アングル:ECBの物価押し上げ能力に不安を抱き始めた金融市場

アングル:ECBの物価押し上げ能力に不安を抱き始めた金融市場
 12月3日、欧州中央銀行(ECB)が打ち出した追加緩和策について、市場は積極性に欠けた内容と受け止めた。5月撮影(ロイター/Ralph Orlowski)
[ロンドン 3日 ロイター] - 欧州中央銀行(ECB)が3日の理事会で打ち出した追加緩和策について、市場は積極性に欠けた内容と受け止めた。
このため「スーパーマリオ」の異名を取るドラギ総裁ですら、ユーロ圏の物価を目標まで高めることはできないのではないかとの不安がくすぶり始めている。
ECBの緩和策は中銀預金金利の0.1%ポイント引き下げと債券買い入れプログラムの6カ月間延長などにとどまり、欧州株は3カ月ぶりの大幅安に見舞われた。ユーロは3月以来の急伸となった。
しかし最も分かりやすい反応を示したのは国債市場だ。ドイツをはじめとするユーロ圏の国債は軒並み利回りが高騰し、ドイツ2年国債利回りは2011年3月以降で最大の上昇を記録した。
さらにECBがしばしば期待インフレ率として引き合いに出す5年後からの5年間の予想物価上昇率は、理事会前の1.81%程度から1.75%に切り下がった。
これは事実上、予見し得る将来において、ユーロ圏の物価上昇率はECBが掲げる2%弱に達することは引き続きないだろうと投資家が判断したことを表している。
資産運用会社カルミニャックのマネジングディレクター、ディディエ・サンジョルジュ氏は「経済と中央銀行の政策運営能力がともに期待外れだとすれば、市場が備えをしていないような事態になる」と語り、デフレの現実化を示唆した。
ユーロが対ドルで1.09ドルを上回ったほか、ポンドや北欧通貨に対しても大きく値上がりしたことで、デフレ懸念は増幅された。
今週発表された11月のユーロ圏消費者物価指数(CPI)速報値は前年比上昇率がわずか0.1%。しかもECBが3日に示した最新の物価上昇率見通しは2016年が1%、17年が1.6%で、投資家の戸惑いは増すばかりだ。
アバディーン・アセット・マネジメントの投資マネジャー、パトリック・オドネル氏は「誰もがドラギ氏が欧州を救う白馬の騎士としてさっそうと登場すると期待していたが、実際にはそうした姿で現れなかった」と述べた。
ECBウオッチャーにとっての問題は、今回の措置はドラギ氏や他のECB理事会メンバーがユーロ圏経済の新たな落ち込みに備えて一部の手段を温存しただけのか、それとももはや打つ手がなくなりつつあるのかという点だ。
ウニ・クレディトのユーロ圏チーフエコノミスト、マルコ・バッリ氏は「本日の市場の反応が今後数日間続くなら、金融環境はECBの見通しに対する下振れリスクが高まり始める。追加緩和は金融環境がこれからどう進展するかにほぼ左右されるので、事態を注視し続ける価値はある」と指摘した。
(Marc Jones記者)

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