アングル:フィリピン、電力不足が経済成長の足かせになる恐れ

アングル:フィリピン、電力不足が経済成長の足かせになる恐れ
6月18日、5月にフィリピンのルソン島で発生した最大8時間に及ぶ広域停電は、電力危機が同国の急速な経済成長の足を引っ張る可能性を浮き彫りにした。マニラ首都圏で17日撮影(2013年 ロイター/Romeo Ranoco)
[マニラ 18日 ロイター] - 5月にフィリピンのルソン島で発生した最大8時間に及ぶ広域停電は、電力危機が同国の急速な経済成長の足を引っ張る可能性を浮き彫りにした。
電力需要は政府見通しを上回るとの声が出ており、コールセンターや観光、カジノなどの産業の発展に悪影響が及ぶのではないかと懸念されている。一方で民間電力各社はここ数カ月で90億ドル規模の発電施設の新規建設計画を打ち上げたとはいえ、完成までには3年程度かかる上に環境保護団体の反対などで既にスケジュールに遅れが出ている。
在フィリピン米商業会議所のコンサルタント、ジョン・フォーブス氏は「発電所は建設されるだろう。唯一の問題は、それらが需要を満たすのに十分なスピードで建てられるかどうかだ」と話した。
フィリピンの成長率は今年第1・四半期で7.8%に達し、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)とフィッチは格付けを投資適格級に引き上げた。しかしアキノ大統領が経済の急成長を推進していく上では、電力供給がインフラ整備面で最大の課題になるとみられている。
同国における商工業の中心であるルソン島では、過去10年で新たに建設された主要発電所は1つだけ。大半は、20年前の電力危機時に建てられたものだ。
フィリピン輸出業者連盟のセルジオ・オルティス・ルイス会長は「われわれは長期的に策定されるプロジェクトを話題にしている。もし新たな発電所が2016年までに建設されないと、大きな問題に直面する」と述べた。
例えば60万人を雇用するコールセンター業界の場合、フィリピン・コールセンター協会によると、16年までに15%成長して年間で150億ドルの収入を確保することを目指しているが、電力危機に見舞われればその達成は難しくなるという。
<発電量の増強>
フィリピンのエネルギー省の最新計画では、同国の総発電量は今年約1万5300メガワット(MW)に達し、17年までの4年間でさらに2500MWの能力を増強する必要がある。
発電量全体の4分の3程度を占めるルソン島は、17年までに1600MWを増強しなければならないとされる。これは当初見積もっていた1130MWよりも大きな数字だ。
しかし電力業界団体のフィリピン独立電力生産者協会は、ルソン島が17年までに必要とするのは政府見通しの2倍の3280MW前後だとしている。経済成長が想定よりも速く、需要がより駆け足で伸びているため、フィリピン全体では少なくとも3860MWの積み増しが不可欠になるという。
発電所の新規建設や発電能力の増強を切望しているのは、アボイティス・エクイティ・ベンチャーズやアヤラ、サンミゲルといった国内最大手の複合企業などだ。
民間電力会社が現在計画中、ないしは売り込みを行っているプロジェクトによると18年までに合計で4400MW程度発電量が増えることになる。
もっともこれらの計画の多くは、環境保護団体の反対運動や需要先からの長期購入契約を取り付けるのを待つ動きなどで、進行が遅れそうだ。
<電力確保に不透明感も>
フィリピン電力最大手のマニラ電力は、スービック自由港区に12億ドルを投じて600MWの石炭火力発電所建設を目指すための企業連合を主導している。
ただ既に当初の2016年という商業運転目標は1年後ずれした。同社のオスカル・レイエス社長はロイターに対して、環境問題に絡む訴訟を理由に挙げた。
アボイティス・パワーと丸紅<8002.T>の合弁によるルソン島の発電所の400MW増強計画も反対にあっている。
電力各社は、企業からの長期購入契約を確保せずに発電所建設計画を進めることにも懸念を示しているが、需要企業の側ではこうした契約の締結には慎重な姿勢で、建設計画をさらに遅らせる要因となっている。
エネルギー省当局者は、ルソン島は16年までに十分な電力供給を得られるはずだと主張する。
それでも電力会社はそこまで確信が持てず、さらに維持管理の手間がより多くかかる比較的古い発電施設に依存すれば、それは停電の発生が増えることを意味するだろうと警告している。
輸出業者連盟のオルティス・ルイス会長は「ミンダナオ島のビジネスマンは苦労している。ルソン島では十分な予備があるように思われるが、代わりが存在しなければこうした予備はすぐに食いつぶされてしまう程度のものだ」と指摘した。
(Erik dela Cruz記者)

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