反パワーポイント党の躍進なるか?

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2011-07-12 14:33

 パワーポイントに代表されるプレゼンテーションソフトウェアが登場して既に20年。私なんぞはプレゼンツールとプロジェクタが無いと、人前で話すのがとても不安になる。よく年配の方たちが、何のビジュアルツールも無しに1時間とか講演するのを見ると神業かと思ったりする。いや~、結婚式のスピーチとかは更に恐ろしい。

 しかし、そんな不安を更に煽るかのように、スイスにて「アンチパワーポイント党」が結成され、パワーポイントの撲滅に動き出そうと言う(ここで「パワーポイント」と言う場合、一般のプレゼンテーションソフトウェアを代表して言っているものとご理解頂きたい)。

アンチパワーポイント党とは

 CIO誌によれば、アンチパワーポイント党は今年の5月にスイスで設立され、プレゼンテーションソフトウェアの利用を禁止する国民投票を目論んでいるという。同党は、プレゼンテーションソフトウェアに起因する退屈なプレゼンテーションが、大きな経済損失を招いていると主張している。つまり、今やあらゆるプレゼンテーションが、プレゼンテーションソフトウェアを使って行われており、それを見させられる人々の時間は全て経済的損失だというのである。

なぜアンチパワーポイントか?

 アンチパワーポイント党の主張するメッセージを要約すると以下のようになる。

  1. エネルギーや感情が伝わらない
    テキストがスライド上に表示されることで、プレゼンターの感情や狙った効果が伝わらず、結果的に伝えたいメッセージが弱くなる
  2. スピーチの流れが分断される
    プレゼンテーションソフトウェアは、スピーチを分断することを強要するため、スピーチ全体の流れが切り刻まれてしまう

 結果的に、プレゼンテーションはつまらないものとなり、誰も聞いていないのに延々と続き、これが大きな経済損失に繋がる。もっとプレゼンテーションが面白くてダイナミックなものとなれば、経済効率が高まる。

 では、アンチパワーポイント党の提言する解決策は何かと言うと、「フリップチャート」なんだそうだ。政党の主張としては、え~それだけって感じではある。でも、目の前でフリップチャート上に何かを描いていくという行為ほどに効果的なプレゼンテーションは無いと同党は主張する。

ツールに支配されるプレゼンテーション

 まぁ、パワーポイントよりもフリップチャートが良いかは別として、でもなぜかアンチパワーポイント党の主張には共感できる部分がある。というのも、我々のプレゼンテーションは、プレゼンテーションツールによってコントロールされてしまっている。メッセージをどう伝えれば効果的か、と考えた時、メッセージの伝え方は多様であって良いはずだが、何故かプレゼンテーションはプロジェクタを使ってプレゼンテーションツールを使うのが当然となりつつある。

 そして、スライドそのものがプレゼンテーションのメモとなり、プレゼンテーションはメモの読み上げとなる。あぁ確かにつまらない。ツールの機能が高度になればなるほど、スライドは綺麗になるが、個性も失われる。もちろん全てがそうではないのだが、そんなプレゼンテーションが世の中には満ち溢れていて、それが経済的損失になるというパワーポイント党の主張も一理ある。

プレゼンテーションの本筋は何か

 さて、アンチパワーポイント党が目指すのはスイスにおいて、党員数で第4位につけること。そのためには、党員数にして3万2000人を超える必要がある。しかしながら、今のところアンチパワーポイント党の党員数は963人に過ぎない。

 恐らくその理由は、コミュニケーションの問題は、必ずしもパワーポイントをフリップチャートに切り替えることで解決するものではないからだろう。ただ、この一見短絡的な主張の裏には、我々のプレゼンテーションが、そのツールの支配力の強さゆえに、メッセージを伝えるという本筋を完全に忘れたものとなっていることを気づかせてくれる。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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