コラム:独VW、排ガス逃れで「賢い不正」の先導役に

コラム:独VW、排ガス逃れで「賢い不正」の先導役に
 10月6日、独フォルクスワーゲンは、独創的でハイテクな不正の新時代を先導している。ウォルフスブルクの本社で2012年3月撮影(2015年 ロイター/Fabian Bimmer)
Lynn Stuart Parramore
[6日 ロイター] - 「賢い不正」の時代へようこそ──。まずは、巧妙な排ガス規制逃れを企てた独フォルクスワーゲン(VW)の黒幕たちに賛辞を贈るべきだろう。
VWは独創的でハイテクな不正の新時代を先導している。信じがたいほどの厚かましさと、光速並みの速さで不正は進化を遂げている。
不正で利益を上げるのと同じくらい、またそれを見つけることも困難だった。VWは7年もの間、規制逃れをしていた。消費者はなすすべがなく、規制当局も窮地に立たされた。
先端技術を駆使した不正は、ウォール街からインターネットの不倫サイトまで、あらゆる場所で起きているように見える。
ハッカー攻撃を受け、個人情報が流出した不倫相手探しサイト「アシュレイ・マディソン」は、自動的に処理を実行するプログラムの女性ボットにメッセージを送らせ、男性ユーザーをだましていたとされる。米連邦取引委員会(FTC)は明らかに、2001年以降続いていたと思われるこの大規模な不正に気付いていなかった。
VWやアシュレイ・マディソンのような「賢い不正」は、株式市場でおかしなことが起き始めた2000年代後半から確認されている。取引のさなか、大量の株が消え、再び上昇して現れるという現象が発生した。カナダ・ロイヤル銀行のトレーダーだったブラッド・カツヤマ氏は、その原因を突き止めようとした。調査の末、取引が干渉されていたことが判明し、同氏は驚がくしたという。しかもそれは10億分の1秒の速さで行われていた。
アルゴリズムを使用した超高速取引のトレーダーは、一般の投資家より先に、瞬時に取引をするという大それたゲームを米証券取引委員会(SEC)やウォール街の一部大手金融会社の鼻先でやってのけた。
こうした実態は、ノンフィクション作家マイケル・ルイス氏の著書「フラッシュ・ボーイズ」に詳しい。出版後、訴訟が相次いで起きたり、SECが新たな規制を打ち出したりした。
しかし米商品先物取引委員会(CFTC)は先月、SECの新規則は超高速取引を防止するには十分ではないと警告。「賢い不正」に追いつくのさえ規制当局は四苦八苦しているのに、ましてやその先を行くなどほど遠い話だ。
抜け目のない規則と、職を転々とするのではなく、断固たる意志をもつ聡明な執行者が、「賢い不正」を阻止するためには極めて重要だ。規制当局と自動車会社の間の鞍替えは特に、頻繁に起きている。
同時に、不正防止には個人の刑事訴追も有効だろう。禁錮刑を食らう現実の脅威に直面していると実感しなければ、企業幹部たちは罰金を不正の代償としては比較的安いと考え続けるかもしれない。彼らにしてみれば、解決策やより良い製品を生み出すことにリソースを使うよりも、新しい不正の方法を考え出すことにそれを使った方がもうかるようにも見えるだろう。
罰金の支払いには株主の資本、つまり「他人のカネ」を充てることができるし、幹部たちは次の不正を画策することができる。罰金は企業の存続を脅かすくらいの大金でなければ、それほど意味がないかもしれない。
今起きている犯罪に話を戻そう。VWは米環境保護局(EPA)への申請を偽り、排ガス量を不正に操作した。さらに消費者を広告で欺き、不正を隠ぺいする共謀があっただろう。VWの経営幹部であろう誰かが、試験走行時にのみ排ガス規制モードに切り替わる「無効化機能(defeat device)」ソフトの使用を承認した。その人(たち)は獄中で、相当な時間を過ごす必要がある。
VWのスキャンダルは、米司法省がこれまで明言してきたように、ホワイトカラーの犯罪で個人を罰する千載一遇のチャンスでもある。
経営幹部たちは責任逃れをするのが実にうまいため、企業犯罪を追及することは困難だと、米司法省は9月に全米の連邦検事に宛てた文書で明かしていた。しかし同省はまた、企業だけでなく個人の責任を追及する新たなガイドラインを作成したとしている。
これは出発点だ。個人の責任追及で「賢い不正」がなくなるわけではない。だが不正を働く前に、幹部たちに二の足を踏ませることは可能だ。ハイテク不正によって、10億分の1秒の速さで投獄される羽目に陥るとすれば、それをやる価値はなくなるだろう。
*筆者は独立系ニュースサイト「AlterNet」の寄稿編集者などを務める。著書に「Reading the Sphinx: Ancient Egypt in Nineteenth-Century Literary Culture」がある。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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