コラム:中国の「株価PKO」が効かない理由

コラム:中国の「株価PKO」が効かない理由
 7月7日、中国当局が相次いで打ち出した異例の株価支援策。それがうまく行くと考えるのは、愚か者だけだ。写真は証券会社の株価ボード。北京で1日撮影(2015年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
James Saft
[7日 ロイター] - 中国当局が相次いで打ち出した異例の株価支援策。それがうまく行かないと考えるのは、勇気があり余る投資家だけだろう。一方、それがうまく行くと考えるのは、愚か者だけだ。
今の中国株に関して選択の余地があるなら、正しい態度は傍観者として様子を見守ることだ。なぜなら、株式市場の急落に直面した中国当局は、一連の強力な対策で売り手を威圧しようとしており、それらは株価にとっては支援材料だが、現実と株価のかい離をもたらすからだ。
6月12日以降に上海総合指数が約30%下落したのを受け、中国当局は今月4日から立て続けに株価の下支え策を発表。中国の大手証券21社は、相場を下支えするため総額1200億元を株式投資に充てると発表。中国人民銀行(中央銀行)は、これら証券各社への信用取引向け融資を手掛ける国営の中国証券金融に対し、流動性支援を提供する方針だという。
さらに中国株式市場への上場を計画していた28社が4日、株式新規公開(IPO)を中止すると明らかにした。
これらの対策が打ち出される直前には利下げも行われていたが、どちらも株式市場の下落を食い止めるには至っていない。
中国当局はまた、株式市場の空売り筋にも怒りの矛先を向けており、「相場操縦」の可能性を調査すると表明した。
彼らは明らかに、自らを自国資本市場での最後の買い手と位置付けようとしている。株価支援資金の多くは、当局の意向に依存し、当局の期待に応えることが求められている機関に流れ込んでいる。
<日本のPKOの教訓>
週明け6日の中国市場は、上海株が支援策を好感して2.4%反発した一方、本土当局のコントロールが及びにくい香港株は3.2%下落。1日の下落率としては2012年5月16日以来3年ぶりの大きさとなった。
中国当局は明らかに、積極的な金融緩和や発言などを通じて相場を下支えする「バーナンキ・プット」や「ドラギ・プット」のような考えに傾注している。しかし、一連の株価支援策は、米連邦準備理事会(FRB)のバーナンキ前議長や欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁のやり方をはるかに超越している。
また中国当局には、輸出主導型経済から消費主導型経済への転換を株価上昇を通じて促したいという意向もある。足元の株価急落は、こうした経済モデルの転換を台無しにし、それによって中国政府の威光を曇らせる可能性もある。
現在の中国の株価支援策と、1929年にJPモルガンなどウォール街の銀行が取り組んだ相場暴落阻止策(結局は失敗に終わった)には、いくつかの類似点はある。ただ、どんなコストもいとわない中国のやり方は、やはり別物と言えるだろう。
おそらく歴史的に最も近いのは、1992年に日本政府が取った株価維持策(プライス・キーピング・オペレーション=PKO)だ。日本政府は総合経済対策の1つとして、郵便貯金や簡易保険の資金運用について株式組み入れ制限を撤廃した。
当時の日本政府の考えは、おそらく現在の中国政府も同様だが、当局が株価を押し上げることさえできれば、景気回復に伴って民間投資家も後に続くというものだ。日本株は公的資金の投入でいくらか回復したものの、ほどなくして下げに転じた。その後の日本と日本株が厳しい道をたどったのは周知の通りだ。
現在の中国政府は間違いなく、1992年の日本政府や2008年のバーナンキFRB議長(当時)、2012年のドラギECB総裁に比べ、自分の領域内で強い力を持っている。
これが、中国の資本市場のゆがみを一段と強めており、ほぼ間違いなく、最終的な代償はかなり高く付くことになるだろう。
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