焦点:政府系ファンドの投資急増、市場の脅威に

焦点:政府系ファンドの投資急増、市場の脅威に
 9月8日、国債利回りが過去最低水準で推移する中で、政府系ファンドが株式や不動産など高利回り資産への投資に力を入れている。写真はニューヨーク証券取引所。3日撮影(2014年 ロイター/Brendan McDermid)
[ロンドン 8日 ロイター] - 国債利回りが過去最低水準で推移する中で、政府系ファンドが株式や不動産など高利回り資産への投資に力を入れている。その買いの勢いの強さは世界経済を不安定化させる恐れもあると、民間投資家は警告する。
各国の政策金利が史上最低水準に達して以降、各政府は年金基金や中銀の外貨準備の運用拡大を目指して幅広い投資対象に目を向けてきた。しかし業界関係者によると、こうした資金の流れは金融の実態ではなく政治的優先度を反映した価格形成を招き、市場を歪める危険性があるという。
しかも、こうした政府系資金の動きは、各国中銀がグローバルな規模で取り組んでも発生防止が難しい資産バブルを煽る要素になりかねない。
公的通貨・金融機関フォーラム(OMFIF)のマネジングディレクター、デビッド・マーシュ氏は「実態面と潜在面の双方で非常に明確な利益相反がみられる。何らかの形で行動規範を設けるべきだ」と指摘する。
OMFIFによると、政府系投資機関は世界経済の4割に相当する29兆1000億ドルに及ぶ資産を運用する。資産を保有するのは157の中央銀行と156の公的年金基金、それに87の政府系ファンドだ。
世界最大の政府系ファンドを持つノルウェーのように、政府系投資機関の資金はコモディティ(商品)ブームに伴う天然資源の売却収入に由来することが多い。あるいは中国のように、製品輸出収入の蓄積を取り込んだ政府系ファンドもある。
政府系投資機関は、既に世界の大手企業の多くで株主として目立つ存在に躍り出ている。例えばカタール投資庁は英銀行大手バークレイズの株式の5%近くを保有しているが、これは2008─09年の金融危機の際に窮地に追い込まれた同行の資金支援に加わった際の名残だ。
運用資産8900億ドルで全世界の株式の1.3%を保有するノルウェー政府年金基金は、債券以外の株式やインフラ、不動産への投資拡大を目指している。同基金のイングべ・スリングスタッド最高経営責任者(CEO)が最近、ロイターの取材に対し明らかにした。
一方OMFIFによると、5750億ドルを運用する中国の政府系ファンド、中国投資有限責任公司(CIC)はグローバル投資の約32%を上場株に配分し、その同程度をプライベートエクイティ、不動産、インフラなどの「長期」投資に振り向けている。
こうした動きに対し、不動産価格の上昇や世界株式の回復で利益を上げることを急ぐあまり、このような大規模な資金流入がもたらす結果については、ほとんど考慮されていないと民間投資家は批判する。
イートン・バンス・インベストメント・マネージャーズのマイケル・シラミ氏は「こうした投資手段にどのようなメリットがあるかに関する議論に、十分な時間が割かれていない。懸念されるのは、いわゆる預金のプール資金がごくわずかの人々の手に委ねられているという点だ」と話す。
ノルウェー政府年金基金のスリングスタッドCEOはロイターに対し「私はこの問題を軽んじていない。透明性や保有制限に関して非常に高い要件を課すなど、明白な事柄を定めており、所有者としての役割を可能な限り明瞭にしている」と指摘。政府系資金が歪みをもたらす可能性は認めたものの、基金は厳格な内部指針に基づき問題に対処していると強調した。
それでも政府系投資機関の存在はすでに実際の売買パターンに変化をもたらしている。
カタール投資庁が昨年7月にロンドン証券取引所(LSE)の持ち株比率を削減した際、それまでは大手機関投資家の参入で売買が減少して株価の振れが激しくなるとの見方からLSE株が敬遠されていたため、結果的にLSE株の需要が押し上げられたとアナリストはみていた。
さらなる影響は避けられないようだ。公的機関が運用する29兆ドルの資金のうち株式への配分を10%と比較的低めに見積もっても、金額は2兆9000億ドルに達する。全世界の株価指数であるMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス<.MIWD00000PUS>の時価総額が38兆ドルであることを考えれば、これはグローバルな相場を動かすのに十分な金額だ。
<新たなルール>
政府の後ろ盾がある資金が資本市場で台頭することに対する懸念の高まりを受け、国際通貨基金(IMF)は2008年に国際的な政府系投資機関とともに、透明性と情報開示に関する一連の自主規制をまとめた。
経済協力開発機構(OECD)も政府系機関のガバナンスに関する指針を作成し、政府の官僚機構と中央銀行内部で利益相反が生じるのを避ける必要性を明記した。
「OECDの勧告は常に、もし政府が企業資産のかなりの比率を保有している場合、保有者の立場と規制機能の役割を明確に区別しなければならないというものだ」とOECDのシニアエコノミスト、ハンス・クリスチャンセン氏は話した。
とはいえ、政府の後ろ盾を受けた投資は増大の一途をたどっている。トムソン・ロイターのデータによると、政府系ファンドはことし上期にM&Aに245億ドルを投じており、半期としては2010年以降で最高額だった。このため現在の指針は問題発生を防ぐには不十分だと多くの人が考えている。
ジョンズ・ホプキンズ大の経済学部教授で、シンクタンクのケイトー研究所フェローでもあるスティーブ・ハンク氏は「与信や資本の流れが政治色を帯びている。憂慮すべき傾向であり、最後は悲劇的結末を迎えるだろう」と警告する。
しかし、OECDのクリスチャンセン氏はこの見方に反対だ。政府系ファンドが財務的な動機ではなく政治的な意図から投資することはまれだと指摘。さらに政府系ファンドの投資は将来世代のために資金を管理する重要な事業だと強調する。
クリスチャンセン氏はその主張を単純化しすぎとみている。「政府系ファンドに政治色がないという考えは冗談になる。大きな問題は、政治が絡んでくると不透明さが増すということだ」と語った。
(Chris Vellacott記者)

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