コラム:カタルーニャの次はどこか、「富める離脱クラブ」の脅威

John Lloyd
[3日 ロイター] - スペイン北東部カタルーニャ自治州の独立を巡る騒動は、欧州連合(EU)が現在持つ強みと将来的な弱みを象徴している。また、敵対する勢力を率いる2人の指導者、つまりスペインのラホイ首相とカタルーニャ州のプッチダモン前首相の、現在と先行きの弱点も明らかになった。
先月カタルーニャ自治州議会が行った独立宣言はスペイン憲法に違反している。独立賛成派による大規模集会のせいで霞んでしまっているが、この夏の世論調査では、スペイン離脱に反対が49.4%、賛成が41.1%だった。
独立反対派も独自に大規模な集会を行っており、エル・ムンド紙による新たな世論調査では、カタルーニャ州における12月選挙に向けて、微差ではあるが独立反対派の政党が優位に立っている。
カタルーニャ州議会が独立を決議した直後、スペインのラホイ首相は同州議会の解散とプッチダモン州首相の解任を命じた。プッチダモン氏はブリュッセルへと逃亡。カタルーニャ州政府閣僚のうち9人が、反逆、扇動、公金流用の容疑で2日、スペイン高等裁判所に提訴された。プッチダモン氏は帰国の意志を示しているが、公正な裁判の保証が得られることが条件であるとしている。
同国の他地域ではカタルーニャ独立に対する中央政府の強硬姿勢が強く支持されているせいで、ラホイ首相とスペイン国家が抱えている、もっと長期的な課題が見えにくくなっている。ラホイ政権は安定的な連立相手を見つけられず、少数与党の状態にある。
つまり、これは脆弱な基盤を持つ全国レベルの指導者ラホイ首相が、こちらも国外逃亡によって支持基盤が弱まっている地域レベルの指導者プッチダモン州首相と向かい合っている構図だ。
プッチダモン氏はカタルーニャを独立へと導くことはできないかもしれないし、今のところ、独立の実現性は低い。だが、独立志向はカタルーニャ州政治において今後も強い潮流になるだろうし、EUにとっては、少なくとも英国のEU離脱(ブレグジット)と同じ程度に統合を脅かす、より広範囲の問題を示唆している。
欧州では次々と中央から離脱していくトレンドが続いており、今なおその動きが高まっている。米ワシントン・ポスト紙のイシャーン・サローア氏が指摘するように、大半のナショナリズムを主導するのは、なにも取り残されることに辟易した労働者階級や低中所得層の有権者を動員する攻撃的な右翼指導者や政党とは限らない。
「もう1つ注目すべきトレンドは、国家による後ろ向きの政策に苛立つ、欧州内でも都市化が進んだ地域に見受けられる性急な地域主義だ」と同氏は説く。
こうした「豊かな離反者」の先頭に立つのが、スペインで最も生産力の高い地域であり、最も力強い独立運動が行われているカタルーニャ自治州だ。カタルーニャの分離主義者たちは、スペイン政府に納める税金が少なくなれば、同州経済には恩恵がもたらされると主張する。
だが今や他の地域においても、こうした富裕層の「離脱クラブ」に加わる意欲を見せるか、少なくとも参加条件に注目している。最も驚くべきは、ドイツ南部のバイエルン州だ。人気タブロイド紙ビルトの7月世論調査では、3人に1人が独立を支持していることが分かった。
先月、イタリア20州のなかでも最も裕福な北部ロンバルディアとベネトの2州では、自治権拡大を問う住民投票で賛成が圧倒的多数となった。両州を合わせるとイタリアの国民総生産(GDP)の約3割を占める。
この地域で強い勢力を持つ北部同盟は、イタリアからの独立を政策として掲げている。現在ではその主張は抑制されているが、この地域の税金が、はるかに貧しく生産性も低い南部に注ぎ込まれていることへの不満は高まっている。こうした分断は、要するに経済の二極化であり、北部の分離主義に勢いを与えている。
EU行政の中枢ベルギーでさえ緊張が高まりつつある。ブリュッセルではプッチダモン氏に対する賛否が分かれており、ベルギー国家における政治の混乱が垣間見られる。ベルギー中央政府は、完全な分断を回避しようとして、2つの主要地域に権限の多くを譲渡。2019年の国政選挙後には、富めるフランドル地方から、さらに権限委譲を進めるよう圧力がかかり、中央政府が消滅する状況に至るだろう。
一方、英国から権限を委譲されているスコットランド議会では、スコットランド民族主義者が優位に立っているが、独立への熱意は沈静化しつつある。スコットランドの経済委員会自身が認めているように、北海油田の埋蔵量とそれによる石油収入という点で、豊かな将来が確実とは言えなくなってきたからだ。
だがブレグジットが難航すれば、圧倒的にEU残留を支持した住民のあいだで英国からの独立運動が再燃する可能性はある。
景気が回復しつつあるフランスでも、コルシカ島(地方議会はコルシカ民族主義者が支配している)や西部のブルターニュ地方には独立機運が残っている。依然として独立支持は少数ではあるが、その勢いは増大しつつある。ちなみに、ブルターニュ地方やコルシカ島の経済水準は、フランスの平均的1人当たりGDPとほぼ同じであり、独立運動は経済的理由よりも文化的背景に基づく。もっとも、ナショナリズム運動はすべて、時に何世紀も前に遡る文化的な差異に訴えかけるものだ。
EUとしては、こうした動きに対し不快感と警戒心を抱きつつ注視せざるを得ない。カタルーニャの例に見られるように裕福な分離主義運動はEU残留を希望するが、大規模な分離独立が一般化すれば、EUにとって過去最大の危機をもたらすことになる。
ある地域が存続可能な独立国の形成に成功すれば、EU加盟申請が必要になる。だが、それまで所属していた国とのあいだの法的、領土的な問題がすべて決着してからでなければ、その申請は考慮されないだろう。加盟の実現までに10年かかっても不思議のないプロセスなのだ。
政治の主流派や中央政府に対する幅広い不信感、地元のポピュリスト政治家の方がうまくやれるという信念が、いまやはっきりした、警戒すべき形を取りつつある。EUはナショナリズムの衰退、いや消滅さえ願っていたのに、むしろ逆に、中欧に見られるように、ときには反自由主義的、独裁主義的な形さえ取りながら復活している。
EUが、国境を廃した、進化する「理想的な連邦」として見られることはますます少なくなっている。独自の歴史と文化に立脚し、歓迎されざる移民を排除し、誇りと信頼を回復する、懐かしくも新しい国家がもたらす暖かさや親密さと比較すれば、疎遠で複雑な、ほとんど理解されていないEU統合というプロセスは敗れ去ってしまう。
まさにそれが、新興のナショナリズムが掲げる約束なのだ。
EUが異議を唱えることはできる。しかし、依然として脆弱な状態にあるEUにとって、ナショナリズムの退潮を願う以外に、ほとんどなす術がない。そして今のところ、まだその台頭は続いているのだ。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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