アングル:英EU離脱の影響、金融市場にどう波及するか

アングル:英EU離脱の影響、金融市場にどう波及するか
 6月19日、英国民投票でEU離脱が決まった場合、その影響は国際金融市場の隅々にまで及ぶ。写真は各国の紙幣。北京で1月撮影(2016年 ロイター/Jason Lee)
[ロンドン 19日 ロイター] - 23日の英国民投票で欧州連合(EU)離脱が決まった場合、その影響は国際金融市場の隅々にまで及ぶ。市場が相互に結び付き、景気サイクルが既に終盤に差し掛かっている上、各国中央銀行に残された政策対応手段は残り少なくなっており、離脱の衝撃は瞬く間にあらゆる市場に広がるだろう。
離脱決定の影響の金融市場での「波及経路」をまとめた。
<金利と利回り>
バンク・オブ・アメリカによると世界の金利は過去5000年で最低水準にあるが、中銀はなおも利下げを続けるだろう。金利低下に伴って債券利回りは一段と下がり、中央銀行と商業銀行はいずれも厳し状況に追い込まれそうだ。
JPモルガンの試算によると、既に8兆ドル強のソブリン債で利回りがマイナス化している。しかし足元で経済や政治の先行きが不透明なため、英国がEU離脱を決めても日本、ドイツ、スイスなどの国債の需要は高まり、利回りはさらに低下するだろう。また利回り曲線もフラット化がさらに進みそうだ。
「中核的」債券の利回りが低下すると、格付けの低い高リスク債券の利回りは上昇し、両者の利回り差は拡大しそうだ。そうなれば世界各国の企業や、ギリシャなどユーロ圏周縁国の政府は資金調達で強い圧力にさらされるだろう。
<中央銀行と商業銀行>
利回り曲線のフラット化進行は、預貸金利差を収益源とする商業銀行にとって悪材料だ。商業銀行の株価は今年に入ってからユーロ圏で30%、日本で35%、英国で20%、米国で10%それぞれ下げている。マイナス金利政策も商業銀行に打撃を与えている。
中央銀行は不本意ながら、マイナス金利政策をさらに未知なる領域へと押し進めることになるだろう。
ECBの場合、利回りが低下すれば、量的金融緩和の一環として実施している資産買い入れにおける適格債券の規模がさらに縮小するだろう。そうなればインフレ目標の達成が難しくなり、信認が厳しい視線にさらされよう。
<金融システムの動揺>
2007─08年の世界金融危機にように、英国のEU離脱で世界的な金融システムが目詰まりを起こすのではないかとアナリストは懸念している。銀行は世界金融危機から回復したが、ドルベースの外為や金利の一部市場は危機的な状況をより強く映した水準になっている。
通貨スワップ市場ではドルのプレミアムが数年ぶりの水準に上昇。LIBOR(ロンドン銀行間出し手金利)とOIS(翌日物金利スワップ)のスプレッドも拡大している。
<株式>
世界の株式市場は2009年3月9日から、過去最長となる強気相場が続いている。しかし米市場が過去最高値を付けたのは1年以上前で、企業業績は落ち込み、企業は現金保有が過去最高水準に達しているものの再投資には及び腰だ。
株式市場の年初来の下落率は欧州が13%、日本が20%に達し、米国も横ばいとなっている。投資家のリスク志向は弱く、英国がEU離脱を決めて政治、経済、投資に衝撃が及べが、株式市場にも影響が及ぶだろう。
<通貨>
08年と同様に、離脱が決まれば基軸通貨であるドルの需要が強まるのはほぼ間違いない。
ドル高が進行すれば、ドル建てで借り入れを行っている新興国企業は返済負担が重くなる。またドル建て負債を抱える新興国政府も、資本流出に対抗するために外貨準備の取り崩しを迫られ、自国通貨が下げ圧力にさらされるだろう。
ドルと同じく安全通貨である円も恐らくは上昇するだろう。ゴールドマンによると上昇率は14%程度に達する可能性がある。デフレ脱却や景気浮揚を目指す日本の政策当局者にとって好ましいことではない。

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