焦点:トランプ大統領の環境軽視、「ハービー」で変わるか

Sophie Hares
[30日 トムソン・ロイター財団] - 米南部を襲ったハリケーン「ハービー」が引き起こした未曽有の洪水は、たとえ富裕国であっても、弱い立場にいる人々の安全を守り、気候変動がもたらし得る大きな打撃に彼らが対処できるよう、災害対策を強化する必要性を浮き彫りにした。
とはいえ、ハービーのもたらした壊滅的被害によって、トランプ大統領が、災害対策費を増強したり、温暖化ガス排出量の制限や異常気象からのインフラ設備保護に関する規制を復活させたりすることを期待する人は少ない。まして、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」離脱の再考については、なおさらだ。
「気候変動に懐疑的なごく一部の人たちに対して、ハービーが示しているのは、これがわれわれの新たな現実だということだ。そして、それは悪化する一方だ」。国際非政府組織(NGO)オックスファム・アメリカで気候変動とエネルギー政策のアソシエートディレクターを務めるヘザー・コールマン氏はそう指摘する。「米国内外の災害から分かるように、最も被害を被るのは最貧困層だ」
メキシコ湾からテキサス州に先週末上陸した、速度の遅いハービーがもたらした洪水により、少なくとも17人が死亡、約3万人が避難を余儀なくされている。
全米4位の人口を抱える同州ヒューストンでは、警察や州兵、救急隊員が今なお取り残されている人たちの救助にあたっている。ルイジアナ州でも非常事態宣言が出されている。
テキサス州を襲ったハリケーンとしては、過去半世紀で最大となるハービーは、最大200億ドル(約2.2兆円)の被保険損失を生じかねず、米国史上で最も損害をもたらしたハリケーンの1つとなる可能性がある、とウォール街のアナリストは予測する。
ハービーによる異常な豪雨は、気候変動によって悪化した可能性がある、とポツダム気候影響研究所と世界気象機関の専門家は指摘する。
「(米国全土の)州政府、市長、そして科学者は、気候変動が現実だということに全く異議はないはずだ」と語るのは、バングラデシュの首都ダッカに拠点を置く国際気候変動・開発センターのサリーマル・ハク所長だ。
「ハービーは未曽有の降水量をもたらしている。これは人為的な気候変動によって引き起こされた可能性の証左と言える」と同所長は言う。
2015年に採択されたパリ協定からの脱退を決めたトランプ大統領は、現在テキサス州の救急活動を指揮している米連邦緊急事態管理局(FEMA)の予算を大幅削減するよう迫っている。
1月の就任以来、最大の自然災害に直面している共和党のトランプ大統領だが、米気象機関の主要ポストがいまだ空いている一方、オバマ前政権の環境規制は、すでに廃止に追い込まれている。
トランプ氏は今月、洪水被害を受けやすい地域における政府のビル建設計画に関する環境面での見直しや規制を後退させ、洪水や海面上昇、他の気候変動の影響による被害を減らすために建築基準を厳格化したオバマ前大統領の大統領令を無効化した。
<現実に基づいた政策を>
災害による経済的損失は昨年1750億ドル(約19兆円)超に上ると再保険会社スイス・リーが推定。異常気象の規模と頻度が高まると見込まれるなか、被災する可能性の高い人々を守るための対策強化に向けた投資が不可欠だと専門家は指摘する。
「気候変動や自然に関して策を弄(ろう)することはやめ、インフラだけでなく人々の命や生活に取り組む長期的な決断をしなくてはならない」と、国連開発計画(UNDP)で気候変動と災害リスク削減にあたる責任者ジョー・ショイアー氏は語った。
将来的なハリケーンの影響を軽減するため、被災地再興の方法を決めるにあたり、災害後に「より良い生活を取り戻すこと」、何十年も先の気象傾向を予報すること、そして、海面上昇と高潮の予測を織り込むことなどを、主な対策としてショイアー氏は挙げた。
また、災害の多い地域から人々やインフラを移動する決断を政府が迫られる場合もあると、同氏は付け加えた。
「全体的にかなり成功しているのはハービーでの救急活動においてだ。人々を安全な場所に移動させ、人命の損失を防いでいる」とショイアー氏。「大半の場合、成功していない点は、リスクを念頭に置いてすべての投資が行われるよう促すことだ」
ハービーがもたらす多大な損失にもかかわらず、トランプ大統領が気候変動と気象災害の科学的関連性を認めたり、今後起こり得る洪水やハリケーンによる被害を最小限にとどめるため、予算と規制を強化したりすることに、専門家の多くは懐疑的な見方をしている。
「トランプ政権はこれまで、現実に基づいた政策を策定する意向を全く見せていない。人々が日々直面している問題に、明らかに基づいていない」と、アクションエイドUSAの政策担当責任者、ブランドン・ウー氏は語った。
(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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