同日は原子力研究についても触れられた。澤田氏は、一言に原子力といってもさまざまな研究ジャンルがあり、それが縦割り状態になっていたため、かつて横串で見られる状態になかったという。ただ、高木氏によれば20年ほど前から学会でも横断的にいろいろな分野をつなぐセッションを設けるなど、横串を通した研究の取り組みが始まっていったという。そして事故後には、より体系的な研究の流れが加速していると語った。
その一方で、高木氏はいまなおつきまとうネガティブなイメージから、研究者の不足ならびに研究の衰退を危惧しているという。原子力研究に関する学部を擁する大学が少なくなっており、現在では3校のみ。「原子力発電を継続するにしても、廃炉にして取りやめるにしても研究者は確実に必要」(高木氏)とし、反原発が生む若い人が育成できない雰囲気について疑問視しているという。
澤田氏も「将来的に、原子力を中国から輸入するという未来もありえる」と付け加えた。澤田氏が言うには、中国では原発を増設している状態が続いており、さらに研究者の待遇もいいことから増加しているという。この状況が続くとするならば、数十年後に原子力の技術などを中国に頼る時代が来ると分析している。
小関氏は、北海道大学大学院工学研究科教授で本作にも登場する奈良林直氏への取材を通じ、日本の原子力の安全に対する体制が不十分であると認識したという。ひとつの例として、欧米では原発の運転ができるほどの専門知識を持つ検査員が、抜き打ちで厳重にチェックするものの、日本では膨大な書類のチェックだけで終わってしまう“手ぬるい”状況だとしている。それゆえ、小関氏は温暖化や地球環境を考えると原発は選択肢のひとつと思うものの、日本が現状のまま原発の再稼働することには疑問という考え方を示した。
第ニ部に登壇した菅氏は東日本大震災当時、首相として対応にあたった。そのときの状況を振り返りながら説明。さらに2週間前ほど前に、国会で東京電力の廣瀬直己社長に現状確認のための質問したエピソードを通じて、今なお福島第一原発が予断を許さない状況であることを伝えていた。
事故後、仮に事故が収束できず最悪の事態に陥った場合に、強制移転の区域のシミュレーションを原子力委員会委員長に指示。そこで出てきたのは、福島第一原発から半径250キロ圏内、人口にして5000万人が避難するという可能性。半径250キロ圏内は神奈川県の一部(横浜以西)を除く首都圏を包みこむことになり「5000万人の人が、それまで住んでいた地域に戻れない状況が10年から20年続く。人っ子ひとりいない東京や横浜などを想像すると、本当に恐怖」(菅氏)というように、国家としての機能を失うに等しい深刻な事態に陥ることが予測される。
菅氏は「事故が起きていなければ、いわゆる原発の安全神話を信じ続けていたかもしれない」と振り返りつつ、事故後は考えを変えたという。国家が機能しなくなるほどの大きな被害を出すものは戦争と原発以外にはなく、さらに地震や津波といった天災は防ぎようがないものの、原発は動かさなければ事故が起こりようがないと主張。国家の機能を失うリスクをもってしても使う必要があるのかと、原発に頼らないエネルギー施策を訴えた。
この日は河野氏からのビデオメッセージも上映された。河野氏は「原発事故は過去に起きたことではなく、いまだに続いていること。廃炉や汚染水問題も毎日新しい話が出てくる。今のエネルギー問題に真摯(しんし)に取り組まないといけない。人格攻撃ではなく、いろんな建設的な議論をしてほしい」とメッセージと寄せた。また黒川氏は第一部としてのまとめではあるが「現在原子力に関わっている方々は、ある種の使命感を持っている。また、エネルギー問題には大きな権力も動いている世界であり、どのように扱っていくかはよく考えるべき今後の課題」と語った。
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