アングル:中国経済、日本企業から相次ぐ底入れの声

アングル:中国経済、日本企業から相次ぐ底入れの声
8月5日、減速懸念が広がる中国経済に対し、4─6月期決算を発表した日本企業からは、市場が警戒するほど悲観的な声は聞かれない。写真は中国の国旗。上海で2010年3月撮影(2013年 ロイター/Aly Song)
[東京 5日 ロイター] - 減速懸念が広がる中国経済に対し、4─6月期決算を発表した日本企業からは、市場が警戒するほど悲観的な声は聞かれない。
都市化が進む内陸部で工事が継続しているほか、世界的に需要が高まるスマートフォン(多機能携帯電話)の増産投資が再開され、建機を手掛けるコマツ<6301.T>や、生産設備を供給する三菱電機<6503.T>などは受注が上向きつつある。一部で景気底入れを示唆する経済統計も見られ、キヤノン<7751.T>のように業績予想を下方修正した製造業にも、中国経済の今後の回復に期待する声がでている。
<キヤノンで身構えた市場>
主要企業のトップバッターとして登場したキヤノンが決算を発表した7月24日、市場は身構えた。「(従来の計画と)かなりの誤差がある」(田中稔三副社長)として、中国におけるデジタル一眼カメラの販売が下振れたことを主因に、12月通期の業績予想を下方修正したためだ。
影の銀行(シャドーバンキング)問題、金融引き締めなど、折しも同国経済に対する不安が強まる中で発表されたキヤノンの業績は、その後に続く日本企業の決算への警戒を高めた。いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員運用部長は、キヤノンについて「それだけ中国や新興国、欧州の調子が悪く、先行きも暗くみているということなのだろう。(同社の現地販売の)実態が悪いことがうかがえる」と語っていた。
しかし、今回の四半期決算を見渡してみると、日本の製造業を中心に、中国経済の底打ちを示唆する声が少なくない。日本の自動車大手の中でも中国での売り上げが多い日産自動車<7201.T>は、4─6月期の同国販売が30万8000台と、前年比1%減まで下落幅が縮まった。
1ー3月期は尖閣諸島(中国名:釣魚島)問題が影を落とし、28万4000台と前年から15.1%減っていたが、その後は新たに投入した新車の売れ行きが好調、反転に転じた。足元は新車だけでなく、既存のモデルも販売が好調で、金融引き締めなどの影響は「今のところ一切出ていない」(田川丈二執行役員)という。
コマツは当初、中国における油圧ショベルの4─6月期の受注を前年比横ばいで計画していたが、6月は3割増と想定より上振れた。7月もプラス25%前後で推移した。コマツだけでなく、米キャタピラーなどを含めた建機全体の需要は、4ー6月期が前年比10%増と2年ぶりにプラスに転じた。地方で小規模の工事が多く、とりわけ住宅建設、農地の利水工事が目立つという。
コマツの杉木亮・常務執行役員は「底を打った感がある」と指摘。「政府による工事の認可件数も大幅な伸びを示しており、この先も上振れる可能性がある」と語った。
地方での工事の恩恵を受けているのは、社会インフラ整備に強い日立製作所<6501.T>や三菱電機も同じだ。沿岸部に比べて内陸部は依然として都市化に関連した工事が進んでおり、高性能な日本メーカーのエレベーターの需要が商業ビルなどで強いという。日立の中村豊明・副社長は、「昇降機の(受注は)相当増えている。先行きプラス要因に感じている」と説明。中国の景況感について「底を打った」と述べた。
三菱電機の場合、ファクトリーオートメーション(FA)の受注も上向いている。韓国、台湾と並び、中国でスマートフォンや液晶の生産向けに設備投資が増え、3月ごろからFAの受注が堅調。第2・四半期以降、業績に貢献してくるとみている。松山彰宏・常務執行役員は「前年度の第4・四半期に比べると受注が伸びている」と語った。
<リスクとして認識>
もちろん各社とも、手放しで楽観しているわけではない。「当然、注意しては見ている」(日産の田川執行役員)、「リスクとしては認識している」(三菱電機の松山常務)などの声も聞かれた。日産の田川執行役員によると、現地の金融機関と取引が多い地元企業の中には、資金調達の条件変更を迫られているケースも散見されるという。
それでも一部のマクロ統計には、底打ちの兆しを読み取れる数字が出てきた。7月の製造業PMIは、中小企業の占める割合が高いHSBCによる数字が47.7と、11カ月ぶり低水準となる一方、大企業の動向を示す国家統計局によるPMIは50.3と、前月の50.1から上昇し、好不況の境目である50を上回った。3日に発表された非製造業PMIは54.1と、6月の53.9から上昇した。
日立の中村副社長は「GDP(国内総生産)は7─7.5%程度で当面は安定するだろう」との見通しを示す。
これまで海運の荷動きは、中国の鉄鉱石需要の低迷でばら積み船が鈍かった。しかし日本郵船<9101.T>は、鉄鉱石や石炭を中心に4─6月期は荷動きが増加した。さらに航空貨物も「中国のフォーワーダー(国際貨物混載事業者)から問い合わせが来ている」(日本郵船の磯田裕治・経営委員)という。
中国販売の計画が狂い業績の下方修正に追い込まれたキヤノンだが、田中副社長は「中国の景気はこの下期のどこかで景気が回復してくる」と期待を示す。「そうすれば当然、カメラの売り上げもいい影響が出てくる」。
(久保 信博  編集:北松 克朗)

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