焦点:アジアで進む「iPhone離れ」、背景に韓国ブームも

焦点:アジアで進む「iPhone離れ」、背景に韓国ブームも
1月28日、米アップルの成長の原動力となってきた「iPhone」だが、シンガポールや香港などアジアの裕福な消費者の間では人気に陰りも出始めている。シンガポールの電車の中で26日撮影(2013年 ロイター/Edgar Su)
[シンガポール 28日 ロイター] 米アップルの成長の原動力となってきた「iPhone(アイフォーン)」だが、シンガポールや香港などアジアの裕福な消費者の間では人気に陰りも出始めている。
シンガポールでは、2010年時点ではアップル製品がスマホ市場をほぼ独占しており、人口1人当たりで見ると、同社の基本ソフト「iOS」搭載機が世界一多い市場となっていた。ただ、人とは違った端末を持ちたいという「iPhone離れ」も出てきており、市場にiPhone以外の選択肢も増えたことで、アップルのシェアは韓国サムスン電子<005930.KS>の「ギャラクシー」などに侵食されている。
ハイテク関連調査会社スタットカウンターによると、シンガポールでのiPhoneとタブレット端末「iPad」の市場シェアは、2012年1月に72%でピークを迎え、今月に入ると50%にまで急減。一方、米グーグルのOS「アンドロイド」搭載機のシェアは現在43%と、1年前の20%から倍増している。また香港でも「iOS」の市場シェアは1年前の約45%から足元で約30%に低下。アンドロイド系が全体の3分の2近くを占めるまでになった。
音声SNS(ソーシャルネットワークサービス)アプリ「バブリー」を開発するバブル・モーションのトム・クレイトン最高経営責任者(CEO)は、「アップルはまだ一流ブランドと見られているが、他にもクールなスマートフォンは非常に多く、競合は以前よりはるかに厳しい」と語る。
また、シンガポールを拠点とするモバイルアプリ開発会社ジャム・ファクトリーのジム・ワグスタッフ氏は「シンガポールと香港は、エレクトロニクスの観点から言えば、アジアでの流行だけでなく、西欧や北米で何がホットになるかを占う先行指標になりやすい」と指摘する。
香港やシンガポールで起きていることは、急成長する他のアジア主要市場にも波及することが多い。調査会社GfKによると、東南アジアでのスマホ関連支出額は、2012年9月までの1年間で前年比78%増加した。
<若者のアップル離れ>
「iPhone離れ」の例を見つけるのは、難しいことではない。香港やシンガポールの地下鉄では、1年前まではiPhoneが圧倒的な存在感を示していたが、今ではサムスンや台湾HTC<2498.TW>のスマホに数で圧倒されている。
その理由の一端は、価格面でも幅広いラインナップがそろうアンドロイド系端末の普及で説明がつくが、消費者のアップル離れを示す別の兆候もある。
割り勘アプリ「ビルピン」を最近リリースしたシンガポールの起業家アイリーン・シム氏は、同アプリのターゲット市場であるシンガポールとインド、米国の3カ国で圧倒的優位に立つiOS向けの開発をまず決めたものの、「アンドロイド向けの要望がいかに強いかに驚かされた」と語る。
実際、20代の大学生や新卒など同アプリのターゲットユーザーの70%は、すでにアンドロイド端末を所有しているか、乗り換えを検討しているという。
「アンドロイドを無視するのは本当に難しくなっている」。こう語るシム氏の周りでは「20代前半のいとこたちも、今ではもっぱらアンドロイド寄り」となっており、「ビルピン」は今月に入ってアンドロイド版もリリースされた。
香港を拠点とするマーケティング会社グラビタス・グループの最高戦略責任者(CSO)ナポレオン・ビッグス氏によると、香港ではアップルとiPhoneがプレミアムブランドの座を維持しているが、サムスンの販促努力も消費者受けが高まっているという。
一部のユーザーにとっては、iPhoneユーザーよりも目立てるかどうかだけが問題なのかもしれない。ただ、アンドロイドの方が処理能力に優れ、画面サイズも大きく、動画閲覧や漢字入力など自分たちの使い方に向いていると考えるユーザーもいる。人気アプリの多くはiPhoneにもアンドロイドにも対応しており、端末の乗り換え費用はそれほどかからない。
ビッグス氏の言葉を借りると「香港は非常に気まぐれな場所」だ。
香港で広告関係に携わる25歳のジャネット・チャンさんは、iPhone5を持っているが、バッテリーの消費が早いのと、動画を見るには画面の大きさが物足りないため、サムスンの「ギャラクシーノートII」への乗り換えを考えているという。「スティーブ・ジョブズ亡き後、(アップルの)製品発表でサプライズ要素はもう大したことがない」とも語る。
確かに、アップル製品を購入する人は依然として多い。インドネシアなどでは、クリスマス商戦でアップル製品を取り扱う店舗は大にぎわいを見せていた。香港で新しくオープンしたアップルストアでも、ほぼ毎日のように行列ができている。
しかし、流行発信地である香港やシンガポールでのiPhone人気の低下は、他のアジアの高級ショッピングモールでも見られる。
「iPhoneはルイヴィトンのハンドバッグみたいなものだ」。タイのバンコクで取材に応じたマーケティングマネジャーのナリサラ・コングルア氏は「iPadやiPhoneを持つ人があまりにも多くなったため、所有することの格好良さが失われた」と指摘する。自身は「ギャラクシーS III」のユーザーだ。
インドネシアの首都ジャカルタでも、こうした声は聞かれる。コカ・コーラの現地合弁会社で働く男性も、iPhoneはかつては「クールなガジェットだったが、今はユーザーがますます増えている」と冷ややかだ。
また別の要因としては、韓国人気の高まりも挙げられる。Kポップや韓国映画、韓流ドラマはアジアでは大人気で、サムスンはその波に乗っている。香港やシンガポールでその傾向は顕著だが、タイなどでも韓国ブームの影響は見られる。
バンコクのマヒドル大学に通う24歳の学生は「タイ人はそれほどブランドにはこだわらない。だからこそ流行やブームはすぐに広がる。私たちは韓国を追いかけているので、韓国ではやっているものなら何でも大ヒットするはず」と語った。
(原文執筆:Jeremy Wagstaff、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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