鉄の処女』(てつのしょじょ)は、栗本慎一郎による思想解説書。副題は「血も凍る現代思想の総批評」。当時のニューアカ・ブームに違和感を持った栗本が、ニューアカの旗手たちの思想等を解説・批評する。1985年カッパ・サイエンスとして刊行。タイトルはヨーロッパの拷問器具、鉄の処女アイアンメイデン)から。

内容

編集
  • プロローグで、本書を書いた動機が著者自身によって語られる。議論を避けあう思想界の馴れ合いに「ふざけんな!」と叫びたくなってしまったのだという。また、日本の思想界は、小林秀雄花田清輝林達夫などの文芸批評家が担ってきたが、それらの中に今日も語るべき問題など無いとされる。
  • 「高級コトバ遊びは成功するか」:蓮實重彦を筆頭に柄谷行人三浦雅士らの思想が論じられる。
  • 「実用的思想は日本を救えるか」:渡部昇一谷沢永一竹村健一鈴木健二などの、ニューアカ好きではない、ビジネスマンなどが読む思想家が論じられる。また、通常ニューアカ派に分類される浅田彰山口昌男中村雄二郎も、ここで論じられる。
  • 「裸の大衆に王様が見えるか」:現代思想界で栗本がもっとも高く評価する丸山圭三郎吉本隆明が、論じられる。
  • その他に、Aゾーン(言語で明晰に語られる領域)とBゾーン(そうでない領域)の比という形で、西洋人も含む近現代の思想家がチャート化される章があった。中沢新一、山口が9:1、岸田秀は8:2、蓮實と浅田が6:4、ニーチェカール・ポランニーは5:5、柄谷、吉本が4:6、中村とマルティン・ハイデッガーエトムント・フッサールが3:7、栗本とマイケル・ポランニーが2:8となっている。(鉄の処女の胎内からはたして誰が生還するか)
  • また、月本裕による人物紹介と上杉清文による寸評、高橋春男による「そして誰もいなくなった」のパロディ漫画などが彩りを添える。
  • 高橋の漫画の中で栗本慎一郎に似た人物は「萩本欽一郎」という名前を付けられている。逃走中の朝田枕(浅田彰らしき人物)が、落下してきた下中上健次(中上健次らしき人物)の下敷きになって登場人物が全員死亡するところで、漫画は幕を閉じる。

反響

編集
  • 当時のBRUTUSの編集者、小黒一三は「売れているが、あの本は構成が見事なのであって、中身のアンコは美味しくない」と評した[1]
  • 大岡昇平と柄谷との対談では「この前、鉄の処女とかいうワケの分かんないの読んだよ、栗本慎一郎の」と大岡が言うと、柄谷は「なんであんなことするのか分からない」と答えた[2]
  • 蓮實は、この本での蓮實映画批評への栗本による評価に答える形で「栗本慎一郎という生真面目な学者が、蓮實は映画批評の一部を革新したなどと言っているが、映画を何も分かっていない彼に、そんなことを言われても関係ない」という意味のことを書いた[3]
  • 小阪修平との対談本「言語という神」で、小阪は、他の思想家への評価はおおかた同意だがヘーゲル評価については違和感があると評した。

脚注

編集
  1. ^ 文庫版「東京の血はどおーんと騒ぐ」の解説
  2. ^ 「ダイアローグ」
  3. ^ 「映画狂人」シリーズ

関連項目

編集

外部リンク

編集