アングル:人手不足が促す雇用改革、コスト増への対応に企業格差も

アングル:人手不足が促す雇用改革、コスト増への対応に企業格差も
6月9日、大手小売りチェーンのドン・キホーテとユニクロが大胆な雇用改革に乗り出している。都内のドン・キホーテで5月撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 9日 ロイター] - 大手小売りチェーンのドン・キホーテ<7532.T>とユニクロが大胆な雇用改革に乗り出している。国内景気の回復で各企業にとっては人手不足が頭痛の種になっているが、ドン・キホーテは応募条件を緩和し通常の5倍の採用希望者を集めている。ユニクロを経営するファーストリテイリング<9983.T>はパートタイマーの正社員化に向け希望者の選考を始めた。
労働コストは短期的には上昇するが、いい人材を確保し生産性を上げようという戦略だ。
拡大する人手不足にどう対処するか-。長期にわたったデフレ経済下で染みついた低賃金前提の雇用方針を抜本的に見直し、給与アップと生産性向上に動く企業がある一方、人材集めが難航し、操業縮小や停止に追い込まれる企業もある。
労働需給のひっ迫は安倍政権が主導する景気拡大政策に大きな脅威となっている。人手不足が生産性向上を促し、より効率的な経済を実現する契機になれば幸いだが、企業コストが上昇したまま収益が伸びなければ、日本がスタグフレーションに陥る懸念もある。
「カギは日本企業が生産性向上への投資を拡大できるかどうかだ」と山本康男・みずほ総合研究所シニアエコノミストは言う。人手不足は成長を阻害するボトルネックだが、同時にそれは日本をインフレマインドが導く成長型経済に転換し、安い労働力だけを求める企業をより生産性の高い企業に変身させるきっかけになる、と同氏は指摘する。
安倍政権は今月末にも「第三の矢」となる新たな成長戦略を決定する見通しだが、ロイターが入手した同戦略案によると、雇用改革が柱の一つになっている。ユニクロが決めた一部のパートタイマーを、地域を限定して働く正社員として雇う取り組みのように、正規雇用の道をより広く女性にも拡大するなど、企業により柔軟な選択肢を提供できるよう促す対策が盛り込まれる見通しだ。
しかし、成長戦略が企業の雇用改革を十分に後押しできるかどうかは不透明だ。「 民間企業がビジネスチャンスを広げるために求める対策と政府が作っている成長戦略との間にミスマッチが起こっているのではないか」と熊野英生・第一生命経済研究所主席エコノミストは指摘する。
<低い賃金、わずかな利ザヤ>
これまで展開してきた低賃金、低利潤のビジネスモデルの行き詰まりで悩んでいる企業のひとつが、外食チェーンのワタミだ。もともと店舗の数が多すぎた同社では最近の賃金上昇の結果、顧客サービスを維持するに十分なパートタイマーが確保できないことなどを理由に、一部不採算店舗を含む、全店舗の約1割にあたる60の店舗を閉鎖すると発表した。
採用コストは目に見えて拡大している。安倍首相が政権を握り、「アベノミクス」が動き出すまえの2012年10月にくらべ、パートタイマーの採用コストは3倍もアップし、一人当たり約9000円に達した。当時、約1030円だったパートの平均時給は、今は1090円以上。労働需給のひっ迫はマクロ指標にも明確に表れており、総務省が発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.08倍と7年9か月ぶりの高水準になった。
こうした中で、ドン・キホーテが5月から導入した「履歴書不要」の人材募集は大きな反響を呼んだ。学歴や経歴の記入への抵抗感が和らいだこともあり、応募者数は急増したと同社の採用担当者である慶村宏雅氏は話す。
ユニクロは新方針のもとで店内スタッフの中で正社員が占める割合を今の10-20%から30-40%に拡大する考え。将来的には正社員の比率を半数にまで増やし、彼らのやる気や専門知識が店舗ごとや社員一人あたりの収益率の向上につながることを期待している、とファーストリテイリング広報部長の古川啓滋氏は言う。
だが、ドン・キホーテやユニクロに続いて、他の企業も大胆な雇用政策を打ち出すかどうかは未知数だ。むしろ、多くの企業は生産性向上や労働者確保への新規投資には依然として及び腰のようだ。
「とくに小規模企業は操業規模や雇用の拡大には慎重さが目立つ。いまの景気拡大局面が長期にわたって続く可能性に自信がもてないからだ」と東京商工リサーチの関雅史情報本部経済研究室課長は指摘している。

久保田洋子 梶本哲史

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