ブログ:内閣支持率「再浮揚」のカギ

ブログ:内閣支持率「再浮揚」のカギ
写真は8月1日、ブラジル訪問中に現地サッカー関係者らとの会合で、ヘディングのパフォーマンスを見せた安倍晋三首相(2014年 ロイター/Ueslei Marcelino)
伊藤 武文
[東京 12日 ロイター] - 安倍内閣の支持率再浮揚がなるか、いよいよ秋口から正念場を迎える。株価や経済にダイレクトに効く経済政策が待たれており、法人税減税、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用改革などにスピード感を持って対応できるかがカギを握る。
直近の世論調査で、安倍内閣の支持率が低下している。支持率が節目となる50%を下回る調査結果もあり、2012年12月の内閣発足後、最低水準にある。日銀の異次元緩和導入時期の2013年4月の調査では、70%を超える驚異的な支持率を誇っていただけに、低下が強く印象付けられる。
支持率低下には、集団的自衛権の行使容認、国内の原子力発電所の再稼働問題が強く影響したようだ。この2点は賛否両論が激しくぶつかる課題だが、国民にはなかなか受け入れがたい面があるということだろう。
問題は内閣支持率の低下が、この2点に絞られるのではなく、安倍内閣の「経済政策」に対して厳しい見方が増えつつある点だ。
2013年はアベノミクス効果で日経平均株価は1万6000円台に上昇、2014年に入っても上値追いが想定されていた。ところが、年前半は底堅いものの上値が限られ、変動幅が小さい相場展開が続くことになる。
円債相場も同様に極めて狭いレンジで推移し、盛り上がりを欠いた。「こう着相場」の結果、2014年4─6月期の主要証券会社の決算は軒並み収益が鈍化。前年の反動があるとはいえ、株式や投資信託の手数料収入が大きく落ち込んだところが多い。特に個人営業部門の減速が目立つ。
メガバンクも同様で、株式や国債などの売買低迷が市場部門の収益を圧迫した。マーケットでは、すでにアベノミクス効果の限界がささやかれ始め、安倍内閣の支持率を支えた最大の要因とも言える株高の勢いが削がれるとともに支持率が低下傾向になったとの見立てだ。年後半に入っても深刻化する地政学リスクの影響もあり、日経平均株価は一時1万5000円を割り込む厳しい状況にさらされている。
経済・景気指標の内容も気掛かりな数字が並ぶ。厚生労働省が7月31日に発表した6月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、所定内給与は前年同月比0.3%増となり、2年3カ月ぶりにプラスに転じた。春季労使交渉で、ベースアップが広がったためとみられている。これは政府・日銀にとっても歓迎すべきことだ。ところが、現金給与総額を、物価の上昇を差し引いた実質ベースでみると、前年同月から3.8%も減っている。賃金は確かにアップしているが、消費増税などによる物価上昇に追いついていない実態が浮き彫りになった。
さらに経済産業省が7月30日に発表した6月の鉱工業生産指数速報値は前月比3.3%低下と大きく減ったことで、生産の基調判断が「弱含み」に引き下げられた。この結果を受けて、内閣府が8月13日に発表する4─6月期の実質国内総生産(GDP)成長率(1次速報)が、消費税率を3%から5%に引き上げた直後の1997年4─6月期以上に落ち込みが大きくなるとの見方が大勢だ。
個人消費が冷え込み、企業の設備投資も期待外れになる可能性が高まっており、7─9月期の回復も鈍いとの見方まで出ている。これでは内閣支持率が低下傾向になるのは無理もない。消費税率10%への引き上げ判断も極めて難しくなる情勢だ。
「強く期待に働きかける経済政策が支持率浮揚のカギを握る」とは国内金融機関のマーケットエコノミスト。安倍内閣の経済政策は、ある意味で「期待」に働きかけるものだという。
秋口となる9月第1週に安倍内閣発足後初の内閣改造・自民党役員人事を行い、与党内での求心力が高まることが期待されている。そのうえで、株価や経済にダイレクトに効く経済政策が待たれている。基本的に「第3の矢」の具体化が急務となり、マーケット関係者、国民の期待に応えなければならない。法人税減税、GPIF運用改革などにスピード感を持って対応できるかが安倍内閣の命運を握る。

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