す。おっメールか? それとも経路探索でもやるのかな? と思うが早いか、その女性は「ヨボセヨ~(もしもし)。φτγκ(意味不明)……」と携帯電話で誰かにしゃべり始めた。
まぁ急ぎなら仕方がないか。そのまま1分経過。あれ長くない? 2分経過。そういえば何故地下鉄トンネル内で電波が届くの? 5分経過。まだしゃべるの?
結局、そのおかんは10分以上しゃべり続けた。通話後の非常に満足した表情が印象的であった。何かうれしい知らせでもあったのだろうか。おとんから? それとも近所のおばちゃん? または子供がテストでよい点数を取った? 韓国語を理解できない筆者にはそれ以上知る術もなかったのだが……。
その後、地下鉄に乗車する度に、さまざまな年代の男女が携帯電話で通話している姿を何度も見かけた。また、周囲の人々もそれを全く意に介さない様子。韓国では「車内では通話はお控えください」ではないようだった。また、驚くことに地下鉄のトンネル内でもまったく通話が途切れない(日本では地下鉄の駅から遠ざかるにつれて電波が届かなくなり、やがてトンネル内では切れてしまいますよね)。さらに韓国版ワンセグの地上波DMB放送も全くトンネル内で途切れず楽しんでいた(日本のワンセグは地下鉄の駅どころか、地上でないとほぼ見られない)。いつでもどこでも連絡を取りたい、情報を知りたいというニーズを満たすのが携帯電話であり目指すユビキタス社会だろうが、韓国ではそれが当然のこととして実現されていた。彼らからすれば「電車内で通話していいの?」「トンネル内でも電波とどくの?」と驚く方が不可解かもしれない。
日本では「マナー」を優先し、「優先席付近では電源OFF、その他ではマナーモードで通話はNG」という電車内ルールが鉄道各社で統一された訳だが、通勤ラッシュ時や大声での通話はさすがにマナー違反として、そうでない場合にも車内での通話はこのルールによって、何か後ろめたい気持ちにさせられるし、周囲の視線も冷ややかである。韓国での体験でふと思ったのは、「マナー」や「ルール」の大義の下で、本来の携帯所有のメリットまでが制約されてしまっているような現実を改めて感じた。
また、「ルール」を守ることが目的化し、思考停止に陥って、本来ルール作成の主旨であろう「状況によって周囲に配慮する」ということを理解しない人の増加を促してないのだろうかとも思った。最近では、携帯メールに夢中で通路の中央で邪魔になっているのに気づかない人や、座席の人に傘の滴が垂れているのに気づかない人、なども見かける。
さらにトンネル内では電波が途切れ、メール送受信でさえも駅到着まで待たねばならない。トンネル内で万一の災害時や緊急停止時の連絡手段として不十分な状態であり、こういう状況の改善こそ、ユビキタス社会を目指すならば必要なのではないだろうか。
(参考)韓国最大手SKテレコムの1契約者の月間平均発着分数は320分。それに対してau携帯電話では132分と約4割程度。いずれも2007年度第4四半期。
(
KDDI総研
森口泰行)
2008/06/25 11:12
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