電子捕獲
電子捕獲(でんしほかく、electron capture、略称:EC)とは、原子核の放射性崩壊の一種である。電子捕獲では、電子軌道の電子が原子核に取り込まれ、捕獲された電子は原子核内の陽子と反応し中性子となり、同時に電子ニュートリノが放出される。捕獲される電子は普通はK殻の電子であるが、L殻やM殻の電子が捕獲される場合もある。
現象
編集この壊変では、中性子数が1つ増加し陽子数が1つ減少するため、質量数は変化せず原子番号が1つ減少する。
クォークのレベルでは
電子捕獲は陽子数が過剰で不安定な原子核で起こりやすく、β+崩壊(陽電子崩壊)と競合する場合も多いが、親核と娘核のエネルギー差が1.022 MeVに満たない場合は電子捕獲のみが起こる。
軌道に生じた孔には、その外側の電子軌道から電子が遷移して、軌道のエネルギーの差に相当する波長のX線(特性X線)が放出される。また、より高い準位の軌道電子がこのエネルギーを受け取って原子外に放出されるオージェ電子も観測される。
電子捕獲の頻度は、化学結合や圧力などの外部の影響を受けてわずかに変化する。例えばベリリウム7は、金属状態の半減期と比較して、フッ化物では0.074 %長くなる。また、ベリリウム7原子をフラーレン (C60) の内部に閉じこめることで、半減期が0.83 %短くなったという報告がなされている[1]。
発見
編集β+崩壊は、親核と娘核のエネルギー差が電子と陽電子の静止エネルギー以上でなければ起こりえない。しかし実際には、この関係を満たさない崩壊の例が多くあった。1935年に湯川秀樹は、原子核が軌道電子を捕獲するという別の過程を提案し、1937年にルイ・アルヴァレによってK殻電子の捕獲が実験的に証明された。
電子捕獲の例
編集産業への利用
編集電子捕獲型検出器は原子核の電子捕獲とは別の現象を利用している。光刺激ルミネッセンス OSLは光ルミネッセンスと熱ルミネッセンスの範疇の現象であり電子捕獲とは別の現象と考えられている。
脚注
編集- ^ Ohtsuki, T.; Yuki, H.; Muto, M.; Kasagi, J.; Ohno, K. (2004), "Enhanced Electron-Capture Decay Rate of 7Be Encapsulated in C60 Cages", Phys. Rev. Lett., 93, 112501/1-112501/4.
- ^ 竹内正博、水石和子、山野辺秀夫 ほか、電子捕獲型検出器を用いるガスクロマトグラフィーによる魚介類中のトリブチルスズ化合物の定量 分析化学 1987年 36巻 3号 p.138-142, doi:10.2116/bunsekikagaku.36.3_138
- ^ 金沢純、電子捕獲ガスクロマトグラフィーによる米粒中のBHCの定量 農薬の残留分析に関する研究(第4報) 分析化学 1966年 15巻 9号 p.928-933, doi:10.2116/bunsekikagaku.15.928
- ^ a b 放射線診療技術研修支援システム 日本獣医師会
- ^ a b 鈴木朗史、鈴木武彦、高橋聖 ほか、外部被ばく個人線量測定用OSL線量計の諸特性 日本原子力研究開発機構 2015年3月 JAEA-Technology 2014-049
- ^ OSL線量計(InLight、Albedo、nanoDot) 長瀬ランダウア株式会社
- ^ 下岡順直、長友恒人、石英・長石を試料とした光励起ルミネッセンス年代測定法の基礎研究 RADIOISOTOPES 2001年 50巻 9号 p.381-389, doi:10.3769/radioisotopes.50.9_381
- ^ 鴈澤好博、高橋智佳史、三浦知督、清水聡、光ルミネッセンスと熱ルミネッセンスを利用した活断層破砕帯の年代測定法 地質学雑誌 2013年 119巻 11号 p.714-726, doi:10.5575/geosoc.2013.0052
- ^ 幡谷竜太、白井正明、浅海成堆積物のOSL年代測定 第四紀研究 2003年 42巻 5号 p.347-359, doi:10.4116/jaqua.42.347
関連項目
編集外部リンク
編集- 野地俊平、20pAW-7 荷電交換反応遷移強度の詳細測定による超新星前駆現象にかかわる電子捕獲確率の導出 日本物理学会講演概要集 71.1巻 (2016) セッションID:20pAW-7, doi:10.11316/jpsgaiyo.71.1.0_221