勝屋氏:谷本さんの選球眼についてお聞きしてもいいですか。
谷本氏:アーリーの場合は経営者を見なければいけないので、直野さんという経営者がいたから投資したというのが正直なところです。後は、技術的なとこで非常に大きな可能性を秘めていること。世界を変えるというと大げさですが、それだけのポテンシャルを秘めているし、特許などの経営管理面でも直野さんはプロなので、条件はそろっていましたから。
勝屋氏:谷本さんが直野さんに投資先を決めた時のエピソードを教えて下さい。
谷本氏:「僕のところでやるんですよね?」という前提でお話させていただき、その上で条件面を詰めていったので、直野さんからすると選択の余地はなかったかもしれませんね(笑)。ただ、その代わり「金は出します」とコミットしていましたので。
勝屋氏:谷本さんが投資を決めて1年以上経つわけですが、直野さんにとって谷本さんはどんな存在なのですか。
直野氏:お互いそうだと思いますが、期待してるのは「プロの目」です。現場を預かるわたしは現場を預かるプロとして、投資家の人たちにはできないことをやらなければいけない。
わたしの仕事は「絶対に抜けられない穴に絶対落とさない」ことだと思っています。
まだこの世に存在しないサービスを始めるとなると、参考にするものも比較対象もないため、山ほど間違いを犯します。間違いを犯しながらもフィードバックを行っていくのが重要なのですが、その中で「取り返しのつかない間違い」というものが存在します。
先ほど申し上げた「抜けられない穴」とはそういう意味なのですが、その危険回避は私だけではとてもカバーできません。その穴を投資家の経験上からの視点で「ここに穴があるよ、危ないよ」と谷本さんに指摘していただいたことがあります。それは現場の視点からでは分からないことだったんですよ。
我々技術サイドには失敗の経験というのが不足していると強く思います。いい悪いは別にして、失敗しまくっている人には投資をしないものですから。ただ、我々はまだ失敗の経験がないものですから、失敗の危険性を感じ取れないんです。その点をうまく補っていただいたと思っております。
谷本氏:そう言われるとかっこいいけど、起業に必要な社労士を紹介したりなど、何でもやらせていただいています。後はソフトウェアのテストやモニターもやりました。抵抗は特にないので、できることは何でもという感じですね。
勝屋氏:なるほど。やはり谷本さんのように投資経験が豊富な方だと、そうした危機回避という重要な場面でVCとしての役割を果たすこともできるのですね。ちなみに何社くらいに投資されたのですか。
谷本氏:100件はいかないですが、数十件はやっております。 VCは薄い案件を100件やるより、濃い案件を10件やる方がいい。その方が価値が高いと思っていますから。
直野さんの案件でいうと、お金を出すだけでもないし、そんなに口を出しすぎでもないと、自分は思っております。他のところでも、だんだん不安になってきたら意見を言いたくなってくるのですが、そこですぐに口を出してしまっては駄目。当然、間違ったことをしていれば修正しなければならないのですが、許容範囲であれば口はなるべく出さない方がいいんです。直野さんを含め、現場の経営者にはいかに気持ちよく仕事をしてもらえるかというところに腐心しないと。
直野氏:私は若干違う意見を持っています。確かに投資家があまりにも細かく指示をして会社が右往左往する自体は避けなければなりません。でも、誤解を恐れず強い言葉で言うと、私が投資家に期待することは適切に我々をクビにするということが、最大の役割だと思います。精神論的な側面が強いので、こういった表現は日本のVCは喜びませんが。
これは谷本さんがそうということではなく、VCの方には「10社持ってるから10分の1分かっていれば良い」ではなく、情報開示も徹底的にするので、我々の経営の内側をチェックして欲しい。また、私がいなくても他の執行側の人間と話ができる体制を作っていただきたいです。
ゴールは私を守ることではなく、会社を守ることなのですから。
勝屋氏:話を聞いていると、お2人は最初から波長が合っていたとは思うのですが、どんな感じで人間関係を構築されていったのですか。
谷本氏:私はあまり器用じゃないので、常に本音で言っています。だから、人間関係を作る前に、必ず喧嘩してしまう。直野さんとの時も相当やり合いましたよ(笑)。駆け引きは上手じゃないので、本音でぶつかるのですが、それを乗り越えると後が楽になりますし。
直野氏:しかし、ああいうやり取りはお互いにビジネス・バックグラウンドがあるからできるのであって、どちらかが素人でしたら成り立たないでしょう(笑)。
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