PCやスマートフォンだけでなく、机や衣類、食器まで、あらゆるものがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)時代が本格的に訪れようとしている。米ガートナーは、2020年にはIoTデバイスの数が250億個になると予測。また、IDCは2014年に約6500億ドルだった世界のIoT市場規模が、2020年には1.7兆ドルに拡大すると予測している。
IoT市場の成長の鍵を握るのが、デバイスから取得したデータをクラウドで処理するための通信ネットワークだ。現状ではIoT事業者は、通信キャリアやMVNOが提供する月額制の通信サービスを利用する必要がある。しかし、IoTデバイスには常時インターネット接続しないものも多い。たとえばスマートロックは、ドアを開け閉めするタイミングでしかデータ通信が発生しないため、一般的な通信サービスではコスト負担が大きい。
こうした課題を解決するのが、IoT向けに通信サービスを提供するMVNO(仮想移動体通信事業者)であるソラコムだ。NTTドコモとMVNO契約し、同社の基地局を利用。また、元Amazon Web Services (AWS)のエバンジェリストであるソラコム代表取締役社長の玉川憲氏の経験を生かし、モバイル通信のコアネットワーク(パケット交換、回線管理、帯域制御など)とサポートシステム(顧客管理、課金)をAWSのクラウド上に構築することで低価格を実現した。
同社が提供する「SORACOM Air」は、IoTデバイスにSIMカードを挿し込むだけで、1日10円からの従量課金で通信サービスを利用できる。これにより、通信コストは最安月額300円で済む。SIMは標準、nano、microの3種類があり、それぞれデータ通信のみと、SMS機能ありから選べる。価格はAmazonで購入した場合、1枚900円程度。ウェブブラウザやAPIから、通信速度の変更や通信の休止/再開、通信の監視、イベントに応じた処理の設定などを一括操作できることも、同社ならではの強みだ。
2015年9月末にサービスを開始し4カ月ほどで、キヤノンや東急ハンズなどの大手企業や、中小企業、スタートアップなど、幅広い業界の1500を超える事業者に導入されているという。たとえば、NPOのSafecastは、ガイガーカウンターにSIMを入れて放射線情報のオープンマップを提供。北海道の十勝バスは、路線バスにSIMを入れて運行情報をリアルタイムに知らせるアプリを提供している。
また、パルコは店舗内のカメラにSIMを入れ、来客の性別や年代、時間軸を識別することで客層分析に活用。リクルートライフスタイルは、1カ月間だけの臨時店舗に設置された無料POSレジアプリ「Airレジ」に、ソラコムの通信サービスを導入した。スマホで子どもの写真を撮るだけで、離れて暮らす祖父母の家のテレビに送信するIoTデバイス「まごチャネル」などにも使われているそうだ。
通信内容をIoT事業者側で制御できることによるメリットもある。たとえば、学校などの教育現場でタブレットを配布し、授業や実験などの際には通信できるが、休み時間などには停止させるといった、教師によるコントロールが可能になるという。
ところで、1日10円からの従量課金モデルで収益化できるのだろうか。この疑問に対し玉川氏は、「我々は、できるだけ多くの人に低価格でサービスを使っていただきたい。そのために、自動化やテクノロジによって運用コストをどんどん下げていき、そこで浮いたお金を料金に還元している」と説明する。まさに、元アマゾンの玉川氏だからこそ実行できる薄利多売モデルだ。
なお、現在は法人向けの提供がメインだが、今後も個人向けに直接、通信サービスを提供する予定はないという。個人向けに展開するには、ショップやカスタマーサポート体制をしっかり構築し、販売チャネルも設けなければならないためだ。ただし、ソラコムのネットワークを使って、訪日旅行者向けにSIMを提供するといった事業者は歓迎したいとしている。
同社は、IoTエコシステムを構築するためのパートナープログラム「SORACOMパートナースペース(SPS)」も、2015年9月末から開始している。1月末時点で117社から申請があり、21社が認定されているという。たとえば、インテグレーションパートナーには日立製作所やハンズラボなどが名を連ねている。2月4日には、SORACOMプラットフォームの再販を可能にする「SORACOM リセラープログラム」も開始した。
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