米Microsoftは4月2日からサンフランシスコで開催していた開発者向けカンファレンス「Build 2014」で、一部のOSを無償化すると発表した。具体的には、9インチ未満のWindows Phone、タブレットに用いるWindows 8.1(RTを含む)を無償化する。ここにはOffice 365の1年分のライセンスも含まれる。
歴史的な経緯として、WindowsとOfficeのライセンス販売が生命線だったMicrosoftのこの措置は、明らかな経営戦略の転換を示すため、大きな反響を呼んでいる。
同社は、電話、タブレット、PCの8~9割のソースコードを共通化する「Universal Windows Apps」に取り組んでいる。PC向けWindowsでの圧倒的な存在感を生かし、iOSやAndroidに遅れを取っていたモバイルデバイスの領域を本気で取りに行く戦略における、1つの施策であることは間違いなさそうだ。ただし、狙いはそれだけではない。
「デバイス&サービスカンパニーになる」――Microsoftがぶち上げたこの戦略の本気度を示すものと言える。これまではPCやタブレット、組み込み端末向けのOSなどデバイス分野が主戦場と思われていたMicrosoftが、データベース、クラウド、エンタープライズアプリケーションなど法人向け市場を巻き込んだ1つの絵で説明できるようなビジネスモデルにかじを切る考えだ。
ここで、キーワードは、「モノのインターネット、Internet of Things」ということになる。今回無償化されたOSは、特に名前が決まっているわけでないこともあり、「IoT向けWindows」などとも呼ばれている。下記の図を見てもらいたい。これは、IoTへの取り組みを説明するために日本マイクロソフト自身が作成した資料だ。
今回無償化を発表した携帯電話向けやタブレット端末向けは、右上の箱の上に位置する。一方、左上には「デバイス」とかかれた領域がある。センサ、駆動装置、専用機器などの組み込み端末が実例として挙げられており、Build 2014ではこの領域についても、ライセンス無償化が適用されるとの発表があった。
Microsoftのビジネスは現状、消費者に分かりやすい右上のPCやタブレット向けOSだけではなく、真ん中の箱にある、クラウド、ビッグデータ、サーバとかかれた「サービス」のビジネスの比率が高まっている。
第2四半期(2013年12月31日締め)の決算では、「System Center」「SQL Server」「Office 365」(企業向け)といったエンタープライズ製品で構成する「コマーシャル」部門の売り上げが前年同期比10%増の126億7000万ドルだった。
一方、Windowsの売上高は、企業向けライセンスが低調だったコンシューマー向け販売を埋め合わせる格好で3%減少。ゲーム機のXboxとタブレットのSurfaceを除くと、全体的に企業向けの製品やサービスが会社全体を引っ張る形になっている。
データの流れで言えば、携帯電話やタブレット、あるいは組み込み機器からさまざまなデータが、Windows Serverや、Microsoft Azureなどのクラウド基盤上にあるSQL Serverに集まり、データを分析して有効な情報に加工した上で、再び端末側に戻し、利用者が仕事(農業の効率化など)や遊び(顧客の好みに応じたコンビニクーポン券など)に活用できるようにする――いわゆるプラットフォームとしてビジネスを展開するのがMicrosoftの狙いだ。米IBM、Oracleなどの競合企業もほぼ同じことを考えている。
2013年11月、「The Microsoft Conference 2013」で講演するために来日した米Microsoft Internationalのプレジデント、Jean-Philippe Courtois(ジャン・フィリップ・クルトワ)氏は、クラウドサービスのAzureについて、売り上げだけでなく品質の維持向上への取り組みを重視するよう日本法人の社員に伝えたという。背景に、プラットフォームビジネスを展開する上で、インフラであるAzureの品質が重要になるとの考えがある。
また、図の下側にあるように、プラットフォームを「データ活用」などの形式で他社に提供したり、Microsoft自身がAzureやサーバの運用管理などで得る収益増も見込める。
もちろん、OSを無償化することによって、Windows Phoneのユーザーが増え、そのユーザーがMicrosoftのアプリストアで買い物をし、対価の30%を得るというコンシューマー向けのアプリビジネスも視野に入れていると考えられるが、金額面のインパクトは小さいのではないか。
今回のOSの無償化の発表はすなわち、Microsoftのプラットフォームビジネス確立への布石と考えられるのである。
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