インタビュー:物価目標、国債バブル破裂リスクも=民主・津村氏

インタビュー:物価目標、国債バブル破裂リスクも=民主・津村氏
3月18日、民主党の津村啓介衆議院議員は、黒田新日銀体制が2年で2%の物価目標達成を目指す意向を示していることについて、非常に大きなリスクを伴うと指摘した。写真は都内の日銀本店。2月撮影(2013年 ロイター/uya Shino)
[東京 18日 ロイター] 民主党の津村啓介衆議院議員は、黒田新日銀体制が2年で2%の物価目標達成を目指す意向を示していることについて、非常に大きなリスクを伴うと指摘。流動性の低い資産を抱えることで、出口のない迷路に迷いこむ可能性があるとし、対応を間違えれば国債バブルをはじけさせるリスクがあると警戒した。
出口戦略も見据えた政策運営の重要性を強調。金融実務を熟知した中曽宏新副総裁の手腕に期待した。
元日銀マンの津村氏は、前原誠司ネクスト財務・金融担当大臣(前経済財政相)の意向を受けて、衆院での日銀正副総裁候補の所信聴取を担当した。黒田東彦総裁については4月9日以降の任期について再度国会で採決が行われるが、津村氏は「白紙の状態から評価する」とし、リスクマネジメントについて説得的な説明が得られるかがポイントになると語った。
インタビューの概要は以下の通り。
──民主党は黒田氏・中曽氏については同意、岩田規久男副総裁は不同意とした。賛否の理由は。
「今回の判断基準は多岐にわたったが、特に力点を置いたのが中央銀行の独立性だった。いま政府、一部野党が中央銀行の独立性というこれまでの資本主義の経験則に挑戦してきているなかで、世界的にも日銀の独立性が注目される局面で、日本国としてどういう姿勢を示すか問われた重要局面だった。日銀の独立性に対する見識がひとつの大きなポイントだった。
もうひとつが、前例のない非伝統的な金融政策をさらに拡大していく局面で、金融実務への理解も大きなポイントだった。夢物語を語られても、マーケットから見透かされる。第3が、かつてなく、日本の金融政策に対する国際的な理解が求められる状況のなかで海外への発信力や(候補者の)ネットワークだった」
「黒田氏は当初、中央銀行の独立性やアベノミクスとの距離において疑問符があり、所信聴取でも質問が集中した。しかし、政財再建への重要性や財政ファイナンスとみられることへの慎重な姿勢、中央銀行の独立性について、中央銀行総裁候補として当事者(となること)を意識して発言されたことは党内で高く評価された。
中曽氏については、今後アベノミクスの副作用として金融システムの動揺が懸念されるなかで手堅い実務能力を評価した。
問題は岩田氏だった。中央銀行の独立性に対する考え方の違いが一番大きかった。2年で2%という高い物価目標達成を掲げる一方で、実務的にどうやって実現するのか、副作用をどうマネージするのかといった点での答弁が抽象的で実務能力の点で疑念を抱かざるをえなかった。もっとも、2年で2%目標が達成できなかった場合には最高の責任の取り方は辞職することだと明言したことは、重く受け止める」
──白川方明総裁が任期前に退任したため、黒田総裁については、白川氏のもともとの任期(4月8日)終了後の5年間について、あらためて国会で採決される。桜井充政調会長や前原氏は「不同意もある」と厳しい見方をしているが。
「最初の1カ月で『黒田日銀』の性格がはっきりする。賛成含み、不同意含みではなく、白紙の状態から評価する」
──判断のポイントは。
「どのタイミングでどういう内容の緩和策を打ち出すか。その際、従来の日銀に比べれば多くのリスクを抱えることになる。そのリスクマネジメントについてどのように説得的な説明をするか(がポイントになる)」
──「2年で2%物価目標」達成は可能か。
「不可能な数字ではないが、非常に大きなリスクを伴う。コストプッシュ型のインフレになるか、ディマンドプル型のインフレになるか、物価上昇の中身にも注目しなければならない。春闘で、重厚長大産業はもとより、必ずしも円安のメリットを享受しているわけでもない小売業界も含めた幅広い業態で賃上げの方向が出てきていることは歓迎する。今後、消費者の購買意欲を刺激することになれば、望ましいことだ」
──副作用・リスクは何か。
「消費税増税の時期が1年後に迫り、来年度も大型補正予算を編成するという議論が出てきたときに、日銀の金融緩和政策が財政ファイナンスとしての性格をより強く帯びるなど、難しい局面が予想される。金利上昇につながりかねない」
「市場は格付け会社も含め、いまは好意的にみているが、行財政改革や成長戦略が進まないなかで、仮にこの1年成果があがらないとすれば来年(度)の大規模な財政出動に対して、ネガティブに反応する可能性も高い」
──2%物価目標達成のために買い入れ国債の長期化を挙げている。出口戦略がより難しくならないか。
「出口戦略について、流動性の低い資産を抱えることになるため市場を歪めない形でバランスシートを圧縮していくことが非常に困難になる。その意味で、『出口のない迷路』に迷い込む可能性がある。対応を間違えれば、マーケットを大きな混乱に陥れ、国債バブルをはじけさせる可能性もある。そうなればアベノミクスの成果をすべて食い潰してしまうような大きな副作用に反転する可能性が懸念される」
──出口戦略を練るうえで十分な体制といえるか。
「その点で、金融システムのリスク管理、金融市場調節に熟知した中曽副総裁の役割は大きい。中曽氏が、黒田氏、岩田氏に対してしっかり物を言えるのか(がポイント)。3人が適度な緊張関係をもって政策運営を行うことが重要で、中曽氏には、国会同意人事で選ばれた政治任用の日銀副総裁であって、決して総裁の部下という意識をもってもらいたくない」
──黒田体制5年間の課題は。
「前半と後半を分けて考える必要がある。前半の2年間で2%の物価目標が実現できるかどうか。できなかった場合、自ら辞職すると述べている岩田副総裁は当然責任を負わなければならない。その時、黒田総裁の責任は生じないのか。あえて注文を付けるとすれば(金融政策は)財政健全化、成長戦略の実現とバランスをとりながら進めてもらいたい」
「問題は後半の3年間で、出口のない迷路に迷い込まないよう細心の注意を払って進めていく必要がある。中曽氏の発信力・行動力に期待するが、一抹の不安はぬぐえない」
──日銀の独立性は担保されるか。
「現行の日銀法は権威もありよくできた法律だ。法改正がテーマとしていったん後退したことに意義がある」
(ロイターニュース 吉川裕子;編集 石田仁志)

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