インタビュー:東電、発電所売却し廃炉費用に=橘川武郎教授

インタビュー:東電、発電所売却し廃炉費用に=橘川武郎教授
10月17日、政府のエネルギー政策議論に参加する一橋大学大学院の橘川武郎教授は、ロイターとのインタビューで、「50年後、東電は3.11の責任を取ったという歴史を作るべき」と語り、廃炉完遂の必要性を強調した。写真は東電の福島第1原発。6月代表撮影(2013年 ロイター)
[東京 17日 ロイター] - 未曾有の原発事故に対応中の東京電力<9501.T>は今、福島第1原発の汚染水処理や柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働など難問に直面している。自民党の有力議員からは「廃炉庁」の設立や廃炉作業の分社化など、国の直接関与や経営形態見直し論が浮上。東電自身も無制限負担の見直しを要望中だ。
福島第1原発の安定化を達成しながら、電力の安定供給を維持するスキームは果たして存在するのか──。政府・与党内での本格的な検討を前に、電力問題や企業再生に詳しい有識者に意見を聞く。
初回は、政府のエネルギー政策議論に参加する一橋大学大学院の橘川武郎教授にインタビューした。橘川氏は「50年後、東電は3.11の責任を取ったという歴史を作るべき」と語り、廃炉完遂の必要性を強調した。廃炉や除染の費用は国が負担すべきとする一方で、東電は柏崎刈羽を含むほとんどの発電所を売却してリストラを徹底し、売却代金は廃炉や除染に回す考え方を提示。成長分野の都市ガス事業を拡大することで、経営再建は可能だとの見方を示した。
インタビューの主な内容は次の通り。
――自民党から東電の経営形態の見直しに関する意見が出ている。廃炉庁を作るべきとの声もある。福島第1の廃炉を担う事業主体はどこであるべきか。
「事業主体は東電であるべきだと思う。ただし、普通の廃炉とは違い、技術的にも未知数でおカネもどれくらい掛かるかわからない。実質のカネの出所は国にならざるを得ない。廃炉庁を設立して『グッド東電』を作るという話しは、余りにも東電を助けている感じだ。東電は『そこまでやるのか』というリストラをすべきだ。柏崎刈羽を含む、(需給調整用の)揚水式以外の全ての発電所を売却し、売却代金は賠償、廃炉に充てることだ」
――東電の破綻処理をどう考えるべきか。
「最初にやるべきだった。東電問題は基本的に2つが大原則。誰がカネを出すにしろ、1つは福島できちんと賠償、廃炉、除染が行われること。もう1つは、誰が事業主体になろうとも、東電の供給エリアで安定的に、できるだけ安く電気供給が行われることだ」
「東電という組織が残るかどうかはどうでもいい問題だ。プラスであれば法的処理もあった。社債市場に影響を出さないなどの理由で東電を生き残らせる方針をとったが、それは表面的な理由。本質的な理由は、政治家と官僚、メディアが東電という『悪者』がほしかったのだと思う」
――柏崎刈羽の売却をどのように想定したらよいのか。
「(売却先で)頭に浮かんでいるのが日本原子力発電と東北電力<9506.T>だ。日本原電は、敦賀2号機(福井県)に活断層があるとなると、1号機は古すぎるし、東海第2(茨城県)は地元との関係で(再稼働が)厳しい。原発なき原電になる。ただ、新潟県は原電と付き合いがない。原発は(供給地域の)地元でやるのが自然なので東北電力が絡んでくる。中越沖地震の復旧で、東北電力と新潟県の間にそれなりの信頼関係がある」
――電力債は電力事業設備すべてが担保になる。発電所を売却対象とすると電力債の投資家が訴えるのではないかとの指摘も聞く。
「そうしたことはあるかもしれないが、いまの状態の東電の社債を持っているよりは、袖ヶ浦火力発電所(千葉県)の所有者が中部電力<9502.T>になったり、柏崎刈羽が東北電力に移った状態のほうが、社債保有者は安心すると思う」
――リストラ後の東電には、送配電部門と福島県内の原発が残ることになるということか。
「いったんは小さくなるが、送配電部門はメーター(電力量計)を通じて家庭まで押さえている。スマートメーター(通信機能付き電力量計)に変えると、電気と熱(ガス)の両方の調整ができる。東電と東京ガス<9531.T>は供給エリアの広さが相当に違う。千葉県などが(東ガスの非供給エリアとして)かなり残るので、将来は東電の送配電部門が、千葉からガス・アンド・パワーの小売り会社になることで、成長戦略が可能だ」
「エネルギー需要は、ガスが伸び、電気は横ばい、石油が落ちている。長期的には電力会社や石油会社がガスに入るのが(エネルギー)システム改革の基本構図になる。東電は、M&Aを通じてガス事業を拡大すればよい」
「(リストラ後も)東電は福島での賠償金を払い続けられると思う。イメージしているのは、水俣病問題で賠償金を払いながら存続したチッソだ。経営史を研究してきたが、世界でも極めて異例なケース。(独化学メーカー)メルクと液晶材料の世界シェアを二分し、極めて安定的な収益源を持って賠償金を払いながら存続した」
「東電の場合、東京エリアというユーティリティー(公益事業)の有力地域を持っている。これがコアコンピタンス(中核的競争力)になる」
――東電のあり方の見直しと政府が閣議決定した電力システム改革は、相互にどう影響するか。
「東電問題のスピード感は早いと思う。金融筋との弥縫(びほう)策でやっていても、ごまかしでやる期間は短い。東電が真のリストラをやらざるを得ない局面が来る。(システム改革で)2016年予定の全面自由化の前に、東京湾から全面自由化が始まると思う。供給エリアを超えた競争が本格的に始まると、(電力事業の)イメージは相当に変わる」
「東電エリアに中部電力が市場参入して、需要家が選択肢を持つと、(周波数60ヘルツで共通の)中部、関西、北陸、中国、四国、九州の6地域の需要家も、それに倣わざるをえなくなる。3つの(業界再編の)可能性が出てくる」
「1つ目は関西電力<9503.T>、中部電、北陸電力<9505.T>が一緒になり、対抗せざるを得なくなる九州電力<9508.T>、中国電力<9504.T>、四国電力<9507.T>が一緒になるパターン。2つ目が、中部と北陸が組み、関西と四国と組み、中国と九州が一緒になり(西日本が)3電力に集約される。3つ目が中部・北陸が組み、中国と四国が組み、関西と九州がそのまま。東京から激震が始まった場合のいちばん大きな影響だと思う」
(インタビュアー:浜田健太郎、アントニー・スロドコフスキー インタビューは16日に実施しました)
(浜田 健太郎 編集;田巻 一彦)

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