このほか、トランプ氏とクリントン氏二人が、TPPに対し否定的な評価を下している事にも、日本政府は「戸惑い」を感じている。この合意に反対する声は日本国内でも少なくないが、自動車や機械製品などの輸出のための新しい市場を開く見通しの方が、日本にとって、これまでの交渉努力を台無しにするより、もっと大きな希望を持って受け止められている。
さて中国だが、トランプ氏は、この国に対しても、経済領域でのクレームを蓄積させてきた。彼の言葉によれば、米国は、中国との2国間貿易のアンバランスにより、5000億ドルを失ったとのことだ。これに対し中国は、対中貿易での米国の赤字分は、5000億ドルではなく3660億ドルだと指摘し、訂正している。所謂「トランプ現象」に対する中国国内での態度は、今のところはっきりとは示されていない。しかし、中国政府は、アジア太平洋地域における米政府の政策がやはり、中国抑止に向けられていると受け止め、もし米国が仮に、中国と対峙する場所から去るならば、その地位を代わりに占める可能性があるのは、東アジアで主要なプレーヤーとしての役割を明らかに求めている日本だろうとはっきりと自覚している。
政治分析センターのキリル・ペトロフ氏は、スプートニク日本記者のインタビューに応じた中で、次のような見解を明らかにした-
「こうした脅威論は、誇張されたものだ。これは、トランプ氏が、挑発的な文言によって、スキャンダラスな話題を作り上げている選挙戦の過熱化と関係がある。もちろん多くの国々にとって、共和党候補は当分の間、「吉とでるか、凶とでるかわからない玉手箱」のような存在であり続けるだろう。この事はオバマ現大統領も認めている。彼は日本でのG7閉幕後の記者会見で『トランプ氏は、世界のリーダー達の不意を襲っている。彼らは、どの程度真剣に、彼が言っていることを受け止める必要があるのか分からない』と述べ『トランプ氏の多くの提案は、世界事情について彼がどれほど無知か、あるいは問題をよく考えもせずに解決しようと試みているのか、そのどちらかであることを証拠立てるものだ』と指摘している。
しかし私の見るところ、トランプ氏もクリントン氏も、両方とも、国益という観点から見れば、日本にとって、それほど悪くはない。おそらく中国の方が、もっと懸念すべきだろう。トランプ氏は、中国製品のために、米国に変動金利の導入を考えている。また彼は、中国との競争に直面する中、米国内に雇用の場を生み出すようなビジネスを支持している。この事は、多くの米国民の票をトランプ氏に保証している。
しかしトランプ氏のチャンスは、過大評価されているように思う。もし彼が、それでも勝利したならば、彼の革命的な物言いは『少し影を潜め』、それは米国にとってより伝統的なものへと姿を変えるだろう。まして対外政策においてクリントン氏が急激な措置を行うとは、想像しがたいゆえに、なおさらだ。」