クラウドやAI、IT/OT(情報系/制御系システム)などテクノロジーに対する企業のニーズが多様化する中で、それを支えるネットワークに大きな変化が訪れている。ネットワークの領域における現状や将来、課題などについて、通信インフラを手掛けるノキアソリューションズ&ネットワークスに聞いた。
社会インフラでもあるネットワークは、2000年代初頭から有線/無線の双方でブロードバンド化が進み、それまで中心だった音声や文字データだけでなく、映像や画像といった非構造化データ、企業システムの構造化データなどの送受信が飛躍的に増加した。人や場所、機器、システムといった接続先も種類や数、規模がはるかに拡大している。それに応じて通信の回線や規格なども、有線ではアナログからISDN、光ファイバーなどに、無線ではモバイル(2G/3G/4G/5G)やWi-Fi(無線LAN)、Bluetooth、NFC(近接無線)など多様化が進み、それぞれにおいても進化し続けている。
同社 ネットワークインフラストラクチャ事業部 執行役員 エンタープライズ本部長の岡崎真大氏によると、かつてネットワークの進化をけん引したものは、消費者向けサービスだったと指摘する。インターネットや携帯電話、スマートフォンの普及により、電子メールやSNS、ECやオンライン決済、映像配信などさまざまなサービスが登場した。ここでネットワークに求められていたのは、安全・安心、快適にサービスを利用できることだった。
こうした要件は企業やビジネスでも同様だが、さらに大容量性や高いレベルでのリアルタイム性(低遅延)、精度、接続性などが加わる。その背景にあるのが、クラウドコンピューティングやAI、IT/OTといったテクノロジーの活用だ。
ネットワークを取り巻くトレンド(ノキアソリューションズ&ネットワークス資料より)
ノキアは、2030年を想定した「テクノロジーディレクション」という展望で、機械学習などを含むAI、エッジ-クラウド、ウェブ3.0/ブロックチェーンの3つが重要なファクターになると考えている。
岡崎氏は、「例えば製造なら、多種多様なセンサーからのデータを処理、分析し、AIなどを用いて機器やシステムを制御したり、オペレーションを自動化したりするなどの取り組みが拡大している。また、仮想現実(VR)などを利用したデジタルツインなども登場している。それらを支えるIT技術自身においてもコンテナーやマイクロサービス、マルチクラウド環境の利用が拡大している。増大する現実世界やサイバー空間のあらゆるつながりの信頼を分散的に担保する上でブロックチェーンなどが不可欠になる。つまり、データの所在や動きがかつてないほどに大規模で複雑になり、ネットワークへの要件も非常に幅広いものになっている」と話す。
ネットワークの環境は、有線/無線のLANからWAN、データセンター、キャリア(通信事業者)バックボーン、大陸間接続に至るまで実に多様だが、企業やビジネスを中心に多様化するニーズへ対応するには、ニーズを中心に置いてさまざまなネットワークを一体的に捉まえ最適な形で利用していく「クロスドメインネットワーク」という考え方が基本になるという。
しかしながら、この考え方を基にユーザーの要件やビジネスなども理解して、エンドツーエンドでネットワークソリューションを提供できる人材が不足している。従来にないスキルセットを必要とする点もあるが、岡崎氏は、「現状では(AIやクラウドなどの)アプリケーション寄りのエンジニアが人気となり人材も増えているのに対し、インフラ寄りのエンジニアの人材が不足している。ネットワークのエンジニアは個々のドメインに特化する傾向にあったが、今後は異なるドメインにも対応しなければならない」と指摘する。
このため同社は、2024年6月に「AI-Poweredエンタープライズネットワーク・トレーニングプログラム」を国内で立ち上げた。同プログラムは、クロスドメインネットワークのアーキテクチャーを担う人材の育成が目的になる。ユーザーやビジネスのニーズを理解して全体的なネットワーク設計を行えるよう、クラウド/データセンターやデータセンター間といったネットワークの選択、整合性の確保、ネットワーク運用の自動化や自律化におけるAIの活用などを習得する機会を提供していくという。