「ものすごい英断」と驚きの声、トヨタ燃料電池車の特許無償開放

「ものすごい英断」と驚きの声、トヨタ燃料電池車の特許無償開放
 1月6日、トヨタが燃料電池車特許すべての無償提供を発表したことについて、自動車メーカー各社から驚きの声が上がった。写真はトヨタの燃料電池車。カリフォルニア州で昨年11月撮影(2015年 ロイター/Lucy Nicholson)
[東京 6日 ロイター] - トヨタ自動車<7203.T>が単独で保有する燃料電池車(FCV)関連の特許すべての無償提供を6日発表したことについて、日系自動車メーカー各社からは「ものすごい英断」(日産自動車<7201.T>の志賀俊之副会長)などと驚きの声が多く上がった。
FCVは燃料となる水素のインフラが必要になるため、台数の拡大が急がれている。トヨタは1社の努力だけでは限界があり、他社を巻き込むことで市場創造を加速したい考えだが、次世代エコカー戦略に対する自動車メーカー各社の思惑はさまざま。トヨタの狙い通り、実際に競合他社がトヨタの技術を採用するかどうかが注目される。
日本自動車工業会(自工会)の池史彦会長(ホンダ会長)は同日、自工会主催の賀詞交歓会で記者団に対し、「将来を考えると、燃料電池車はポテンシャルが大きい」とし、特許の無償開放は参加企業を増やし、燃料電池車分野で日本メーカーによる国際標準化がより進むとして「歓迎すべき動き」と評した。
日本メーカーはこれまで自前主義が多く、個社で技術を囲い込んだ結果、「ガラパゴス化して世界標準になりにくかった」と日産の志賀副会長は指摘。特許の無償開放によって「量が増えてコストが下がり、燃料電池が普及する。そうすればインフラがついてくる」と述べ、トヨタの判断は「非常に賢い」として拍手を送った。
自動車メーカーは通常、技術流出などを警戒し、特許は有償かつ提携先に限ることが多いのが一般的。トヨタにとっても、不特定の企業などに対して無償で特許を提供するのは今回が初めてで、異例の決断だ。
しかし、トヨタの特許技術を実際に使うかどうかを問われると、各社幹部らは「まだ中身がわからないが、現実はなかなか(難しい)」などと口が重い。電気自動車(EV)を推進している日産の志賀副会長も、自社としては「必要であれば」と述べるにとどめ、むしろ採用するのは海外メーカーだったり、「自動車メーカーよりもサプライヤーが使うのではないか」との見方も示す。
トヨタの技術を採用することはトヨタに事実上、次世代エコカーの本命とされるFCVの主導権を握られることにもつながりかねず、各社の慎重な姿勢が垣間見える。
また、FCVの開発には莫大な資金が必要なため、経営資源の少ないメーカーは「まだ取り組める段階ではない」(富士重工業<7270.T>幹部)という。ホンダ、日産は開発を進めて一般向け販売を予定しているが、富士重やマツダ<7261.T>などはFCV参入は未定だ。
FCVを着実に皆で心一つに進めていくことこそ、水素社会の実現、持続的成長につながる――。トヨタの豊田章男社長はFCVの普及加速に期待を込めるが、狙い通りに進むかどうか。

白木真紀

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