焦点:「次の火種」はバルト3国、ウクライナ危機で募る警戒

焦点:「次の火種」はバルト3国、ウクライナ危機で募る警戒
 9月1日、ウクライナ危機が続く中、エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国は、自分たちが次の地政学的な火種として浮上する可能性を危惧している。写真は8月、バルト海で行われた多国間合同演習に参加する艦船(2014年 ロイター/Roni Lehti/Lehtikuva)
[リガ/ビリニュス 1日 ロイター] - ウクライナ東部で依然として戦闘が続く中、旧ソ連の支配下にあったエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国は、自分たちが次の地政学的な火種として浮上する可能性を危惧している。
オバマ米大統領は英ウェールズで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に先駆け、エストニアで3日、バルト3国首脳と会談する。そこでバルト諸国はあらためて軍事的支援を求めるとみられる。
ウクライナ危機をめぐるエストニア、ラトビア、リトアニアの発言には、西側諸国のそれよりも強硬な姿勢が見て取れる。ウクライナとは違い、バルト3国はNATOに加盟していることから、ロシア軍による本格的な侵攻を恐れる理由はそれほどないが、サイバー攻撃など目に見えない形で攻撃を受ける可能性はある。
リトアニアのグリバウスカイテ大統領は8月30日、「ロシアは事実上、欧州と戦争状態にある」と述べ、親ロシア派武装勢力と戦うウクライナ軍に武器を支援するよう要請した。一方、エストニアのイルベス大統領も、ウクライナ危機を「宣戦布告なき戦争」と表現した。
1991年に再独立を実現したバルト3国は、ロシア産のエネルギーに大きく依存しており、相当な数のロシア系住民も抱えていることから、ロシアからの圧力に対するぜい弱さを痛感している。この2つの点は、ウクライナ危機の際立った要因でもある。
エストニアのタリン大学で国際関係学の講師を務めるカトリン・キルナ氏は「強硬な反ロシア派ではない人も、自分の国が再びロシアの影響下となり、独立が失われることを恐れている。また、ロシア系住民も大きな恐怖をもたらしている」と語った。
<いら立ち>
ロシアは確かにバルト3国の警戒を試しているように見える。
NATOの戦闘機は先週、バルト3国の領空に近づくロシアの戦闘機に対し、複数回のスクランブル(緊急発進)をかけた。ラトビアも自国の領海から23カイリ離れた場所でロシアの潜水艦を発見した。
こうしたことは、ウクライナ危機発生後の新たな傾向というわけではない。NATOがバルト3国上空のパトロールを開始した2004年、ロシアの戦闘機に対するスクランブル発進は1回だったが、昨年は40回以上に上った。
バルト3国のいら立ちは中立的な周辺国であるフィンランドとスウェーデンにも拡大している。両国は欧州連合(EU)には加盟しているが、NATOには入っていない。フィンランドは1週間足らずに3度も領空を侵犯したとしてロシアを非難。スウェーデンもバルト海にあるゴットランド島に戦闘機を移動させた後、軍幹部らに一段の厳戒態勢を取るよう先週指示した。
バルト3国が最も恐れているのは、ポーランドは例外としても、その他のNATO加盟国が、ロシアのプーチン大統領の脅威に対する危機意識を十分持たないことだ。
リトアニアの政治学者Vykintas Pugaciauskas氏は「バルト諸国は、ロシアの行動自体は心配していない。むしろ、西側の同盟国が事態を理解していないようにみられることや、適切な措置を取りたがらないことを恐れている」との見方を示した。
バルト諸国は、西側による強力な対応がなければ、ロシアがエネルギーからサイバー攻撃まで、ソフトパワーを駆使して永続的な不安定化をもたらしかねないと危惧している。
「現在の最大の脅威は表立った侵攻ではなく、いわゆる『ハイブリッドな戦争』だ」とし、それには情報戦やサイバー攻撃、偽旗作戦などが含まれるとPugaciauskas氏は指摘する。
次の火種になる可能性がある場所としては、ロシアのバルチック艦隊が置かれるバルト海や、ポーランドとリトアニアの間に位置するロシアの飛地領カリーニングラードが挙げられる。3月にロシアが併合したクリミアのように、カリーニングラードもロシアと地続きではつながっていない。
リトアニアの当局者らによると、12月に操業開始予定の液化天然ガス(LNG)ターミナルを、ロシアが妨害する可能性があるという。同ターミナルは、ロシア国営天然ガス企業ガスプロムに代わる初のガス供給源となる。
リトアニアのグリバウスカイテ大統領は、ロシアの影響に対し「情報戦」での反撃を促している。同国のロシア系住民はロシア語のテレビを見ているが、「EUの公式言語以外の言語」による放送を制限することを提案し、暗にロシア語を排除する措置を打ち出した。
ラトビアの元国防相で、現在は欧州議会のメンバーを務めるアルティス・パブリクス氏は「ロシアは欧州全体を敵に回すことはできない」としたうえで、「プーチン氏はバルト諸国のような小さい国に目をつけ、経済的に不安定化させてからサイバー攻撃や民族感情に訴えることは可能だ」と述べた。
バルト3国の首脳はエストニアの首都タリンで3日、米国のオバマ大統領と会談する。リトアニア政府当局者によると、3国の首脳は地域防衛のため、オバマ大統領の決断に「火をつける」狙いがあるという。
英ウェールズで4─5日に開催されるNATO首脳会議では、バルト諸国はNATO軍部隊の配備まどを強く求めるとみられる。
だが、NATOの主要加盟国の一部には、ロシアへの過剰な挑発になるとして永続的な軍事基地には反対する国もあり、バルト諸国は会議の成果に疑念を払しょくしきれないでいる。
「オバマ氏がやって来るのは重要だ。リスクは、彼が素晴らしい演説をしても、われわれが実際にどう行動するかだ」と前述のパブリクス氏は語った。
(Aija Krutaine記者、Andrius Sytas記者 翻訳:伊藤典子 編集:宮井伸明)

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