コラム:イエレン議長のバブル警告、市場が馬耳東風になる理由

コラム:イエレン議長のバブル警告、市場が馬耳東風になる理由
 7月17日、市場はイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長を恐れていない、とコラムニストは書いた。写真は議会証言を行うイエレン議長。16日撮影(2014年 ロイター/Kevin Lamarque )
James Saft
[16日 ロイター] - 市場はイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長を恐れていない。本当は恐れた方が良いのかもしれないが。
議長と他のFRB幹部らは今週の議会証言と金融政策報告書で、ソーシャルメディアやバイオテクノロジー株、債券市場の一角について、バリュエーションの割高感を異例の率直さで指摘した。しかし市場の反応と言えば、あくびをかみ殺しただけだった。
このことは多くを物語ると同時に、憂慮すべきでもある。
なぜならイエレン議長自身、バブル阻止の主な手段はマクロプルーデンス政策だと強調しているからだ。そう、口先介入はマクロプルーデンス政策の重要な構成要素であり、それが効き目を発揮していないことが早くも露わになっている。
これはリスク性資産にとって短期的に強気材料である。市場が過去2日間に上昇したのは間違っていない。しかし長期的に見ればテールリスクの顕在化という悲惨な結末を迎える確率が、以前に比べて少し高まった。
イエレン議長の苦言は、グリーンスパン元FRB議長が1996年の講演で「根拠なき熱狂」を指摘して以降で恐らく最も目を引く警告であり、2つの部分から成っている。
議長は議会証言で、全体的なバブルの存在は打ち消しながらも、債券の一種に懸念を表明。「低格付け社債など一部のセクターにおいてバリュエーションが割高になっている様子であり、発行も頻繁に行われている。従ってわれわれは、レバレッジド・ローン市場の動向を丹念に点検し、われわれの監督指導の有効性を高めるよう取り組んでいる」と述べた。
留意すべきは、このように市場に警告を発することこそ、FRBが監督指導を示す主な手段のひとつだということ、そして、それでもなお急いで起債計画を引っ込めたりシンジケートローンのプライシングを見直すといった動きは今週もなかったし、今後もありそうにないということだ。
それにも増して、特にその具体性において注目すべきは、議長とFRBが議会に提出した金融政策報告書での言及だ。
「一部セクターのバリュエーション指標、とりわけソーシャルメディアやバイオテクノロジー産業の小規模企業のそれには、大幅な割高感があるように見受けられる。これら企業の株価は年初に著しく下落したにもかかわらずである」
セクター別の専門家として振舞うのではなく、資産市場についての一般論を語る集団として知られるFRB高官の発言としては、なかなかのものだ。
<薄いリアクション>
インターネット株バブルの初期に行われ、株価を急落させたグリーンスパン氏の「根拠なき熱狂」講演とは対照的に、今回の分析に対する反応は薄かった。
iシェアーズ・ナスダック・バイオテクノロジーETFは2日間で4%低下したが、年初からの上昇率はなお10%超に達している。
ソーシャルメディア株も下落したものの、大きな注目を集めるほどではなかった。フェイスブック株を見ると、15日の議会証言後に下落したが、16日には上昇して14日終値に比べてわずか0.5%安程度まで持ち直した。
まとめると、FRBはバリュエーションに懸念を表明したが、市場はどこ吹く風ということだ。
この反応はまったく理にかなっているが、大きな問題を提起してもいる。イエレン議長とFRBの政策運営方法、そしてそれが投資家と経済に最終的にもたらす帰結についてだ。
投資家がFRB幹部らの発言を気に掛けるのは、企業価値評価の専門家として、ましてやエコノミストとしての彼らの専門性を信頼しているからではなく、彼らが政策を通じて資産価格に影響を与え得るからだ。従って仮にイエレン議長、あるいはその他のFRB幹部がこれこれの市場を懸念していると発言した場合、その結果として彼らがどの程度金融政策を引き締めるのかの予想度合いに応じて、市場はそれを相場に織り込むだろう。
しかしながらイエレン議長は金融市場の安定を維持する手段としてマクロプルーデンス政策に強い支持を表明し、金融政策は物価と雇用安定に的を絞るべきだと主張している。マクロプルーデンス政策の主な構成要素は2つで、このうち最も重要なのは規制だ。
口先介入も伝統的に、中銀が市場に慎重な行動を促すための意味ある手段となってきた。
しかしイエレン議長はバブル阻止の手段に金融政策を活用する可能性をほぼ排除したことで、実質的に金融政策とマクロプルーデンス上の口先介入との関係を断ち切ってしまった。彼女とFRBは規制面の取り組みを通じ、時間を掛けて徐々にレバレッジ債務の市場を押さえつけていくかもしれない。しかし彼女が懸念を表明して市場のアニマルスピリットに影響を与える能力は、大いに損なわれてしまった。
これが投資家にとって意味するのは、議長とその同僚が市場について何を言おうが無視してよいが、物価と雇用についての発言には耳を傾けよ、ということだ。そして議長らが景気支援のために金融政策を行使する必要性が残っていると示唆し続けている限り、リスク資産は売りではなく買いだ。
この状況が悲惨な結末を迎えるまでの道筋は数多く考えられるが、どれもあらかじめ定められてはいない。インフレがFRBの手に負えなくなり、将来的に金融政策で急ブレーキを踏む必要が出るかもしれないし、どこかの市場でバブルが膨れ上がって破裂に至るかもしれない。
いずれかのシナリオが現実味を増すまで、市場は活況を続けそうだ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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