焦点:米アマゾンとグーグル、2013年は「衝突」不可避

焦点:米アマゾンとグーグル、2013年は「衝突」不可避
12月23日、米アマゾンとグーグルの競合分野が増えるに伴い、2013年は両社の「衝突」は不可避だとみられる。写真はアマゾンのベゾスCEO。9月撮影(2012年 ロイター/Gus Ruelas)
[サンフランシスコ 23日 ロイター] 米オンライン小売大手アマゾン・ドット・コムと米インターネット検索大手グーグルのライバル関係は、アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)が10年前、グーグルのデジタルカタログ計画を知った時に芽生えていた。
グーグルの同計画はベゾスCEOにとって警鐘を鳴らすものだったに違いない。アマゾンの元幹部によると、ベゾス氏はグーグルがアマゾンの領域に踏み込んでくる可能性を警戒していた。「(ベゾス氏は)グーグルにとって本当の意味での成功は、全ての書籍をスキャンしてデジタル化し、電子版として販売することだと認識していた」という。
オンライン広告や小売り、モバイル端末やクラウドコンピューティングに至るまで、アマゾンとグーグルがぶつかる分野が増えるに伴い、2013年は2社の競争が激化するとみられる。
両社がこれまで協力していた分野でさえ「どんでん返し」が起きる可能性もある。例えば、アマゾンが同社の新型タブレット端末「キンドル・ファイア」に、グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」の必要最低限の機能だけを搭載するとの決定は、2社の緊張関係を高めることになりかねない。また、グーグルが傘下に収めたモトローラ・モビリティでの野心的な計画も別の懸念材料だ。
アマゾンとグーグルの争いは、競合企業が互いの領域に進出し合い、激しい闘いを繰り広げているIT業界の最前線を示すものだ。そして、両者の背後では、米ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)大手フェイスブックが、独自の検索機能と広告分野で事業拡大を狙っている。
「アマゾンは何でも買える場所でありたいとする一方、グーグルは何でも探せる場所であろうとする」。こう指摘するのは、ベンチャーキャピタルのクレイナー・パーキンス・コーフィールド&バイヤーズ(KPCB)のパートナー、Chi-Hua Chien氏。「グーグルにとっては買い物もその一部であり、こうした事実を考え合わせれば、自然と衝突が起きるのは明らかだろう」と語った。
グーグルの株式時価総額は約2350億ドルとアマゾンの2倍に上るが、その主な理由は、大きく開いた両社の純損益にあると言える。トムソン・ロイターI/B/E/Sによると、アナリストは今年のグーグルの純利益は132億ドルに上ると予想。一方、アマゾンの純損益は赤字とみられている。
アマゾンが成長に向けた投資を続けるのを株主はじっと辛抱しているが、同社はいずれ力強い利益を生み出していくことが求められる。それは広告のような高い利益を生み出す分野においてだろう。一方、グーグルの株価は、利益率の伸び鈍化の兆しに影響を受けやすい。
<広告で衝突>
ベゾス氏がグーグルのカタログ計画を知って間もなく、アマゾンは書籍のデジタル化に着手し、その引用文を検索可能にした。前述のアマゾン元幹部は、それから数年後に発売された同社の電子書籍端末「キンドル」が、グーグルのカタログ計画から受けたインスピレーションに負うところが大きいと明かした。
現在、アマゾンはオンライン広告事業に注力し、グーグルの検索サイトから広告収入やユーザーを吸い上げようとしている。ただ、アマゾンの広告事業はまだグーグルの何分の1かにすぎない。
ロバート・W・ベアードの推計によると、アマゾンの年間広告収入は約5億ドルで、同社の2011年の売上高が480億ドルだったことを考えれば微々たるものだ。一方、グーグルは2011年の売上高380億ドルの96%を広告事業から計上している。
しかし、アマゾンが新しく開発した「DSP」技術でそれは一変するかもしれない。同技術により、アマゾンが持つ大量の顧客の購入履歴を使い、特定のターゲット層に向けた広告に役立てることができる。
大手広告主を顧客に持つオーディエンスデータ購入企業、Xaxisのマーク・グレーザー最高執行責任者(COO)は「広告主の観点から言えば、アマゾンのデータは実際、グーグルのよりも良い」と語る。グレーザー氏によると、アマゾンとXaxisは現在、広告販売でパートナーシップ関係を結ぶべく協議中だという。この件について、アマゾンからの返答は得られていない。
<出発点>
アマゾンは広告を売ることで、小売事業より高い利益率を得ることが可能だ。自社のサイトでは販売していないかもしれない商品であっても、その商品の広告を掲載することで、アマゾンはインターネットで買い物をしようとする消費者の出発点としての地位を確立できる。
IT調査会社フォレスターによると、第3四半期に米国でオンラインショッピングをした人の30%が、アマゾンのサイトで買い物の検索を開始したと答えた。一方、グーグルのような検索エンジンを出発点としたとの回答は13%。2年前は検索エンジンと答えた人の方が多く、今回は逆転したかたちだ。
アマゾンは現在、商品の検索結果に近いスペースで広告を販売している。調査会社コムスコアによると、第3四半期の同社サイトにおけるディスプレー広告の表示回数は67億回で、前年比では3倍以上となった。
こうしたアマゾンの初期段階における成功は、商品検索とその広告を事業の柱とするグーグルにとって「重大な懸念」だと、マッコーリー・リサーチのアナリスト、ベン・シャクター氏は指摘する。
対抗措置の一環として、グーグルは最近、自社の商品検索サービス「Google ショッピング」で小売業者などに対し、検索結果への掲載料を請求するなどしている。
アマゾンの内部事情に詳しい関係筋によると、ベゾス氏はアマゾンがグーグル経由のトラフィックに依存することにずっと懸念を抱いてきたという。
<高まる緊張>
グーグルのアンドロイドは好調とはいえ、モバイル検索広告の収益化や、ゲームや音楽などのデジタル商品の販売を利益にどう結び付けるかは確立できていない。フォレスターのアナリスト、Sucharita Mulpuru氏は「もしグーグルがモバイル広告で収益モデルを築くことができるなら、同社にとってまさに第2幕が始まることになる」と指摘した。
しかし昨年、アマゾンはグーグルへの攻撃を開始。自社端末のキンドル・ファイアでは、デジタル音楽やアプリストアといったグーグルの稼ぎどころと言えるサービスを独自のものに切り替えた。
コンピューターサイエンスが専門のワシントン大学オーレン・エチオーニ教授は、アマゾンが米アップルと同様、「自社端末上でのユーザー経験をコントロールしたい」と指摘。これがグーグルには面白くないのだろうと述べた。
アマゾンとグーグルはクラウドコンピューティングでも衝突している。
アマゾンはクラウド事業を6年以上前に立ち上げ、データの保存や処理のほか、さまざまなサービスをインターネットを通じて提供している。一方、グーグルが同分野に参入したのは今年になってから。ただ、エチオーニ教授は、急成長している同市場ではシェア獲得の余地はまだあるとし、「グーグルにもまだチャンスはある。アマゾンは初期段階でリードしているが、まだほんの始まりだ」と述べた。
<やるかやられるか>
とはいえ、モバイル端末やクラウドコンピューティングの分野は、広告や電子商取引といった数十億ドル規模のビジネスと比べれば、まだとても小さい。
グーグルは最近、オンラインショッピング用ロッカーサービスの「BufferBox」を買収したほか、サンフランシスコで当日配送をテストするなど、オンライン小売業界での役割拡大に大きな意欲をのぞかせている。
同社は小売事業の計画の全体像を明らかにしていないが、一部アナリストは、当日配送や「受け取り」ロッカーが、既存オンライン広告事業の拡大に役立つ価値あるサービスだとみている。ニーダム&カンパニーのケリー・ライス氏は、例えば靴の広告なら、近くのロッカーで受け取れると宣伝することができると指摘する。
もしグーグルが検索と配送を自社で行うことができるなら、アマゾンと同じ経験をユーザーに提供することができるだろう。
グーグルは今年に入り、納品スピードなど信頼のおける店にバッジを付与するプログラム「Google Trusted Stores」を開始。同プログラムで認定された店で買い物するユーザーは、問題が発生した場合に1000ドルを上限に保証されるなどのサービスを受けられる。
また、フォレスターのMulpuru氏によると、グーグルは商品のデータベースを作成し、同社の支払いサービス「Google ウォレット」を通じたスピーディーな買い物方法を紹介することも可能だ。グーグルはその後、顧客に商品を出荷する小売業者に情報を送ることになる。
マッコーリー・リサーチのシャクター氏は、この能力は決定的に重要だと指摘。もし顧客がグーグルを通して商品を購入できないなら、アマゾンや米電子商取引大手イーベイに遅れをとることになると述べた。
(原文執筆:Alexei Oreskovic記者、Alistair Barr記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)

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