「特許」には企業の過去から現在に至るまでの発明・イノベーションの歴史が記されている。いずれも専門的な情報が多く、読み解くのは容易ではない。しかし、そこには企業や事業の価値、ひいては「未来」をも予測する貴重な情報が数多く示されている。本連載では『Patent Information For Victory ~「知財」から、企業の“未来”を手に入れる!~』(楠浦崇央著/プレジデント社)から、内容の一部を抜粋・再編集。知財力に優れた国内2社の事例を元に、特許戦略の最新事情を解説する。
第2回では、「減塩醤油」の事例から花王の特許戦略を分析。先行特許を徹底的に研究し、いかにして影響力の大きな権利へとつなげているかに着目する。
花王 ②
業界を震撼させた減塩醤油特許。顧客価値を軸に…
■ 減塩の肝は「置き換える」「補う」「強める」
ここからは、花王の減塩醤油の特許戦略についてお話しします。特許には「減塩調味料」と書いてありますが、特許を見る限りメインは醤油ですので、減塩調味料とは減塩醤油のことを指している、という前提で説明を進めます。
最初に、なぜ減塩食品が注目されるようになったかお話ししておきます。日本高血圧学会の資料によれば、日本人の3分の1が高血圧と推定されているんですね。結構多いですね。高血圧は、脳・心臓・腎臓などの疾患に関連していて、重大な疾患につながるものです。その高血圧の原因が「塩」(塩化ナトリウム)に含まれる「ナトリウム」だとされているんですね。減塩 で「 塩(えん)」と言ってるのは「ナトリウム」のことです。
ナトリウムの取り過ぎが、なぜ高血圧につながるのか。ナトリウムを取り過ぎると、体はナトリウムを排出したいから水を蓄えるようになるんですね。そうすると、循環する血液の量が増加して血圧が上がる。こういうメカニズムです。特許を読み解く上で必要な知識なので、ちょっと頭の中に入れておいてください。
花王によると、減塩に対するアプローチは、「置き換える」「補う」「強める」の3つだとされています(次ページ図65)。HPにはそう書かれているのですが、特許を読むと「補う」と「強める」の違いが、僕にはいまいちわかりづらい(笑)。特許から読み取れる範囲では、「置き換え」をする際に、「補う」「強める」をうまく使って味を調える、という感じかなと思っています。
この辺は、後で詳しく説明します。