焦点:進まぬ中国の土壌汚染対策、問題は「責任の不在」

焦点:進まぬ中国の土壌汚染対策、問題は「責任の不在」
 9月17日、中国の北京市郊外にある大規模な国営製鉄所が、大気汚染対策のために閉鎖されてから約4年が経過したが、製鉄所跡地の土壌の除染は、ほとんど手付かずのままとなっている。写真は河南省の工場から流出した廃液。15日撮影(2014年 ロイター)
[北京 17日 ロイター] - 中国の北京市郊外にある大規模な国営製鉄所が、大気汚染対策のために閉鎖されてから約4年が経過した。しかし、製鉄所跡地の土壌の除染は、ほとんど手付かずのままとなっている。
同製鉄所はかつて年間粗鋼生産量800万トンを誇ったが、今目につくのは、さびついた配管や線路、使われなくなった煙突などだ。中国第5位の鉄鋼メーカー首鋼集団が所有していた同製鉄所には、95年の歴史があった。しかしその跡地は、中国国内に数多くある産業廃棄物や農業廃棄物で土壌が汚染された場所の1つとなっている。
除染に向けた活動を阻害しているのは、誰がその費用を負担するのかという問題だ。土地所有者である国なのか、製鉄所を所有していた企業なのか。土壌処理会社の伊世特中国(ESDチャイナ)によると、総面積8.6平方キロに及ぶ跡地の除染には、推計50億元(約886億円)がかかるという。
環境問題の専門家の頭を悩ませているのは、もし公害に対する政治的関心が高い北京でさえ土壌汚染対策に苦労するなら、貧しい地方の農地除染はさらに難しいということだ。
ESDチャイナのマネージングディレクター、Gong Yuyang氏は「本当の問題は、首鋼集団などの会社にとって、跡地の除染に多額の資金を投じるインセンティブがないことだ」と語った。
首鋼集団はこの件に関してコメントを差し控えている。
中国環境保護省が4月に公表した調査結果によると、各地の農地で採取した土壌サンプルの19.3%から、基準値を超える重金属や化学廃棄物が検出された。湖南省では、稲耕作地の実に4分の3以上が汚染されていたことが分かったという。
中国ではすでに、330万ヘクタールの農地が汚染によって無期限使用禁止となっている。ロイターの試算では、これをすべて耕作や畜産に適した土壌に改良するには、約5兆元(約88兆円)のコストが必要になる。
中国環境保護省は、鉱山廃石や化学廃棄物の処理は企業に責任があると指摘する。しかし一方で、廃水のかんがい利用や殺虫剤や肥料の過剰利用も汚染の原因だとしている。
ESDのGong氏は「誰の責任か決めるのは難しく、政府は農家には費用を負担させないだろう」と語る。
<汚染者負担は適用されず>
環境汚染に対する国民の不満拡大を受け、中国政府は今年3月、本格的な公害対策に乗り出した。最優先の課題は、汚染された穀物が食品流通網に入り込むリスクを減らすことだ。
政府は現在、土壌汚染の責任が誰にあるのかを国が決められる法案を作成している。また除染活動に融資する新たな仕組みも検討されているという。しかし、国営メディアの報道によれば、専門家らはこうした法案が成立するのは、早くても2017年以降になるとみている。
今のところ、企業側が行動を起こす経済的インセンティブはほとんどない。
環境保護団体グリーンピース北京支部のWu Yixiu氏は「この問題で市場主導型の取り組みはない。中国では『汚染者負担』の原則は話し合われておらず、政策課題にも取り上げられていない」と指摘。「重金属汚染の浄化ビジネスでは、いまだに政府が主たる支払い者だ」と語った。
最終的な責任の所在も曖昧だ。「現在大きな議論になっているのは、大企業は国有企業であり、彼らが土壌を汚染した時に関する法律がないことだ」と前出のGong氏は話す。
中国政府が支援する研究機関の予測では、土壌浄化ビジネスはまだごく初期段階にあるものの、2025年までには年間2000億元の市場規模になる可能性があるという。
環境保護省生態保護局の庄国泰局長は、最近開催された会合で「土壌改善の市場はまだ非常に小さい」とした上で、向こう40年以内に数兆元の市場になるとの暫定的な試算もあると述べた。
ロイターはこの件で環境保護省にコメントを求めたが、今のところ回答は得られていない。
<汚染を見て見ぬふり>
首鋼集団は製鉄所跡地を歴史遺産にしたり、一部土地を不動産用地に転用したりする計画を持っていたが、約1世紀にわたる操業で蓄積された汚染の度合いを精査するため、実行は遅れているという。
一般公開されている調査結果によると、2011年に跡地で採取されたサンプルからは、基準値を超えるカドミウム、クロム、鉛が検出された。ただ、完全な除染計画はまだ出来上がっていないという。
ESDのGong氏は「首鋼集団は利益第一であり、政府が主導しない限りは何も始まらない」と語っている。
匿名を条件に取材に応じた別の土壌処理会社の幹部によると、問題があまりに大きいため、多くの地方当局は汚染を見て見ぬふりをするか、身動きが取れなくなっているという。
一部の地域では、応急処置が導入されている。安徽省の鉛生産地では、農家が精錬所から半径100メートル以内で耕作するのを防ぐため、汚染が深刻な場所には植樹が行われている。ただ現地住民の話では、農業は続いているという。
またグリーンピースのWu氏によれば、湖南省でも汚染された農地でのコメ生産は続けられている。
同氏は「政府は農業を禁止していない。なぜなら、いったん禁止プロセスを始めてしまえば、コメの総生産量が脅かされるからだ」と語った。
(原文:David Stanway、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)

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