成長戦略に失望し株安・円高、参院選後の抜本策期待も

成長戦略に失望し株安・円高、参院選後の抜本策期待も
6月5日、安倍晋三首相の「成長戦略」第3弾に対し、市場には失望感が広がったが、期待が消えたわけではない。写真は5月、都内で撮影(2013年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 5日 ロイター] - 安倍晋三首相の「成長戦略」第3弾に対し、市場には失望感が広がったが、期待が消えたわけではない。参院選で自民党が勝利して安定政権を確保すれば、今度こそ潜在成長力を高めるような抜本策を打ち出すことができると期待する見方が多い。
ただ、既得権に切り込むような構造改革には反対圧力が強まるのは必至で、「真の成長戦略」を策定できるかは依然不透明だ。海外の長期投資家が様子見姿勢を続けるなか、短期筋のポジション巻き戻しによる株安・円高が進んでいる。
<短期筋が円買い・株先売り・債先買い>
安倍首相が5日の講演で示した「成長戦略」第3弾は「国家戦略特区」の創設や対日投資の加速策、一般医薬品のネット販売解禁などほぼ事前報道通りの内容だった。しかし、一部の海外勢などは期待の「ハードル」を高めていたとみられ、円買い・株先売り・債先買いが加速。ドルは再び100円を割り込み、日経平均<.N225>は518円安と今年3番目の下落を記録、1万3000円の節目に接近した。
「海外勢の一部には、法人税の引き下げや年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用方針見直しについて言及されるとの期待感があったほか、日本株の最近の急落で、リップサービス的なサプライズがあるかもしれないとの予想も出ていたことで、高い期待感に対しての失望が強まった」(外資系証券)という。
ただ、短期筋の売買に振らされた面も大きい。安倍首相の講演が始まった直後、日本株はいったん買われたが、サプライズがないとわかると一転売りが膨らんだ。「ボラティリティが高過ぎて、長期投資家などは手が出せない。薄商いの中を短期筋の売買がわが物顔で相場を動かしている。成長戦略への評価というよりも、短期売買の材料に使われただけ」と証券ジャパン・調査情報部次長の野坂晃一氏は指摘する。
売り方の「武器」は高水準の裁定買い残だ。東証のデータでは、裁定買い残は5月17日にピークを付けた29億株から、5月30日には26億株まで減少したが、「ここ数日の急落を経てもまだ売り方の武器としては十分な大きさだろう」(国内証券)とみられている。日経平均のオプションのプット建玉も1万3000円に集中しており、割ればヘッジ売りが加速するため、大台下抜けを狙いに来ている可能性もある。
<長期投資家の日本株評価は変わらず>
海外の長期投資家は日本株への見方を変えたわけではないという。立花証券・顧問の平野憲一氏は「海外のミューチュアル・ファンドや年金ファンドなどは、依然として押し目でのバイアンドホールド戦略を続けている。日本株に対しての見方が何か変わったわけではない」と話す。
5月22日には17.3倍だった日経平均の予想株価収益率(PER)は14.5倍まで低下してきた。ドル/円は100円を再び切ってきたが、企業の想定為替レートである90─95円にはまだ余裕があり、上方修正要因には変わりない。金融緩和の「出口」が視界に入る米国に対し、デフレ脱却を目指す日本の金融緩和はしばらく続く可能性が大きく、この点からの円安圧力は継続する。
市場では、参院選で自民党が大勝すれば、経済政策を放り出し、改憲などにいそしむのではないかとの懸念もあるが、「大事業」に取り組むには、国民の高い支持率が不可欠。そのためには経済対策をしっかり行うことが重要になる。参院選で自民、公明両党が過半数を回復し、安定政権を確保すれば今度こそ潜在成長力を高めるような抜本策を打ち出すとの期待もある。
<市場の期待はサプライサイド戦略>
市場が期待するのは、サプライサイドの成長戦略だ。「日本経済がインフレなき持続的な経済成長、いわゆるゴルディロックス・エコノミーに中期的に移行することを予感させる抜本的なサプライサイド政策が必要だ」とシティグループ証券・エコノミストの飯塚尚己氏と話す。
サプライサイドの政策とは、財政拡大などで需要拡大を促すディマンドサイド政策に対し、減税や規制緩和による新規産業の立ち上げで、供給側の競争力を高めて経済浮揚をねらう考えだ。設備投資の活性化による資本ストックの若返りや、潜在的な労働供給力の拡充、研究開発に対するインセンティブ供与、産業や企業の「新陳代謝」を活発化させることなどで生産性の向上を図る。
ただ、政府が資金を供給するディマンドサイド政策に反対は少ないが、時には既得権に切り込まねばならないサプライサイド政策には反対も強くなる。市場では「成長戦略を並べたとしても実行できるかは極めて不透明だ。これまでの政権はみなそうだった。抵抗勢力の反対を押し切る強い意志が安倍首相にあるかはまだわからない」(国内投信エコノミスト)との懸念は根強い。
BNPパリバ証券・日本株チーフストラテジストの丸山俊氏は「成長戦略」について「向こう1─2年の国内総生産(GDP)増大に寄与しやすい財政政策や金融政策と異なり、今回の成長戦略は消費者や企業の行動自体を変えていくことで長期的な経済成長を促すものであり、長期投資家の資金をいかに日本に引きつけられるかが重要だ」と述べている。
(伊賀 大記 編集:田巻一彦)

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