水引
水引(みずひき)は祝儀や不祝儀の際に用いられる飾りで贈答品の包み紙などにかける紅白や黒白などの帯紐[1]。贈答品や封筒に付けられる飾り紐のことで、その形や色により様々な使い分けを行う。もしくは、飾り紐などに使われる紐。また飾り紐としてだけでなく、鶴や船などの置物や髪飾りとしても使用される。
歴史と起源
編集その起源は定かではないが、室町時代の日明貿易において明からの輸入品の箱全てに赤と白の縄が縛り付けられており、この縄は明側が輸出用の品を他と区別するために使用していたに過ぎなかったが、日本側がこの縄を贈答に使用する習慣と誤解し、以後の日本で贈答品に赤と白の紐をかけるようになったという説や、航海の無事を祈ったり海賊から守るための魔除けとして縄に塗った黒色毒が解くと赤色に変色したという説などがある。 また宮廷への献上品には紅白の麻の紐で結ぶ習慣があった。 室町時代後期になると麻の紐の代わりに紙縒に糊水を引いて乾かして固め、紅白あるいは金銀に染め分けた紙糸が使用されるようになった。
水引の贈答文化
編集水引は未開封であるという封印の意味や魔除けの意味、人と人を結び付けるという意味あいがあり、水引結びは引けば引くほど強く結ばれるものが多い。いわゆる日本の贈答ラッピングである水引は、西洋のラッピングやリボンのように解く事を前提としたものとは意味合いが異なる。品物を包む和紙の折型や水引の結び方と表書きの書き方によって用途を使い分ける。
水引素材
編集水引とは、贈り物の包み紙などにかける和紙でできたヒモのようなもので、 和紙をこより状にして(細く切った紙をよったもの)糊をひき(のりを塗る)、乾かして固めたものである。この状態のままでも使用される事も多くあるが、さらに金銀の薄紙を巻いたり、極細の繊維を巻きつけて使用する事が多い。
技術
編集平安時代からコウゾやミツマタの栽培と、それを原料にした和紙作りが盛んであった長野県飯田市において、江戸時代に藩主が武士の内職として製造法を習わせたのが始まりとも言われ、丈夫で水にも強い飯田台帳紙を活用した元結(武士の髪を結ぶ紐)の製造も始まった。明治維新の断髪令により、元結の消費量は少なくなったが、元結に改良を加え、光沢のある丈夫な水引を作り出した。元結もまた水引の重要な素材のひとつとして、現在の相撲の髷(まげ)に使用されている。
日本各地の水引
編集水引細工
編集大正5年(1916年)頃、金沢市の津田水引折型の創始者、津田左右吉がそれまでは平面的であった水引結びから立体的な鶴亀松竹梅や鎧具足などの水引細工を創作したのが始まりとされる。その津田流水引独自の作風を加賀水引として確立させ金沢市の希少伝統工芸として定着している。水引細工は結納や金封に飾るようになり一般的に認知されるようになった。 昭和時代になると、水引の結び方もさまざまな結び方が開発され金封、結納品、水引細工の生産が増えた。現在では、封筒に付ける飾り紐や小物や趣味として作成する人もいる。
結び方
編集あわび結び(あわじ結び)
編集古くからある水引の基本の結び方であり、慶事・弔事・神事・佛事全てに用いられる結び。贈答目的によって水引の色を使い分ける。 結び目の形が貝のアワビに似ているからという説もあるが、名前の由来は定かではない。
結び切り
編集「一度切りで繰返さない」という認識が地域により見受けられるが、これは昭和時代に広まった認識であり、本来は(明治時代~昭和時代頃)あわじ結びをせずを結んだだけで、あわじ結びより軽い気持ちで贈る場合や身内に贈る場合に用いるもの。 本結び、真結びとも呼ばれる。
より返し(あわじ返し)
編集あわじ結びの変形。大きな品物や重い品物などを結ぶ時に、あわじ結びだけでは頼りない場合に用いる。寄りを返す波に例えて、善い事が幾重にも重なるようにという意味をもち婚礼には使用しない。
引き結び(輪結び)
編集「縁起を切らない」という事から余った水引を切る事をなるべく避けて輪にして結ぶ。すべて滞りなく丸く納まるようにという意味を持ち、特に婚礼に好んで用いられる。
リボン結び(蝶結び・花結び)
編集開く事を目的としたリボン結びであり本来の水引の結びではない。結び直す事ができる形状から「何度あっても良い」という認識も見受けられる。
その他の結び方の例
編集-
あわじ結び・熨斗なし
(香典袋(不祝儀袋)。葬儀で用いられる) -
あわじ結び・熨斗なし
(黄色と白の水引は、主に関西・北陸地方で法要の際に用いられる) -
リボン結び・熨斗あり
(慶事等に用いられる)
水引の色
編集色 | 用途 |
---|---|
赤白 | 祝い事全般に用いられる。紅白は下記の通り特殊な水引のため、一般的に紅白の水引と呼ばれているもののほとんどは赤白の水引の誤用である。 |
紅白 | 皇室の祝い事にのみ用いられる。用途の特性上、販路も限られるため、一般に目にすることはほとんどない。紅色の水引は赤い染料を使用して染めてはいるが、染め上がった水引は玉虫色と言われる濃い緑色をしており黒と見間違いやすい。 |
金銀 | 結婚祝い・結納などに用いられる。長寿祝いや褒章受章祝いなど結婚以外でも一生に一度のようなお祝い事には使われることもある。また、地域によっては赤白同様に一般のお祝い事に使われることもある。 |
金赤 | 神札や門松飾りなど、特殊な用途にのみ使われる。 |
黒白 | 香典やお供えなど、主に仏事に用いられる。欧化政策により黒が喪の色とされた明治以降から使用されている。京都や、京都の文化の影響を受けた地域では皇室で使われる紅白の水引と見間違えやすいことから使用しなかったが、現在では徐々に広まっている。 |
黒銀 | 黒白に同じ。 |
黄白 | 香典やお供えなど。主に上記の理由で黒が忌避される関西・北陸地方の法要で用いられる。黒の次に尊い色が黄色である事から。 |
双銀 | 香典など。主に仏事で用いられる。(女性が香典を出すときやキリスト教形式の場合にも用いられる)(総銀は誤用) |
双白 | 香典など。主に神事で用いられる |
青白 | 昔は仏事に用いられていたが、近年はほとんど用いられない |
備考
編集結納の時には、水引で編んだ半ば結納飾りが添えられる(省略されることもある)。 結納品の場合、松・竹・梅・鶴・亀の飾りや、宝船や海老、鯛、くす玉、小槌、蝶などの縁起物が選ばれることが多い。 神職が金品などを贈る場合に麻苧を結ぶ風習がある[2]。
出典
編集- ^ “意匠分類記号 F3-13181(水引、のし等)” (PDF). 意匠分類定義カード (F3). 特許庁. p. 31. 2014年4月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月4日閲覧。
- ^ 『祀典』大谷書舎2006年9月27日発行全762頁中324頁