骨太方針に富裕層の資産課税強化、18年度以降の歳入強化策で

骨太方針に富裕層の資産課税強化、18年度以降の歳入強化策で
 6月3日、政府は6月末に公表予定のいわゆる「骨太方針」の中で、2018年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の対GDP比率が目安の1%まで赤字縮小ができないことを想定し、歳入強化策を盛り込む。写真は財務省。2011年8月撮影(2015年 ロイター/Yuriko Nakao)
[東京 3日 ロイター] - 政府は6月末に公表予定のいわゆる「骨太方針」の中で、2018年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の対GDP比率が目安の1%まで赤字縮小ができないことを想定し、歳入強化策を盛り込む。
富裕層が対象の資産課税強化や、医療費負担増加・社会保険給付削減を念頭に置いている。また、マイナンバー制度導入による高額所得者の資産把握を進める方針だ。複数の政府筋が3日、明らかにした。
政府筋によると、2020年度のPB黒字化を達成するため、中間評価時点の18年度以降、実施できる歳入・歳出の追加策の検討を進めている。
これまでの検討では、消費税以外の増税策や社会保険料強化策が浮上。政府筋の1人は「所得や年齢で区切るのではなく、資産に焦点をあてた歳入強化策だ」として、医療、社会保険制度において資産に応じた負担を求める方針が固まったと説明する。
内閣府では、資産でみた富裕層の負担強化の裏付け分析も実施した。その結果、60歳未満の現役世代では、資産残高が大きくても税と社会保険料の負担は受益より大きいが、60歳以上では、資産残高が高い方が受益超過が大きくなっているという実態が判明した。
その結果、5月に諮問会議の民間議員が提出した財政再建の「論点整理」において、税改革として「資産・遺産への課税を見直すとともに、社会還元(例えば子ども子育て支援のための寄附等)を一層促進する」との項目が盛り込まれた。
社会保障制度についても、年齢ではなく所得や資産等の経済力に基づいて負担を求める仕組みに転換していく。
高額療養費制度や後期高齢者の医療の患者窓口負担に加えて、介護保険の負担上限や範囲についても見直す。金融資産等の保有状況も考慮して負担能力を判定する仕組みに転換する。さらに高所得者の基礎年金国庫負担相当分の年金給付の支給停止を実施する方針だ。
富裕層を対象にした課税強化の実現には、マイナンバー制度を活用した金融及び固定資産情報の把握が必要となる。このため、国民資産情報のデータインフラを早急に整備することも前提となる見通しだ。
別の政府筋によると「社会保険料引き上げや所得税・相続税など、これまで色々議論してきた。しかし、増税ありきという安易な発想にならないように、18年度までの3年間は、歳出の質の改革と税収増加を図ることで頑張りましょうということだ」と語る。したがって、こうした措置は18年度以降に実施する可能性が高いという。
6月1日の諮問会議では、18年度までを集中改革期間として、公的分野の産業化やインセンティブ化により税収増や政策効果の高い分野への歳出組み換えを行う方針が打ち出された。
安倍晋三首相は、18年度までにPB赤字対GDP比率を1%まで縮小することを目安とすべきと、事務方に指示している。
だが、政府内では「赤字額を足元の16.4兆円からおよそ5.5兆円まで削減することは容易ではない」との見方が多くなっている。しかも、消費税率は17年度に10%まで引き上げた後、それ以上の引き上げを安倍首相は否定している。
こうした点を踏まえ、PB赤字対GDP比率1%が達成できない場合、20年度までの2年間に一層の歳出削減とともに、歳入強化策を採用する必要があると判断。富裕層を対象とした税制改革を組み込む計画を作成することになった。
ただ、日本年金機構による大量の個人情報流出事件により、マイナンバー制度における「不法アクセス」への懸念が、急速に高まっている。
このため年金制度だけでなく医療情報や銀行口座の識別などにもマイナンバー制度を拡大運用することに対し、一部では早くも反対の動きが出始めている。国民の間に不安の声が広がれば、マイナンバー制度を起点にした歳入増の構想が、「夢物語」に終わる可能性も出てきている。
*最終段落の一部の表現を修正しました。

中川泉 編集:田巻一彦

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