アングル:排ガス不正でVW擁護するドイツ、反米感情も再燃

アングル:排ガス不正でVW擁護するドイツ、反米感情も再燃
 10月15日、排ガス不正問題を引き起こした独自動車大手フォルクスワーゲンに対し、米規制当局の厳しい姿勢とは対照的に、ドイツの政治家や当局者は慎重に接している。写真は同社ロゴ。フランクフルト自動車ショーで2013年9月撮影(2015年 ロイター/Pawel Kopczynski)
[ベルリン 15日 ロイター] - 排ガス不正問題を引き起こした独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)に対し、米規制当局の厳しい姿勢とは対照的に、ドイツの政治家や当局者は慎重に接している。
「メード・イン・ジャーマニー」ブランドの代表格であるVWへのダメージを極力抑えようと、メルケル独首相は先週に行った演説の中で、同国の約7人に1人が働く自動車業界の側に立つと約束した。
VW本社のあるニーダーザクセン州のバイル州首相は13日、「ドイツ産業の真珠」である同社は共に戦う価値のある企業だと称賛した。
一方、ドイツ規制当局もこのスキャンダルについて、非常に素っ気ない声明を出すだけで、問題のある対象車をいかに修理するかに注力したいようだ。
これは、比較的規制が緩やかなドイツの慣習を踏襲している。
金融危機を受けて英米や欧州連合(EU)の規制当局は銀行に対し、何十億ドルもの制裁金などを課した。その中には独銀行最大手のドイツ銀行も含まれていたが、独連邦金融監督庁(BaFin)はほとんど沈黙を守っていた。
今回のVWの場合では、連邦金融監督庁は不正発表前後の状況について「いつも通りの調査」を行っているとしている。
だが、VWが米規制当局との電話会議で9月3日に不正を正式に認めてから公にするまでに2週間以上を要している。
ドイツでは、新車の承認や、新車の環境基準への適合検査はともに連邦自動車庁(KBA)の管轄となっている。一方、米国では、排ガス規制は自動車業界とは離れた環境保護局(EPA)が行う。
<不正ソフト>
KBAは15日、VWに対し、国内で対象車240万台のリコール(無償回収・修理)を強制する方針を示したが、VWが不正ソフトを搭載した対象車計1100万台のリコール計画を同庁に提出してからすでに約1週間経っていた。
KBAの報道官は、自動車メーカーの不正に対してペナルティーを科した前例はないと語った。一方、米国のEPAは、VWが最大180億ドル(約2.1兆円)の罰金を科される可能性があるとしている。
ドイツと米国の対応の違いは、米EPAが2016年のディーゼル車モデルを承認しないとVWを脅したことでも鮮明だ。この脅しが、VWに不正を告白させるに至った。
米司法省は数日のうちに刑事捜査を始め、ニューヨーク州などの州検事総長も合同捜査を開始した。
先週には米下院公聴会でVW米国法人トップが追及を受け、同英国法人社長も今週、英議会に引きずり出された。
一方ドイツでは、引責辞任したウィンターコルン前最高経営責任者(CEO)もミュラー現CEOも、今のところ議会で証言するような状況に立たされてはいない。
また、ドイツ検察当局がVW本社や関連先の家宅捜索を始めたのは、約3週間も経過した後だった。
<国民の支持>
VWのスキャンダルは米消費者の激しい怒りを買い、同社は数多くの訴訟に直面している。それに比べてドイツ国民の反応は控えめであり、自国の優れたエンジニアリングの代名詞である同社を多くの人は非難したがらない。
今年出版されたドイツ人に関する書籍「How Germans Tick」によると、ドイツと言えば何を連想するかをドイツ人に聞いたところ、63%がフォルクスワーゲンを挙げたという。
また、市場調査団体パルスが先週発表した調査では、54%が今でもVW車の購入に興味があると回答し、最も多かった。一方、もう二度と買わないと答えた人は11%、当分の間は買わないと答えた人は35%だった。
愛する自国ブランドに対する米国の取り締まりは、反米感情にも火を付けている。一部のドイツ人は米国の厳しい反応について、欧州最大の自動車メーカーであるVWを弱体化しようとする意図的な行為だと考えている。
米国への疑念はすでに、ドイツに対する米スパイ活動が報じられて以来、拡大していた。首都ベルリンでは10日、欧米間の環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)に反対する25万人規模のデモが行われた。
フェイスブック上では、「VWは米国にとって目の上のたんこぶ」「VW、アウディ、シュコダ、セアトは今でもとても良い車。米国人は欧州の自動車メーカーをねたんでいるだけ」といった投稿も見られた。
(Caroline Copley記者、翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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