コラム:スイスの「恐ろしい教訓」が示す中銀の限界 

コラム:スイスの「恐ろしい教訓」が示す中銀の限界 
 1月15日、スイス中銀は過去3年にわたり維持してきたスイスフランの対ユーロの上限を廃止すると突然発表。これを受けてスイスフランは対ユーロで一時40%急騰した。写真はユーロ硬貨とスイスフラン硬貨。2011年8月にチューリヒで撮影(2015年 ロイターA/Christian Hartmann)
Swaha Pattanaik
[ロンドン 15日 ロイターBreakingviews] - 中央銀行は、高い期待に応えなくてはならない。投資家や政治家が各国中銀に期待するのは、インフレを抑制しつつデフレを回避し、成長を促進し、金融システムの健全性を維持することだ。
スイス国立銀行(中央銀行)は、それらより単純な2つのこと、つまり約束を守り、為替相場の動揺を防ぐことに失敗した。他の国にとっては恐ろしい教訓だ。
スイス中銀は15日、過去3年にわたり維持してきたスイスフランの対ユーロの上限(1ユーロ=1.20フラン)を廃止すると突然発表した。これを受けてスイスフランは対ユーロで一時40%急騰。その後は上げ幅を縮小したが、投資家やスイス企業は騒然となった。
今回のスイス中銀の行動から得られる一番目の教訓は、中央銀行が意志やガイダンスを明らかにしたとき、それを決して信用してはいけないということだ。
スイス中銀は、政策のしっかりした信頼の置ける機関と考えられていた。しかし、3年間にわたって金融政策の拠り所としていたフランの上限設定に突如終止符を打ったことで、その土台はひっくり返った。債務問題や低成長とマイナス金利で混沌とした世界では、他国の中銀も同じように破壊的なやり方で考えを変える可能性がある。
次の教訓は、デフレとの戦いで奇跡を期待してはいけないということだ。スイスの消費者物価はすでに年率でマイナスになっており、原油安でその傾向には拍車がかかるとみられる。それでもスイス中銀は、デフレ圧力を強めることになるフラン高の方が、まだましな方策だと決断した。
欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、ユーロ圏の物価押し上げにあらゆる手段を講じる意向を示している。しかしドラギ総裁がそれをやり遂げるのは無理かもしれない。
最後に、中央銀行が全能者だとは思ってはいけない。スイスの金融政策は計画どおりには機能しなかった。日銀や、間もなく国債購入に踏み切るとみられるECBも、スイス中銀以上には成功しないかもしれない。米連邦準備理事会(FRB)とイングランド銀行(英中銀)は、現時点では経済成長の刺激策を過度に気にかける必要はないが、もし必要になっても打つ手は多く残されていない。
政治家は、政治的に独立しているはずの中央銀行に、景気やインフレを刺激するための多くの難題を押し付けてきた。政治がもっとリスクを取るべき時が訪れている。
*筆者はロイターBreakingviewsのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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