米量的緩和、年内縮小・来年半ばに停止も:識者はこうみる

米FOMC声明、緩和縮小の手掛かり示さず:識者はこうみる
6月19日、米FRBは、FOMC後の声明で、月額850億ドルの資産買い入れを継続する方針を明らかにし、買い入れ縮小に着手する時期が近付いているかについては何も手掛かりを示さなかった。写真はワシントンのFRBで2012年6月撮影(2013年 ロイター/Yuri Gripas)
[ワシントン/東京 19日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は19日、米連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明で、月額850億ドルの資産買い入れを継続する方針を明らかにした。バーナンキFRB議長は、FOMC後の会見で、年内に資産買い入れの縮小に着手し来年半ば頃に買い入れを停止するとの見方を示した。
バーナンキ議長は、経済の向かい風が弱まるのに伴い、緩やかな成長が雇用市場を継続的に改善させる見通しとし、インフレについてもFRBの長期目標である2%に向かって上昇すると見込んでいると述べた。
市場関係者の見方は以下の通り。
●緩和縮小、ドル高トレンドへ
<三井住友信託銀行 マーケット・ストラテジスト 瀬良礼子氏>
ドル/円は株安と緩和縮小観測の板挟みにあるが、先月は株安に反応して円高に振れたのに対し、今回は株安にもかかわらず、円安に振れた。米連邦公開市場委員会(FOMC)声明はほとんど何もなかったが、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長がかなり突っ込んで(緩和縮小の)タイミングなどを話したので、緩和縮小とドル高トレンドが見えたのではないか。
バーナンキ議長は、経済指標が経済見通しとほぼ一致すれば「measured steps(慎重な段階を踏んで)」で縮小していくと説明した。毎月少しずつ減らすのではなく、ある程度の段階を踏みながら、縮小するやり形にするのだろう。中身については今後、思惑が出そうだ。スタートするタイミングは雇用に依存しているので、今後は雇用関連統計に注目が集まりやすくなり、その結果で相場が振らされることもあるかもしれない。
●ポートフォリオ・リバランス促されやすい
<RBS証券 チーフ債券ストラテジスト 福永顕人氏>
バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長の記者会見の発言で、今の景気見通し通りであれば、資産買い入れのペースは今年後半に減速させ、来年前半にさらに減速させ、中盤には買い入れを終えると、向こう1年分にわたってかなり具体的なプロセスを示した。もちろんデータが上振れ、下振れした場合には調整するとの発言だが、声明文にも書いていないことに対して、中央銀行のトップが長期にわたる政策方針を言うことはかなり異例と思われる。従来よりはタカ派的なスタンスに変わったととらえることができる。
これを受けて、米債は大幅にベアフラット化、金利上昇かつ5年債が一番売られる展開になった。時間軸が短期化したイメージになっている。為替相場への影響はドル高・円安基調になると、日銀の物価目標に対する可能性が高まることになる。また、米債金利上昇ということで、相対的な魅力が高まるため、国内投資家のポートフォリオ・リバランスが促されやすくなる。この2点の要因において、円債には売り圧力になる。日本の10年物利回りは、向こう3カ月で見ると、0.8%から1.05%と、レンジが切り上がるイメージを想定している。
●時間軸効果が揺らぎ始めた
<JPモルガン証券 チーフ債券ストラテジスト 山脇貴史氏>
米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて米国金利が大きく上昇したのは、資産買い取りの縮小に関するコメントも影響したのだろうが、政策金利見通し(利上げ見通し) がタカ派であったことが最大の要因ではないか。
買い取り縮小に関しては、緩和継続要因と緩和終了要因が混在し、全員が満足する形で終了することは難しい。しかし、バーナンキ議長は、その縮小に向けたメッセージを発することや、縮小によって多少金利が上昇することに覚悟を決めたようだ。ただ、バーナンキ議長が示した「年内に縮小開始・来年央に停止」というスケジュール感は、ほぼ市場のコンセンサス通りだった。
一方、時間軸についてはFOMCメンバーよる2015年末の政策金利予測は3月時点では平均0.77%だったが、6月時点では平均0.97%に上昇している。今後2年間は利上げが実施される可能性が低いという前提であれば、米10年金利は2%近傍という見通しが正当化されるが、時間軸が1年半程度になれば2.5%近傍でも不思議ではない。
もっとも、こうした影響は日本の債券相場の「重し」になるだろうが、円金利がそれに追随して金利上昇への振れ幅を大きくする展開は今のところは想定していない。日本の10年物利回りは7月から9月にかけては0.60%から0.80%を中心にしたレンジで推移するとみている。
●緩和縮小はやや早めの印象だが、混乱の未然防止の効果も
<三井住友アセットマネジメント シニアストラテジスト 濱崎優氏>
緩和縮小の時期は、年明け後最初の米連邦公開市場委員会(FOMC)だと思っていたので、今回表明したのはやや早かったという印象を受けた。実際に発表された経済見通しでは、完全失業率の下方修正(改善)が目立ち、政策目標である6.5%が2014年に早まるという見通しのため、緩和終了の時期がその分早まったと見られる。
今回のFOMCで、意義を見出すならば具体的な出口戦略を表明することで、市場が混乱することを未然に防ぐ効果があることと見ている。
市場は金利上昇、株価下落という素直な反応を示したが、金融当局の意思が見えてきたことで、市場が無用な混乱に陥るリスクが小さくなることが期待される。
●QE縮小の基本線示され市場やや落ち着く
<三井住友銀行 チーフ・エコノミスト 山下えつ子氏>
今回のFOMC(米連邦公開市場委員会)の影響は2つある。QE(量的緩和)縮小を年後半に始めるというベースラインが示されたので、ドルの金利は将来をにらんで少し上がるか、安定的に推移するかになるだろう。金利の観点からは、ドルが下落するよりも上昇するか安定的に推移するということになる。
もう1つの影響として、この1カ月くらい相当グローバルにマーケットが荒れていたが、今回のFOMCでQEの縮小方針が示された結果、今後、グローバル、特にエマージングのマーケットがどのように動いて、結果的にグローバルの景気にどのような影響が出てくるのか見極める必要がある。リスクオフという形になれば、株安で円高というシナリオになってしまう。逆にリスクオフが強まらず、「QE縮小が粛々と行われる」という見方になればドル買いの方が強くなり、ドル/円は値を戻してゆく方向になるだろう。
シナリオとしてはどちらも描くことはできるが、どちらかと言えば日本株も含めて大きく調整が進んでいるので、FOMCで少し見通しがはっきりしたところでマーケット全体がやや落ち着くだろう。円高に大きく揺り戻されたものが、円安に戻って行くという展開の方が確率としてはあるとみている。
ただ当面は、米雇用統計など米国の経済指標を見ながら、QE3が縮小され始める2013年後半とは具体的にいつなのか探ることになり、金利も一方的に上昇したり低下したりはできなくなる。きょうの反応が一巡してしまえば、短期的には経済指標を見ながら上下することになるだろう。
●縮小時期の明確化で不透明感払拭、今後は米経済指標を吟味
<立花証券 顧問 平野憲一氏>
いつかは資産購入プログラムの縮小を示唆すると想定していたが、マーケットが過敏になっている今回の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示されるとは思わなかった。ただ年内の縮小は概ね市場コンセンサス通りであり、縮小時期が明確化されたことで不透明感が払しょくされるのではないか。膨らんだ緩和マネーの巻き返しは警戒されるが、マーケットにはある程度織り込み済みの感もあり、今後は米経済指標をしっかりと分析していく段階に入るとみている。
前日の米国株は急反落したが、ダウ工業株30種<.DJI>は200ドル程度の下げでとどまり、節目の1万5000ドルを維持した。東京市場にとってはドル高/円安が支えとなり、割安感などが意識されれば主力輸出株を中心に物色されるだろう。新興国市場の動きが良くないなかで、投資資金が日本株に向かいやすい状況になっていることも支援材料だ。
●懸念される株安の波及、緩和マネー巻き戻しなら円債買い戻し
<みずほ証券 チーフ債券ストラテジスト 三浦哲也氏>
米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて米債相場が急落した。FOMCで景気判断の小幅上方修正に驚きはなかったが、バーナンキFRB議長が量的緩和第3弾(QE3)の圧縮時期について、具体的な言及をしたのはサプライズだった。米債市場はベア相場が続いていたため、市場参加者のリスク許容度の低さを露呈した印象だ。
米時間軸政策が採用された2011年8月9日以降、5年債利回りは1.25%を超えることはなかった。2─10年スプレッドの200bpを超えることも少なかった。こうした節目を超えて米金利が上昇したことは、イールドカーブの低位安定という米債市場の、構造変化に向けたシグナルなのかもしれない。
米連邦準備理事会(FRB)が実際にQE3圧縮に踏み切るかどうかは夏場以降の経済指標次第。指標次第では圧縮先送りの可能性も残る。
FOMCに過剰に反応した金融市場。米債急落を受けて、円債市場ではいったん売りで反応するだろう。注目は株安の波及だ。緩和マネーの巻き戻しへの思惑から、アジア市場の株価が大きく下げるようだと、円高が進展。グローバル市場の混乱リスクにつながるようだと円債に買い戻しが入るかもしれない。
●来年半ばまでに緩和終了の可能性、ややサプライズ
<DAデイビッドソンの首席市場ストラテジスト、フレッド・ディクソン氏>
バーナンキ議長は9月の緩和縮小の可能性を排除した。ただ、年末に向けて資産買い入れを縮小する可能性や来年半ばまでに終了する可能性に関する彼のコメントは、ある程度の明確さを提供したものの、ややサプライズとなった可能性がある。
資産買い入れプログラムの終了時期について初めて手掛かりを与え、これに市場が反応した。
●向こう最低数カ月は緩和縮小ない、超低金利は今後も継続へ
<クリアビュウ・エコノミクス(オハイオ州)のケン・メイランド社長>
米経済は平均的な成長率を回復しているだろうか。雇用者数は月間で20万人の伸びが続いているだろうか。物価は極端に上昇し、物価の伸び見通しは目標を上回っているだろうか。答えはいずれも「ノー」だ。したがって、少なくとも向こう数カ月間で金融緩和の「縮小」はないと考えるべきである。金融市場は考え過ぎている。超低金利による極度の金融緩和はかなりの長期間、依然継続される公算が大きい。
●米経済に楽観的、株式投資控える必要なし
<オッペンハイマーファンズ(ニューヨーク)の上級エコノミスト、ブライアン・レビット氏>
米連邦準備理事会(FRB)は明らかに米経済についてこれまでより楽観的で、われわれも目にしてきた経済状況の大幅な改善を確認していると思う。
FRBは過去の声明で示唆していたほど懸念していないようで、幾分タカ派的に切り替えたというシグナルを市場に送っている。それは米国債市場の動向が物語っている。
米経済成長について楽観的見方を強めており、金融政策でハト派的になる可能性が減退している。これは良いニュースととらえている。正常化のプロセスは長く、一夜にして引き締めが行われるわけではない。株式市場のファンダメンタルズも依然として悪くない。
FRBが政策正常化の長いプロセスを開始したからといって、投資家が株式ポジションを削減すべきとは思っていない。投資家は常に政策の転換を怖がっているが、政策の正常化あるいは引き締めは概してマクロ状況の改善を伴っており、株式には総じて健全な環境と言えるだろう。
●来年の成長予想引き上げが最も予想外
<カボット・マネー・マネジメントの社長兼最高投資責任者(CIO)、ロブ・ラッツ氏>
最も予想外だったのは、2014年の成長見通しの上方修正だ。健全な水準に引き上げており、景気回復が来年に入っても継続するとFRBが見込んでいることを示している。
債券市場が最も材料視するのは成長見通しだ。市場関係者は、FRBの予想が正しければ、目先の金利上昇も考え始める必要があると話している。
FRBは市場が資産買い入れ縮小を織り込んでいると感じており、成長見通しの上方修正を通じて、そのことを示した格好だ。
●来年の失業率予想変更に驚き、FRBは経済に一段と前向き
<ファロス・トレーディング(米コネティカット州)の調査部長、ダン・ドロウ氏>
2014年の失業率見通しが変更されたことにまず驚いた。また先行きの下振れリスクが反転したとの言及もあり、米連邦準備理事会(FRB)が経済に関して多少ながらも一段と建設的な見方をしていることがうかがえる。
フェデラルファンド(FF)金利の最初の利上げはまだ先のこととはいえ一歩近づいており、このことが利回りを押し上げている。期間が短めの利回りも上昇していることから、ドル高にもつながると予想される。
●タカ派的、財政引き締めの影響が小幅にとどまったこと反映
<パイオニア・インベストメンツの為替戦略責任者パレシュ・ウパダヤ氏>
(声明は)タカ派的だ。労働市場が改善し、下振れリスクも昨秋以降後退したとの認識を示した。これは、財政引き締めによる打撃が、FRBが懸念していたほどではなかったことを反映している。
FRBはまた、2014年の景気見通しを引き上げたほか、失業率が2014年に6.5%に低下する可能性があるとの見通しを示した。
●経済に関する表現変更、量的緩和縮小が近いことを示唆
<BNPパリバの為替ストラテジスト、バシリ・セレブリアコフ氏>
市場は経済に関する表現がより前向きになったことに反応している。経済リスクに言及した部分は表現が顕著に弱まった。連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の縮小開始に近づいていることを示すシグナルだと捉えられていると思う。
ただ、資産買い入れの縮小に関してはバーナンキ議長の会見から詳細な手がかりが得られないか、待つ必要がある。
●緩和縮小時期の前倒し、依然として選択肢
<IDEAグローバルの南米ストラテジスト、エンリケ・アルバレス氏>
米FRBは、成長はより堅調で、失業見通しは若干低下すると見ている。これは、資産買い入れ規模の縮小の時期の前倒しが依然として選択肢として残っていることを示している。可能性が完全に消えたわけではない。
●資産買い入れ縮小は今年終盤に
<ジャニー・モンゴメリー・スコットの首席投資ストラテジスト、マーク・ラスチーニ氏>
大きな驚きも大きな動きもなかった。資産買い入れ縮小をめぐり、市場を動揺させることはなかったが、米連邦準備理事会(FRB)は資産買い入れの縮小を今年終盤に遅らせる方向に傾いているようだ。
ブラード・セントルイス地区連銀総裁が政策変更に反対票を投じたことは興味深い。これも、資産買い入れ縮小が今年終盤になることを示唆していると言える。
*内容を追加して再送します。

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