コンテンツにスキップ

市町村長

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
町長から転送)

市町村長(しちょうそんちょう)とは、地方公共団体(市・町・村)の長である市長町長村長の総称。

日本

[編集]

市町村首長であり、同時に独任制執行機関でもある。また、同等の地位である東京都特別区区長を含め、「市区町村長」(しくちょうそんちょう)または「区市町村長」(くしちょうそんちょう)と言うこともある。

地位と職務

[編集]

地位

[編集]

地方公務員法の規定により、地方公務員法の規制を受けない特別職地方公務員とされる。

市町村長は日本国憲法第93条の定めにより、住民による選挙で選ばれる。また、選挙権被選挙権などは公職選挙法および地方自治法に規定される。

任期・資格

[編集]
  • 任期は4年(地方自治法第140条)。
    • 任期満了による選挙が任期満了日前に行われた場合において、前任者が任期満了日まで在任したときは任期満了日の翌日から、選挙後に前任者が欠けたときはその欠けた日の翌日から、それぞれ起算する(公職選挙法第259条)。
    • それ以外の場合は、選挙の日から起算(公職選挙法第259条)。
    • 退職申し出による選挙(いわゆる出直し選挙)において同じ者が当選人となったとき、任期は、その選挙がなかったものとみなして数える(公職選挙法第259条の2)。
  • 満25歳以上の日本国民原則として被選挙権を有する[注釈 1]禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者などは対象外)。地方議会の議員と異なり、当該市町村に住んでいない(住民登録していない)者でも立候補できる。つまり全国どこの自治体の長にも、どこに(日本国内)住んでいてもなれる。25歳以上との年齢制限も、これを引き下げるほうがよいとの意見も一部にある(若者の政治参加を促すためとも)。例えば20歳にするなど。
  • 国会議員または地方公共団体議会議員および常勤職員との兼職は禁止。
  • 当該自治体と取引関係にある企業の取締役などの幹部との兼職は禁止。ただし、当該市町村が出資する企業[注釈 2]公営企業第三セクター等)は除く。

解職・不信任

[編集]
  • 住民の直接請求の制度として、住民投票による解職(リコール)の制度がある。
  • 議会には長の不信任の議決をする権限が与えられている。不信任の具体的な成立要件は不信任決議記事を参照
    • 不信任を受けた場合、長は10日以内に議会を解散するか辞職するかを迫られることになるが、何れも選択しなかった場合は失職する。また、議会を解散した場合、選挙後の最初の議会において再度不信任された場合は失職する。

職務・権限

[編集]

市町村長は市町村を代表する独任制の執行機関にして、市町村の組織を統括・代表し、また、事務を管理し執行する。具体的には、市町村の予算を調製・執行したり、条例の制定・改廃の提案及びその他議会の議決すべき事件について、議案を提出したりすることができる。(地方自治法第147149条

簡単に言うと、市町村の事務のうち、他の機関[注釈 3]が処理すると定められているものを除いた全てを担当する。

他、補助機関である職員を指揮監督すること、市町村内の公的機関の総合調整を図るために必要な措置を行えることなどが定められている。

議会との関係

[編集]

市町村長は、上述の議案提出権のほか、議会の議決に対して異議のある場合は再議に付すことができる(いわゆる拒否権の行使)。ただし、議会の3分の2以上の多数で再議決された場合はその議決は確定する。また、議決が違法であると認める場合は都道府県知事に審査を求めることが出来る。

また、議会の権限に関する事項において、議会が決定しない場合や委任の議決がある場合など、地方自治法の定める場合において、職権で事件を処理することができる。これを専決処分という。

そして、不信任の議決を受けた場合と、不信任の議決を受けたと見なせる場合[注釈 4]に限られるが、議会を解散する権限も持つ[注釈 5]。以上のように、拒否権のみならず、議案提出権や議会解散権をも持つ。

補助機関

[編集]
市町村長を補佐し、その命を受け政策及び企画つかさどり、その補助機関たる職員の担任する事務を監督するとともに市町村長の職務を代理し、またその権限の一部の委任を受けて事務を執行することとされている。なお、2007年平成19年)3月までは同様の職として助役が置かれていた。
会計事務をつかさどる。改正地方自治法の施行により2007年(平成19年)3月31日限りで収入役は廃止され、会計管理者という一般職の職員となった。ただし、特例により、2007年(平成19年)3月31日現在に在職していた収入役はその任期が満了するまで在任した。
  • 職員
一般職に属する地方公務員。以前は「吏員その他の職員を置く」とされ、うち吏員は技術吏員と事務吏員に分けられていた。
  • 専門委員
長の委託により調査研究を行うために置かれる非常勤の職員。学識経験者があてられる。

退任後のキャリア

[編集]

通常、市町村長を退任した者はそのまま政界を引退することが多いが、退任後もその市町村議会議員選挙に立候補し、当選するケースもある。

平成の大合併以降

氏名 期数 過去の役職 後の役職 就任日 退任日
今泉利拓 85
6
潮来町 潮来市議会議員 2000年2月10日 2024年2月9日
前田清子 69
2
五個荘町 東近江市議会議員 2005年10月23日 2013年10月22日
藤岡和美 78
2
久居市 津市議会議員 2006年2月5日 2014年2月4日
小番宜一 91
1
本荘市 由利本荘市議会議員 2009年4月17日 2009年10月31日
岩室敏和 77
5
阪南市 阪南市議会議員 2009年10月1日 現職
藤倉肇 83
1
夕張市 夕張市議会議員 2011年5月1日 2015年4月30日
櫻井忠 72
6
苫小牧市 苫小牧市議会議員 2011年5月1日 現職
亀山春光 80
1
江迎町 佐世保市議会議員 2011年5月3日 2015年5月2日
奥田尚佳 57
4
尾鷲市 尾鷲市議会議員 2013年6月11日 2021年6月10日
竹内千尋 65
1
志摩市 志摩市議会議員 2013年10月13日 2016年8月5日[注釈 6]
野名澄代 75
5
大王町 志摩市議会議員 2013年10月13日 現職
佐藤仁一 73
2
岩出山町 大崎市議会議員 2014年4月30日 2019年9月6日[注釈 7]
若生英俊 74
2
富谷町 富谷市議会議員 2015年9月11日 2023年9月10日
大口秀和 73
2
志摩市長 志摩市議会議員 2017年10月13日 2020年10月11日[注釈 8]
大澤一治 77
2
八千代市 八千代市議会議員 2019年1月15日 現職
三上元 79
2
湖西市 湖西市議会議員 2019年4月30日 現職
堀元 79
4
江南市 江南市議会議員 2019年5月1日 現職
宮越馨 83
2
上越市 上越市議会議員 2020年4月29日 現職
桜井勝延 68
3
南相馬市 南相馬市議会議員 2022年12月1日 現職
平塚明 84
9
結城市 結城市議会議員 2023年4月30日 現職
佐藤征治郎 85
1
岩槻市 さいたま市議会議員 2023年5月1日 現職
竹原信一 65
4
阿久根市 阿久根市議会議員 2023年5月1日 現職
黒田実 55
4
交野市 交野市議会議員 2023年10月1日 現職
天野市栄 66
2
阿賀野市 阿賀野市議会議員 2024年11月1日 現職

日本の市町村長の歴史

[編集]

欧州

[編集]

名称

[編集]
  • イギリス
    • スコットランド以外の主要都市はロード メイヤー(Lord Mayor)、それ以外の市・町は『Mayor(メイヤー)』が肩書きとして使われる。Mayorはラテン語『mājor』(~より大きい)が語源である。
    • スコットランドでは、主要都市はロード・プロヴォスト(Lord Provost)が、それ以外の市・町は『プロヴォスト』と呼ばれる。
  • デンマーク
    コペンハーゲン市長は『Overborgmester』、その他の市・町は『borgmester』
  • ドイツ
    主要な都市などの市長は『Oberbürgermeister』、その他の市・町は『bürgermeister』
  • フィンランド
    ヘルシンキ市長は大統領から肩書きが送られ『ylipormestari』、一般的に市長をあらわす『kaupunginjohtaja』より多く使われる。

各国の首長制度

[編集]

イギリス

[編集]

イギリスでは市長に直接公選制を導入するかどうかは各自治体に委ねられており全ての都市で公選制が採用されているわけではない。直接公選制は地方レベルの政治参加を促すために2000年にブレア労働党政権が導入を可能とした[1]

市長の任期はロンドンの場合は6年である。

ヨーロッパでは国政職と地方職の兼任を認めている国が多いが、イギリスでは国政職と地方職の兼職は伝統的に好まれず、国政職と地方職を兼任していた人物も稀でキャリアの点でも分離される傾向がみられる[2]。稀な例としてアトリー内閣で内相を務めたH・モリソン(旧・ロンドン市議)がいるが「タマニー型のボス」(タマニーは18世紀末期に市政の私物化で批判されたニューヨークの政治団体の名前)としてその政治姿勢が非難された[2]

イタリア

[編集]

イタリアコムーネには合議体の理事会(giunta)が設置されており、執行部に市長の個性が現れる度合いは小さい[3]

イタリアでは政党の力が強く、市政も市長の個性が現れにくい機構であるため、市長が国政進出時にそのキャリアを買われることは特になく、政党内でのキャリアのほうが重視される傾向にある[3]。イタリアの下院議員は何らかの地方職を兼任していることが多いが、1960年代大都市の市長などと国会議員の兼職は禁じられた[3]

その他の国々

[編集]

以下は直接公選の首長制をとっていない。

  • フランスでは選挙法によって国政職と地方職の兼任が認められている[3]。下院議員の大多数は市町村長・助役・県議会議員などを兼職しており、中には4つや5つの地方職を兼任している下院議員もいる[3]。フランスは中央集権的国家とされているが、政党の力が弱く、地方職は政治家個人の政治キャリアにとって重要とされている[3]

米国

[編集]

アメリカ合衆国では自治体ごとに機構が異なる。

アメリカ合衆国の地方の機構は、市長-議会型、議会-支配人型、評議会型の3つに大きく分けられる[4]。それぞれ市長制(市長議会制、Mayor-Council Form)、シティー・マネージャー制(議会マネジャー制、Council-Manager Form)、委員会制(Commission Form)ということもある[5]

市長-議会型

[編集]

ニューヨークなど東部諸州に多い方式で、議会とは別に市長は住民による選挙で選ばれ、全市一区を選挙区とする市長と全市一区または各地区を選挙区とする議員で構成される議会に権限を分割している[4][5]。しかし、市長の権限の範囲は自治体ごとに大きく異なるため、伝統的に弱市長制(Weak Mayor-Council Form)と強市長制(Strong Mayor-Council Form)にさらに分類されている[5]

  • 弱市長制(Weak Mayor-Council Form) - 各部局長の任命に議会の承認が必要となっていたり、一部の役職は議会に任命権があるなど市長の権限が大幅に制限されている場合[5]
  • 強市長制(Strong Mayor-Council Form) - 連邦制度を参考に各部局長の完全な任免権、条例に対する拒否権、条例の提案権、予算の調製権など広範な権限が認められている場合[5]

弱市長制では権限が分散して小政府の寄せ集めの様相を呈する弊害が指摘され、現代的な統治形態としては十分に機能しないため、小規模自治体を除きこの統治形態は減少している[5]。強市長制は19世紀末の市政改革運動(リフォーム運動)で誕生し、政策の一貫性や効率的な予算執行など数多くの面で弱市長制を凌駕する有効性を発揮した[5]

ニューヨークの場合、市長の任期は4年で、政策立案執行、行財政運営、市法制定に対する拒否権、予算案の作成と議会への提出権などを持つ[4]

なお、市長制でも、Chief Administrative Officer(CAO)という専門的行政官を置く自治体が半数以上になっており、市長が市を代表する儀礼的業務や高度な政策決定などの政務機能に専念できる体制をとるようになっている[5]

議会-支配人型

[編集]

スタントンなどでとられている方式で、市長は議会で議員の中から選ばれる[4]。例えばスタントンでは市長の任期は2年で市を代表し、議会を主宰する(議長を兼務)[4]。議会は市長とは別に支配人(City Manager)を任命し、支配人は行政部局の指揮監督、予算案の作成や執行、人事などを行う[4]

シティー・マネージャー制の市長は議会を主宰するほかは、市の代表としては儀礼的用務を務めるのみであることが多い[5]。シティー・マネージャーは専門的行政官として議会から任命される職で、議員とは異なり政治家ではなく行政の専門家である[5]

評議会型

[編集]

住民による選挙で選ばれる評議会が立法機関と行政機関の役割を果たす行政・立法一体型で評議会議長が市長を務める[4]。委員会制ともいい市民によって公選された委員が行政各部局の長となって直接行政を執行する制度で、委員の一人が市長になるものの他の委員と全く同格で拒否権等もない[5]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 議会と違い、その市町村民でなくても被選挙権を行使することは可能(公職選挙法第10条第6号)。
  2. ^ 法的には、当該自治体が資本金の二分の一以上を出資している法人(地方自治法施行令第122条)とされる。
  3. ^ 例えば議会、行政委員会など
  4. ^ 地方自治法第177条第1項および同条第2項により、「非常の災害による応急若しくは復旧の施設のために必要な経費又は感染症予防のために必要な経費」を議会が削除し又は減額する議決をしたときは市町村長は理由を示してこれを再議に付さなければならず、再議に付してもなお議会が当該経費を削除し又は減額する議決をしたときは市町村長は地方自治法第177条第4項によりその議決を不信任の議決と見なすことができる。不信任の議決と見なす場合には市町村長は議会から予算の送付を受けてから10日以内に議会を解散する(全国都道府県議会議長会事務局内地方議会議員大事典編纂委員会『地方議会議員大事典』第一法規出版p280)。
  5. ^ つまり、市町村長が議会を解散できるのは議会から不信任の議決を受けた場合(地方自治法第178条)と不信任の議決を受けたと見なせる場合(地方自治法第177条第4項)に限られ、この要件を満たさない市町村長の議会解散権の行使は無効とされる(仙台高裁昭和23年10月25日判決(『地方議会議員大事典』p542))。
  6. ^ 志摩市長選挙出馬による辞職。
  7. ^ 2019年宮城県議会議員選挙出馬による辞職。
  8. ^ 志摩市長選挙出馬による失職。

出典

[編集]
  1. ^ 下楠昌哉 編『イギリス文化入門』三修社2000年平成12年)、310頁
  2. ^ a b 岩崎正洋 編『民主主義の国際比較』一藝社、2000年(平成12年)、109頁
  3. ^ a b c d e f 岩崎正洋 編『民主主義の国際比較』一藝社、2000年(平成12年)、111頁
  4. ^ a b c d e f g 諸外国及び過去の日本の基礎自治体における執行機関と議決機関との関係 総務省、2022年1月14日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k 澤田道夫「シティマネジャーシステムの機能的特質の研究-基礎自治体における「自治効率」の向上を求めて-」 熊本県立大学大学院、2022年1月14日閲覧。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]