コラム:法人減税、アベノミクスに「逆効果」

コラム:法人減税、アベノミクスに「逆効果」
 6月25日、安倍首相は法人実効税率を現在の36%から引き下げることで、改革への信任を得たいと望んでいる。しかし計画は裏目に出る可能性があり、首相のデフレ脱却キャンペーンを損なう結果に終わりかねない。都内で24日撮影(2014年 ロイター/Yuya Shino)
Andy Mukherjee
[シンガポール 25日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 安倍晋三首相は法人実効税率を現在の36%から引き下げることで、改革への信任を得たいと望んでいる。しかし計画は裏目に出る可能性があり、首相のデフレ脱却キャンペーンを損なう結果に終わりかねない。
日本政府は24日、法人実効税率を今後数年間で30%未満に引き下げる計画を発表した。最終的な税率や、減税財源をどう賄うかについてはまだ明示されていない。
計画の曖昧さにも当惑させられるが、計画の理論的根拠も疑わしい。日本の国内総生産(GDP)に対する税金全体の比率は先進国中で低い方だ。3分の1弱の企業はまったく税金を払っておらず、大手複合企業の実効税率はわずか13%。収益率の上昇に伴って税負担も増えるとはいえ、その増加率は大きくない。企業は過去の赤字を利用して何年間も納税額を低く抑えている。
ロイターが最近、企業幹部を対象に実施した調査によると、減税は国内設備投資の拡大に結び付く可能性がある。しかしその拡大も限定的だろう。同じ調査では減税分の使途として、企業が内部留保をかなり強く選好していることも示された。経済活動がほとんど、あるいはまったく上向かないとすれば、減税によってわずかに税収が減るだけでも政府債務は膨らむ恐れがある。日本の政府債務の対GDP比率は243%と、既に不安を抱かせるほど高い。
減税が財政的に無謀でないことを債券投資家に納得させるためには、安倍首相は代替財源を探し出す必要がある。人数が減って高齢化も進む労働者層に高い税率を課すという選択肢は無い。消費者の負担をさらに増やすのも厳しい。来年10%への引き上げが計画される消費税率をさらに上げれば消費を圧迫し、経済を再びデフレに陥らせかねない。
リスクが高く生煮えのギャンブルをもって成長戦略だと言い張る姿からは、自暴自棄の香りがする。明らかなのは、農産物の輸入関税引き下げや移民受け入れの拡大など、より意味のある計画について安倍首相はあまり強運とは言えないことだ。労働者の賃金を上昇させるという約束も果たされていない。法人税率を引き下げれば一時的に株価は上がるかもしれない。しかし日銀が大量の国債買い入れを中止した後、財政の持続性をめぐる懸念が持ち上がれば、国債利回りは急上昇する可能性がある。アベノミクスの本丸と銘打たれた策が、結局はアベノミクスをむしばむ恐れがあるのだ。
●背景となるニュース
・安倍晋三首相は24日、成長戦略の一環として法人税実効税率を今後数年間で30%未満に引き下げる計画を発表したが、正確な引き下げ幅と日程は示さなかった。
・東京の大手企業の実効税率は現在約36%。
・6月初めに実施されたロイター企業調査によると、企業経営陣が減税分の使途として挙げた項目のトップは国内の設備投資だった。2位は内部留保。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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