前回のコラムでは、国内のコンタクトセンター業界を牽引する、りらいあコミュニケーションズの中込社長にインタビューし、日本企業の「デジタル変革についてのリアルな実態」について聞いた。
新たなデジタル・テクノロジを導入して着実に変革を進めている一方、その範囲は特定の組織に留まっており、全社的な取り組みにはいたっていない。変革スピードを速める必要性は感じつつも、成功事例による社内のコンセンサスなどが必要で、期待しているスピード感で進められないジレンマを感じとることができた。
この問題は、りらいあコミュニケーションズに限ったことではない。戦略コンサルティングを事業の軸とする米Forrester Consultingの調査(従業員1000人以上の企業において、部課長以上の役職者396人を対象に実施)によると、たいていの企業は、他社に後れを取るまいと、新たなデジタル・テクノロジをいずれかの形で導入してデジタル変革を推進しようとしている。
しかしながら、組織全体でデジタル変革を実現する見通しが立っている企業は4社に1社(24%)しかない。さらに、競合他社との差別化を図ることができる程度にまで成熟を遂げている企業はわずか5%に留まっている。つまりは、デジタル変革の必要性は感じていても、実を結んでいる企業は現時点ではほんの一握りにしか過ぎないということになる。
なぜ、デジタル変革が実を結ばないのか。必要な人材・スキルの不足、経営層の十分な支援が得られないなど理由は多々あるが、開始するタイミングの問題を忘れてはいけない。変革を起こすタイミングには、「予知」「反応」「危機」の3つがある。
企業にとって最も望ましいのは、将来の環境変化を見越して業績が順調な時から変革を開始する「予知」であるが、この段階で変革を起こせる企業は、第2回のコラムで紹介したGEのように一部のビジョナリーな企業に限られる。「反応」は、自社の業績に変化の兆しが見えた時点で取り組みを開始することであるが、この段階で変革を起こせる企業も少数だ。なぜなら、まだまだ既存事業が十分な収益を上げていて、新たな収益源の確保や変革へ対する意識が希薄なケースが多いからである。
大半の企業(特に日本企業)は、会社が看過できないほどの赤字を抱え、事業継続の「危機」が見え隠れした段階でようやく本気モードに切り替わり、変革に乗り出す。日本の電機や半導体の企業はまさにこの状態である。病気やケガと同じように、後手に回れば回るほど対応は難しくなる。
なかには富士フイルムのように、デジタル化による構造変化の度合いが大きい業界に置かれても大改革に成功し、順調に業績を伸ばしている日本企業もある。「危機」に直面して果敢に変革に取り組んだ企業の好例といえる。しかし、その改革を主導した古森会長が、かつてを振り返り、改革を始めるタイミングの難しさを語っている。
1980年代始めから、これからはデジタル化の大きな波が来るぞと、当時、皆感じていた。しかし、どのくらいのスピードで、どこまでフィルムが代替されるか分からなかった。私は課長や部長という立場ながら、将来に向けた新規事業の育成を会社に訴えていた。
しかし、写真フィルムが絶好調で大きな利益が出ていたこともあり、経営陣は積極的ではなかった。「まだまだ写真フィルムいけまっせ」という雰囲気もあった。今振り返ると、目先の利益が若干減ったとしても、早い段階から新たな事業柱を育成しなければいけなかった。
出典:「魂の経営」古森重隆著(東洋経済新報社)
では、「危機」になる前の「予知」や「反応」の段階で変革を推進するには何が必要か。その鍵となるのが、危機意識を醸成することだ。変革のマネジメントの世界的な権威であるジョン・P・コッターも、いかに企業変革を成功に導くかについて論じた著書「企業変革力」の中で、“現状満足や自己肯定が変革を妨げてしまう”と、危機意識を醸成させる必要性を繰り返し説いている。
とはいえ、この危機意識を醸成することがまた難題だ。業績が悪くても、競合企業も同じ状況だから仕方がない、誠意をもって目の前のお客様に満足してもらうことに集中しよう、といった美麗字句で終わる場合が多い。まして、業績が良いときは、「なぜ上手くいっているのに変えるんだ!これで、業績が下がったらお前はどう責任を取ってくれるんだ!」といった罵声が飛んでくることになる。
しかし、トヨタ自動車のように、過去最高益の時でさえも危機意識を持って取り組んでいる企業もある。このような企業の取り組みから、危機意識を醸成させ、変革を加速させる上で有効な取り組みをいくつか紹介していこう。
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