アングル:株価上昇は保有株売却の追い風に、銀行は依然「安全運転」

アングル:株価上昇は保有株売却の追い風に、銀行は依然「安全運転」
2月25日、足元で日本株が急騰する中、3月期末に向けて、銀行や保険会社からの株式売却が進む可能性がある。写真は都内で撮影した株価ボード(2013年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 25日 ロイター] 3月期末に向けて、銀行や保険会社からの株式売却が進む可能性がある。足元の株価上昇はリスク資産の保有比率を引き上げるインセンティブにはならず、むしろ売却を加速させる要因になっており、ポートフォリオの「安全運転」は継続中だ。
ただ、これまで価格下落による多額の減損を強いられてきた政策保有株は、営業面の影響といった要因で売却が進まないケースも多く、依然としてリスクは残るとみられている。
<売却の足かせ外した株価上昇>
「今回の株価上昇でリーマン・ショック後の保有株削減で積み残した分を処分する。さらに値上がりするのを待ちたいという声もあるが、それではいつまでたっても処分できない」──ある大手行の首脳は今年度末にかけて政策保有株売却を加速させると意気込んだ。
日経平均が8000円台で低迷した今上半期決算。三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306.T>、三井住友フィナンシャルグループ<8316.T>、みずほフィナンシャルグループ<8411.T>の大手銀行3グループは合計で5340億円の株式関連損失を計上(前年同期は1700億円の損失)し、合計純利益は8057億円と、前年同期は1兆2645億円から3割以上減少した。同じく顧客企業の株を多く抱える損保会社も、東京海上ホールディングス<8766.T>を除き、上期決算で多くの有価証券評価損を計上している。
収益を大きく左右する株式などリスク性資産のウエートを引き下げるという銀行や保険会社の長期的な目標は、足元で日本株が急騰する中でも変わらない。「負債に見合った資産を保有する方針に変わりはない。株式は長期的に減らす方向にある」(大手生保運用担当者)という。持ち合い株式の時価変動を含めた「包括利益」を表示するIFRS(国際会計基準)の導入も潜在的な持ち合い解消圧力になるとの見方も出ている。
むしろ足元の株価上昇は株式売却を促す「追い風」となっている。昨年11月以降、アベノミクスによるデフレ脱却への期待感から日経平均<.N225>は3割強上昇。25日の市場では1万1600円を上回り、2008年9月29日以来4年5カ月ぶりの高水準となった。市場低迷時の株式売却は損失が発生するばかりでなく、企業側にも抵抗感が強くなるが、足元の株価回復はこうした問題を払しょく。「株価の回復を受けて2012年度の株式削減額は計画を大幅に上回る見込み」(大手損保)という。
<期末にむけ売却加速か>
過去10年間においてメガバンク3グループは政策保有株を積極的に削減してきた。01年3月期からの時価会計への移行(持ち合い株式への適用は02年3月期から)や、銀行の株式保有をTier1自己資本に制限する銀行等株式保有制限法の施行(2002年)などもあり、3グループ合計の保有株式残高は12年9月末で6.6兆円と、02年3月末の21.5兆円から3分の1以下に低下している。
だが、依然として保有株の削減は止まらない。みずほが公表している政策保有株式削減計画では、2013年3月期末までの3年間で1兆円分の保有政策株を削減する見込みだ。
昨秋まで長期間続いていた株価低迷で思うように株式売却が進まなかったことも大量の保有株削減計画が維持されている理由だ。みずほは2年半が過ぎた今上半期末時点でも、実際に削減した額は計画の半分に当たる約4900億円に過ぎない。さらに残りの削減額のうち、発行体から売却応諾をもらっている分が約3100億円あり、下半期にかけて売りが加速する可能性がある。また、MS&ADインシュアランスグループホールディングス<8725.T>は12年3月期から14年3月期までに3000億円の株式売却を計画しているが、中間点に当たる今上期末までの累計実績は計画額の半分に満たない1230億円にとどまっている。
だが、昨年からの株価上昇で状況は一変。大和証券・投資戦略部・課長代理の熊澤伸悟氏によれば、年度末にかけた銀行・保険による株式売却額は最大で1兆円に上る見通しだ。特に持ち合い解消にやや遅れを取っている損保からの売り圧力が強く「株式市場の流動性が確保される3月8日のメジャーSQ(特別清算指数)までは国内機関投資家からの売りが加速しやすいタイミング」という。一方、銀行に関しては「思ったよりも(株式売却が)出ていない。やはり応諾をとっていても売りにくいのでは」との見方を示している。
<営業上での株売却困難さも>
ただ、大手銀行や保険会社の関係者は、株価上昇が株式売却の追い風になっていることは事実としながらも、政策保有株処分の困難さを指摘する。近年、取引先の株売却の承諾を得ることが法人営業担当者の主な仕事の一つになっているが、「減らしやすいところはすでに減らしてしまった。一巡、二巡して、残るところは岩盤のようなところでなかなか進めない」(大手銀行)という声も多い。
取引先には保有株処分に理解を示す企業も増えているが、「顧客によってはまだ保有株で融資のシェア割りをするところもあり、営業に影響がある。交渉には数か月をかけて慎重にやるのでなかなか進まないケースも多い」(メガバンク関係者)という。また、メーンバンクならではの悩みとして当該企業のM&A(企業の合併・買収)などの重要情報に日々接していることから、インサイダー取引になりかねない株売却はできないという事情もある。
(ロイターニュース 浦中大我 杉山容俊 編集:伊賀大記)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab