5月25日から26日にかけて、次世代の産業リーダーを育成することを目的に設立されたNew Industry Leaders Association(NILA)主催のイベント「New Industry Leaders Summit」(NILS)が開催された。多くのベンチャー企業経営者が集結したこのイベントでは、Web 2.0など最新の市場動向をテーマとしたセッションや、ベンチャー企業の経営ノウハウについて話し合うセッションが満載だった。
今回の特集では、各セッションの様子をレポートする。特集第1回のレポートは、「ベンチャー企業と大手企業のwin-win戦略」だ。ここでは、ベンチャー企業と大手企業が手を組んで成功した事例が紹介された。General Atlantic 日本代表 本荘修二氏をモデレーターとして、IBM Venture Capital Group ベンチャーディベロップメントエグゼクティブ日本担当 勝屋久氏、リアルコム 代表取締役CEO 谷本肇氏、日本ヒューレット・パッカード(HP) テクニカルセールス総括本部 アドバンスドテクノロジー・ソリューション部 重松隆之氏、ウルシステムズ 代表取締役社長 漆原茂氏の4名が各社の関係について語った。
IBMとリアルコム、HPとウルシステムズというスピーカーの4名は、ベンチャー企業と大手企業のパートナーシップで成功した2組だ。
IBMの勝屋氏によると、IBM Venture Capital Groupはベンチャーキャピタル(VC)という肩書きを背負っているにも関わらず、実質的な「投資」は行わないのだという。ただし、VCと情報交換をすることで先端技術に取り組むベンチャーにアプローチし、「IBM、VC、ベンチャーの3社が皆幸せになれるような『トリプルウィン』の仕組みを作る」としている。リアルコムとの出会いも、同社に出資するエイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)の仮屋薗聡一氏を通じての紹介だったという。
では、どのようなベンチャー企業にアプローチするのかというと、「IBMのミドルウェアをベースとしたアプリケーションを開発するISVが中心だ」と勝屋氏。ミドルウェアというものは、アプリケーションがあるからこそ力を発揮するものだからだ。その勝屋氏が「この人とはうまくやっていける、ぜひ一緒に仕事がしたい」と感じたのが、リアルコムの谷本氏だ。
リアルコムは2000年4月に設立され、ナレッジマネジメント分野にて製品やコンサルティングを提供している。製品としては、ナレッジマネジメント総合スイートの「EnterpriseSuite」、Notes再活性化ツールの「HAKONE for Notes」、Notesログ分析ツールの「Notes Watcher」、社内ブログ・ソーシャルネットワーキングツール「PeerLinks」を提供しており、2003年にIBMとの協業を開始している。
リアルコムの谷本氏は、両社が協業に至ったきっかけとして、「お互い2002年頃から話し合いはしていたが、実際にパートナーとなるきっかけがなかなかなかった。それが2003年、ある大手銀行がリアルコム製品の採用を決定し、その案件のプライムベンダーがIBMだったので一緒に仕事をすることになった。その銀行はIBMにとっても重要な顧客だったため、それがきっかけとなってパートナーシップの話が本格的に進み始めた」と説明する。
一方IBMの勝屋氏は、リアルコムのナレッジマネジメント分野での実績や経営チームに魅力を感じていた。「IBMはナレッジマネジメント分野において魅力的なソリューションを保有してない。リアルコムはその弱みをカバーしてくれる企業だった」と勝屋氏。同時に、IBMではLotus Notes事業をどう伸ばすべきかという課題を抱えていた。「リアルコムと組めば、Notesユーザーに価値のあるソリューションが提案できる」--勝屋氏はこう直感した。
もちろん、これはリアルコムにとってもありがたい話だ。IBMと組むことで、IBMブランドがバックにつく。販売力やチャネルの開発力も大幅に向上する。両社にとって、お互いの弱みを強みで補完しあえる関係だったのだ。
日本HPとウルシステムズのケースは、資本関係にまで及ぶ。以前HPがグローバルでベンチャーへの投資をしていた時期に、両社はまず資本関係を結んだ。その後両社は、モバイルコマース分野で協業したほか、大手通信サービス事業者からの案件を共同受注するなど、結びつきが深くなっている。
バブル崩壊後はHPもベンチャーに対する出資は行っていないが、パートナーを組むなどしてベンチャー支援は続けている。日本HPの重松氏は、「HPはインフラを提供する会社だが、インフラに載るサービスがないとインフラは意味をなさない。そのため、サービスを提供する企業に注目している。また、新事業を始める際には、その新分野を手がけている新しい力が必要だ」と、ベンチャーに期待することについて語った。
ウルシステムズとの出会いについて重松氏は、「まず出資する際、ウルシステムズはやりたいことに対する明確なビジョンを持っていたため、サポートしやすかった」と話す。また、技術的にも「世間でJavaが騒がれ始めた頃、HPでもJavaに興味を持ったが、あまり得意ではなかった。ウルシステムズはJavaに強い人材が豊富で、HPのエンジニアもウルシステムズと組むことで育つことができた」という。
ウルシステムズの漆原氏によると、「出資から始まり、モバイルコマース分野の協業、大型案件の共同受注など、関係は徐々に拡大していった。その後ウルシステムズとしても上流コンサルティングに移行していったため、しばらくHPと共同で事業展開することはなかったが、現在ではお互いにソリューションパートナーとなって大型システムを開発することもあれば、ウルシステムズのソフトウェアをHPに販売してもらうこともある。ウルシステムズの顧客に対してHPが支援することもあり、関係はより深まっている」と話す。また同氏は、「ウルシステムズはスピードも根性もある」と、ベンチャーとしての強みをアピールした。
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