電力9社の原発安全対策投資は1兆円超、沸騰水型の負担大

電力9社の原発安全対策投資は1兆円超、沸騰水型の負担大
4月30日、東京電力など原発を保有する地域電力9社による原発安全投資額の見込みが、現時点で1兆円を優に超える規模に膨らんでいる。写真は関西電力美浜原発から連なる送電線。2011年7月撮影(2013年 ロイター/Issei Kato)
[東京 30日 ロイター] 東京電力<9501.T>など原発を保有する地域電力9社による原発安全投資額の見込みが、現時点で1兆円を優に超える規模に膨らんでいる。
原子力規制委員会が7月に施行する新規制基準の要求を満たし、再稼働のために必要となる投資だが、規制委による新基準の運用次第でさらに膨らむ可能性も否定できない。新規制基準案は東電福島第1原発と同じ沸騰水型(BWR)には厳しく、東電や中部電力<9502.T>などのBWR組の業績回復にも影を落としている。
30日までに電力9社が2013年3月期決算発表の席上で、現時点で算定可能な額を明らかにした。原子力規制委は今月10日に規制基準案を公表。今年1月末時点で投資額が600億円程度と説明していた北海道電力<9509.T>は今回、900億円超に、同500億円程度とみていた中国電力<9504.T>は1000億円程度に見通しを増額修正するなど、電力会社が新基準を十分に読み切れていなかったことをうかがわせた。各社の公表数値を合わせると1兆1755億円となるが、既に複数の会社は上積みの可能性も示唆している。
<炉型の違いで再稼働に明暗>
新基準では、緊急時に原子炉格納容器の圧力を下げるために蒸気を外に放出する際、放射性物質を取り除くフィルター付きベント設備がBWRには再稼働時点から設置することが義務付けられているが、関西電力<9503.T>などが採用する加圧水型(PWR)は圧力上昇を緩和する機能を備えているなどの理由で設置猶予が認められている。このため、13年度中は、四国電力<9507.T>伊方原発3号機(愛媛県)や九州電力<9508.T>川内原発1、2号機(鹿児島県)のいずれもPWR型の再稼動が有力視されている。
BWR陣営では、中国電が5月初旬に島根原発(島根県)でフィルターベントの土木工事を着工するが、14年度中の設備設置完了を目指すとしており、13年度中の再稼働は困難だ。東北電力<9506.T>は、2月に申請した電気料金値上げの際に、東通原発(青森県)の15年7月の再稼動を想定する一方で、女川原発(宮城県)は16年度以降にずれ込むと説明している。ただ、東通原発は規制委によって敷地内に活断層がある可能性が高いと指摘されており、早期再稼動は困難との見方が多い。
東電はフィルターベント工事を柏崎刈羽原発7号機(新潟県)で1月に、同1号機で2月にそれぞれ着工。ただ、広瀬直己社長は30日の決算会見で、700億円超と説明してきた対策費について、「去年示した額。フィルターベントの工事(費)は入っていない。まだすべて見通せる状況にない」と述べ、さらに膨らむ可能性について含みを残した。
<中部電力<9502.T>は3期連続赤字予想>
中部電力では、大規模な東海地震の発生を想定する必要がある浜岡原発(静岡県)の津波対策や過酷事故対策により、従来13年12月までとしていた工事が15年3月までずれ込む見通しとなった。13年度の再稼動が不可能となり、9電力中、通期予想を唯一公表した同社は3年連続の経常赤字を見込む。3年連続の赤字となれば、金融機関から構造的な赤字体質に陥っているとみなされ、通常は新規融資の停止など取引条件の厳格化が避けられない。同社の岡部一彦執行役員は、「(金融機関とは)いろいろとお話しをさせていただいている最中だ」と説明した。
(ロイターニュース 浜田健太郎;編集 大林優香)

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