皇大神宮
皇大神宮(こうたいじんぐう)は、三重県伊勢市にある神社。伊勢神宮の2つの正宮のうちの1つである。一般には内宮(ないくう)と呼ばれる。式内社(大社)。
皇大神宮 | |
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所在地 |
三重県 伊勢市宇治館町1 |
位置 | 北緯34度27分18.00秒 東経136度43分30.63秒 / 北緯34.4550000度 東経136.7251750度座標: 北緯34度27分18.00秒 東経136度43分30.63秒 / 北緯34.4550000度 東経136.7251750度 |
主祭神 | 天照坐皇大御神 |
神体 | 八咫鏡 |
社格等 |
式内社(大) 正宮 |
創建 | 垂仁天皇26年 |
本殿の様式 | 唯一神明造 |
別名 | 内宮 |
札所等 | 神仏霊場巡拝の道特別参拝 |
主な神事 | 伊勢神宮の祭事を参照 |
地図 |
概要
編集豊受大神宮(外宮)とともに伊勢信仰の中心となる神社で、日本全国の神社で授与される神宮大麻はこの皇大神宮の神札である。
親王の結婚に際して、新婚旅行として「神宮に謁するの儀」が執り行われるのが通例となっている。複数の神社を参拝する場合、格の高い神社から低い神社の順が一般的だが、神宮の通常の神事は外宮、内宮の順で行う[1]。これを外宮先祭と呼び[1]、参拝も外宮、内宮の順で行うのが正しいといわれる[2]。ただし式年遷宮の遷御は皇大神宮、豊受大神宮の順であり[3]、奉幣(ほうへい)は豊受大神宮、皇大神宮の順である。
別宮として、境内に荒祭宮と風日祈宮、境外に月讀宮、瀧原宮と伊雑宮のほか、境内・境外に27社・33座の摂社、16社・16座の末社、30社・30座の所管社を有する。
建物は豊受大神宮と同様に外側から板垣・外玉垣・内玉垣・瑞垣の四重垣に囲まれ、南北の門に宿衛屋が置かれている。建物は神職が交代勤務で24時間、警備・管理を行っている[4]。
最寄駅は近鉄鳥羽線の五十鈴川駅[5]。内宮の鳥居前町であるおはらい町(おかげ横丁)は伊勢市を代表する観光名所である[6]。
祭神
編集- 主祭神
- 天照坐皇大御神 (あまてらしますすめおおみかみ、天照大御神)
- 相殿神
- 天手力男神 (あめのたぢからおのかみ)
- 万幡豊秋津姫命 (よろづはたとよあきつひめのみこと)
歴史
編集『日本書紀』によれば、天照大神は宮中に祀られていたが、崇神天皇6年、笠縫邑に移し豊鍬入姫命に祀らせた。垂仁天皇25年、倭姫命が後を継ぎ、御杖代として天照大御神を祀るための土地を求めて各地を巡った。この経路は『日本書紀』にあまり記述がないが、鎌倉時代初期成立と考えられる『倭姫命世記』には詳述されており、その途中に一時的に鎮座した場所は元伊勢と呼ばれる。垂仁天皇26年、伊勢国にたどり着いたとき、「是の神風(かむかぜ)の伊勢の国は常世の波の重浪(しきなみ)の帰する国なり。傍国の可怜し国(うましくに)なり、この国におらんと欲ふ(この国に留まりたいと思う)」という天照大御神の神託があり、倭姫命は五十鈴川上流の現在地に祠を建てて祀り、磯宮と称したのが皇大神宮の始まりという。鎮座地に関して、伊勢では河川の氾濫が頻発して低湿地が広がっているため、内宮は水害に遭いにくい河岸段丘上に建てられたという説が挙げられている[10][11][12]。
明治時代までは、僧侶の姿で正宮に接近することは許されず、川の向こうに設けられた僧尼拝所から拝むこととされ、西行も僧尼拝所で神宮を拝み、感動の涙を流したという[13]。荒木田氏が祠官を世襲していたが、明治以降は世襲制が廃止された。1945年(昭和20年)7月29日、宇治山田空襲により宇治山田市は甚大な被害を蒙った[14]。内宮にも40機ほどの編隊でアメリカ軍機が神域に迫り、次第に照準が正確になってきたが、内宮の神域に差し掛かったところで焼夷弾は五十鈴川対岸の山に吸い込まれるように流れていった[15]。この「奇跡」により内宮に被害はなく、神職は「ご神威」に涙したという[15]。第二次世界大戦後は元皇族の女性が代々の祭主をつとめている。
境内
編集宇治橋の内側には正宮(しょうぐう)のほか別宮の荒祭宮と風日祈宮、所管社の滝祭神(たきまつりのかみ)・酒の神様を祀る御酒殿神(みさかどののかみ)[16]・御稲御倉(みしねのみくら)・神嘗祭の時に神々の食事の御料を納めた[16]由貴御倉(ゆきのみくら)[注 2]・宮域の守護神を祀る四至神(みやのめぐりのかみ)[16]がある。宇治橋の東に所管社の大山祇神社(おおやまつみじんじゃ)と子安神社(こやすじんじゃ)、丘の上には神宮の祭祀をはじめとするすべての事務を取り扱う神宮司庁(じんぐうしちょう)庁舎がある。
社地の面積は外宮の10倍ほどあり、外宮と異なり右側通行である[17]。境内には神饌を調理する忌火屋殿(いみびやでん)、正宮に供える神饌を調理する儀式を行う御贄調舎(みにえちょうしゃ)、撤下された神宝を保管する外幣殿(げへいでん)、摂末社の遥祀などを行なう五丈殿(ごじょうでん)がある。ほかに祭主・神職が潔斎をする斎館(さいかん)と天皇が宿泊する行在所(あんざいしょ)、皇族から奉納された神馬を飼育する内御厩(うちのみうまや)・外御厩(そとのみうまや)がある。
神楽殿(かぐらでん)では私祈祷の神楽が行なわれ、希望者は奉納ののちに饗膳所(きょうぜんしょ)で直会を行える。神楽殿の神札授与所(おふだじゅよしょ)では神楽の受付のほかにお札・お守り・神宮暦・御朱印の授与などを行なっている。参拝者の休憩所の参集殿(さんしゅうでん)では湯茶が用意されているほか参宮記念品の授与も行っている。
正宮は石段[注 3]を上がった高台に鎮座するが、写真撮影は石段の下までしか許可されていない[18]。石段の下には祭事にアワビを調理する御贄調舎(みにえちょうしゃ)がある[19]。石段を上ると板垣が巡らされ、中央に鳥居のある板垣南御門(いたがきみなみごもん)をくぐって中に入る[18]。板垣南御門の外、石階東側に、南向きに屋乃波比伎神(やのはひきのかみ)が石畳の上に祀られ、神庭を守護している[8][20]。
板垣の内側を御垣内(みかきうち)と言い[7]、その面積は6,807m2である[21]。天照大御神が祀られる御正殿はさらに外玉垣(とのたまがき)、内玉垣、瑞垣(みずがき)に囲まれており、一般参拝者は白い絹でできた御幌(みとばり)のかけられた外玉垣南御門で参拝する[7][19]。参拝の作法は「二拝二拍手一拝」である[19]。
外玉垣の内側、内玉垣の外側には、八重榊(やえさかき)で装飾された中重鳥居(なかえのとりい)と、その東側に奉幣の際に幣帛(へいはく)の点検を行う四丈殿がある[21]。瑞垣の内側は内院と呼ばれる最も清浄な神域であり、その中央部に御正殿が建つ[22]。御正殿は、「唯一神明造」という神明造の中でも伊勢神宮にのみ許された造形で作られている。御正殿の背後には、幣帛などを奉納する東宝殿(とうほうでん)と神宝を奉納する西宝殿(さいほうでん)がある[22]。御垣内の北西端にある石畳には、正宮を守護する興玉神(おきたまのかみ)と宮比神(みやびのかみ)が祀られている[23]。
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鳥居と宇治橋(2023年9月)
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神楽殿 (2005年7月)
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神宮司庁庁舎 (2011年8月)
摂末社
編集内宮別宮
編集別宮(べつぐう)は「正宮のわけみや」の意味で、神宮の社宮のうち正宮に次いで尊いとされる[24]。計10宮。
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内宮摂社
編集摂社(せっしゃ)は、『延喜式神名帳』に記載されている神社(正宮、別宮を除く)。定義では摂社は全て式内社となるが、戦国時代にほぼすべてが廃絶となり、江戸時代の寛永年間(1630年代)から明治初頭(1870年代)にかけて復興されたため、式内社の比定地とされる場合がある[25]。計27社。
内宮末社
編集末社(まっしゃ)は、『延暦儀式帳』に記載されている神社(正宮、別宮、摂社を除く)。計16社。
内宮所管社
編集所管社(しょかんしゃ)は、正宮・別宮・摂社・末社以外の神社。計30社。
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境内の動物
編集神鶏
編集境内では、神の使いとしてニワトリが放し飼いにされている。神の使いとされるのは、天照大御神が、岩戸から出る際に鳴いたとされ、太陽の昇る事を告げる鳥とされているためである。 三重県など8県の愛鶏家が結成する神宮奉納鶏保存会が内宮に神鶏を奉納している[26]。2011年(平成23年)6月5日の奉納では小国鶏のつがい2組(4羽)とチャボ・オナガドリなど25羽が奉納され、境内に放鳥された[1]。神鶏は木の上に止まり眠る[27]。
式年遷宮の諸祭では、つがい22組44羽のニワトリが神使いをする[28]。遷宮祭では、容姿・鳴き声ともに優れ、健康であるが祭典中はおとなしく気品良く振る舞い、可能な限り尾の長い純粋な日本のニワトリであることが条件とされる[28]。各祭典でつがい1組のニワトリが「生調」(いきみつき)として竹の丸かごに入れて供えられ、祭典が終わると神苑に放鳥される[29]。
神馬
編集内宮では皇室から奉納された2頭の神馬を飼育している[30]。御厩(みうまや)にいることもあるが、天候や神馬の体調によりいない場合もある[31]。地元では「お馬さま」と敬称で呼ばれ、写真を撮影されても動じることはない[32]が、ストロボ撮影は禁止されている。
毎月1日・11日・21日には正宮へ参拝する「神馬牽参」(しんめけんざん)が行われる[30]。午前8時前後、神職に伴われ神馬が正宮へ進み、石段の前で正宮にお辞儀をする[33]。神馬牽参の際、神馬は菊の御紋が入った馬衣(うまぎぬ)を身に付ける[30]。
外宮でも内宮同様に2頭の神馬が飼育され、同日に神馬牽参を行う[30]。
現地情報
編集- 所在地
- 交通アクセス
鉄道
- 最寄駅:近鉄鳥羽線 五十鈴川駅
- 徒歩:約30分
- バス:約10分 - 宇治山田駅・伊勢市駅・外宮からの路線
- 近鉄山田線・鳥羽線 宇治山田駅
- バス:約15分
- JR東海参宮線・近鉄山田線 伊勢市駅
- バス:約15分
車
- 伊勢自動車道 伊勢西ICから、三重県道32号伊勢磯部線(御木本道路)を南へ、のち「浦田」交差点から伊勢街道を南へ
- 駐車場:宇治橋周辺の参拝者用駐車場を利用
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c 式内社研究会 編(1990):150ページ
- ^ 伊勢文化舎(2009):98ページ
- ^ 式内社研究会 編(1990):150ページ
- ^ 『一般人は入れない立入禁止地帯』, 歴史ミステリー研究会, 彩図社, 2011年
- ^ “交通アクセス|伊勢神宮”. 伊勢神宮. 2023年9月6日閲覧。
- ^ “伊勢志摩への旅行・観光なら伊勢神宮内宮前おかげ横丁”. 伊勢志摩への旅行・観光なら伊勢神宮内宮前おかげ横丁. 2023年9月6日閲覧。
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- ^ “伊勢神宮のテレビ情報”. TVでた蔵 (2016年6月). 2016年7月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月9日閲覧。
- ^ テレビドガッチ (2016年6月3日). “最強パワースポット「伊勢神宮」の真実にタモリ一行大興奮”. マイナビニュース. 2016年7月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月9日閲覧。
- ^ “「ブラタモリ」4、11日放送は伊勢神宮へ!タモリ式年遷宮後初訪問”. スポーツニッポン (2016年6月4日). 2016年7月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年7月9日閲覧。
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- ^ 伊勢市観光協会"伊勢市観光協会/別宮"(2012年1月8日閲覧。)
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- ^ 大槻宮子「伊勢神宮内宮 小国鶏など奉納 8県の愛鶏家」2011年6月6日付中日新聞朝刊、志摩牟婁 広域三重16ページ
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- ^ a b 矢野(2006):29ページ
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- ^ 主婦の友社 編(2011):24, 81, 87ページ
- ^ 主婦の友社 編(2011):87ページ
参考文献
編集- 伊勢市 編『伊勢市史』伊勢市役所、昭和43年3月31日、954p.
- 伊勢文化舎 編『宇治橋ものがたり』伊勢文化舎、平成21年10月1日、119p. ISBN 978-4-900759-39-8
- 学研パブリッシング『伊勢神宮に行こう』Gakken Mook神社紀行セレクションvol.1、薗田稔監修、学研マーケティング、2013年7月4日、82p. ISBN 978-4-05-610047-1
- 式内社研究会 編『式内社調査報告 第六巻 東海道1』皇學館大学出版部、平成2年2月28日、690p. ISBN 4-87644-080-8
- 出版事業本部 国内情報部 第三編集部 編『るるぶ お伊勢まいり』るるぶ情報版近畿21、通巻4615号、JTBパブリッシング、2014年5月1日、92p. ISBN 978-4-533-09761-4
- 主婦の友社 編『開運!ガールズ♡お伊勢まいり』主婦の友社、2011年1月20日、95p. ISBN 978-4-07-276191-5
- 三橋健『伊勢神宮 日本人は何を祈ってきたのか』朝日新書416、朝日新聞出版、2013年8月30日、230p. ISBN 978-4-02-273516-4
- 矢野憲一『伊勢神宮―知られざる杜のうち』角川選書402、角川学芸出版、平成18年11月10日、270p. ISBN 4-04-703402-9
- 『伊勢神宮参宮公式ガイドブック 辛卯版』講談社MOOK、講談社、2011年5月25日、105p. ISBN 978-4-06-389562-9
- 『伊勢神宮』楽学ブックス 神社1、JTBパブリッシング、2011年4月1日、143p. ISBN 978-4-533-08206-1
- 『いま行く!伊勢神宮お参りパーフェクトブック』みらい出版、2013年12月10日、107p. ISBN 978-4-907292-14-0