普通科 (学校)

日本の後期中等教育を行う課程に設置される「普通教育を主とする学科」

普通科(ふつうか)とは、日本後期中等教育を行う学校学校教育法第1条に規定するもの(一条校))に設置される「普通教育を主とする学科」のことである。

概要

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一般的に普通科というと、高等学校中等教育学校の後期課程、特別支援学校高等部におけるものを指すことが多い。高等学校、中等教育学校の後期課程における普通科については、「高等学校設置基準」(平成16年文部科学省令第20号)の第5条第1号・第6条第1項、「高等学校学習指導要領」などに定められている。特別支援学校における普通科については、「特別支援学校の高等部の学科を定める省令」(昭和41年文部省令第2号)の第1条・第2条第1項、「特別支援学校高等部学習指導要領」などに定められている。

普通科における教育の大半を占める普通教育は、専門分野に特化した専門教育(事例として、商業高等学校の授業科目において、2/3は普通科目の授業で、1/3が商業科目である。)に対して、幅広い分野のうち、特に基礎的なものを扱うという普遍的教育を目指している。学校によってはこの普通科をコースごとに分け、中には「大学進学コース」や「特別進学コース」など、大学受験に特化したコースを設置している所も存在する。教科としては国語・地理歴史・公民・数学・理科・英語・保健体育・家庭・芸術・情報及び総合的な学習の時間を主に履修する。一部に商業などの専門科目や学校設定教科・科目を履修する学校もある。

高等学校の普通科の生徒数は、215万535人(令和5年度・5月、学校基本調査による)であり、高等学校の本科生徒総数(290万9703人。同調査)に占める割合は、74.1%(同調査)である[1]。普通科は2023年度時点の日本で最も高卒就職で苦戦しやすい学科である。就職希望したのにもかかわらず、工業科卒が88.4%の一方で内定率が64.1%と最も学科別で低い結果となっている[2]

普通科

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高等学校、中等教育学校の後期課程

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高等学校、中等教育学校の後期課程における教育課程の基準は、高等学校学習指導要領(文部科学省告示)に定められる。

普通科では、国語地理歴史公民数学理科保健体育芸術外国語家庭情報という主に「普通教育に関する各教科」による教育活動が行われている[3]

これらの教科のほか、教科外活動として総合的な学習の時間特別活動もある。また、学校によっては専門教科や、学校設定教科・学校設定科目を履修させる学校もある。

卒業までに取得が必要な単位数は、「各教科に属する科目」の単位数と「総合的な学習の時間」の単位数を含めて74単位以上とされている。なお、「単位」については、1単位時間を50分として、35単位時間の授業を1単位として計算することが標準とされている[4]。普通科では学校設定教科・学校設定科目は一定単位までしか卒業に必要な単位に含められず、現行学習指導要領では20単位が上限である。

この他、高大連携科目や専門学校の科目などの学校外における学習も36単位まで校長が認定することができる。

「普通教育に関する各教科」には、それぞれ教科に属する科目が設けられ、各科目ごとの標準単位数は次のとおりである。なお、次の各科目においては一部が「必修科目」とされており、必修科目については、表内の規則に基づいて履修しなければ高等学校を卒業することはできない。

(出典:[5]

普通教育に関する
各教科
各教科に属する科目 標準単位数 必修科目[注釈 1]
国語 現代の国語 2単位 「現代の国語」及び「言語文化」
言語文化 2単位
論理国語 4単位
文学国語 4単位
国語表現 4単位
古典探求 4単位
地理歴史 地理総合 2単位 「地理総合」及び「歴史総合」
地理探求 3単位
歴史総合 2単位
日本史探求 3単位
世界史探求 3単位
公民 公共 2単位 「公共」
倫理 2単位
政治・経済   2単位
数学 数学I 3単位[注釈 2] 「数学I」
数学II 4単位
数学III 5単位
数学A 2単位
数学B 2単位
数学C 2単位
理科 科学と人間生活 2単位 1.「科学と人間生活」と「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」から1科目
2.「物理基礎」、「化学基礎」、「生物基礎」、「地学基礎」から3科目
(1または2のどちらか)
物理基礎 2単位
物理 4単位
化学基礎 2単位
化学 4単位
生物基礎 2単位
生物 4単位
地学基礎 2単位
地学 4単位
保健体育 体育 7単位 - 8単位 「体育」及び「保健」
保健 2単位
芸術 音楽I 2単位 「音楽I」、「美術I」、「工芸I」および「書道I」のうちから1科目
音楽II 2単位
音楽III 2単位
美術I 2単位
美術II 2単位
美術III 2単位
工芸I 2単位
工芸II 2単位
工芸III 2単位
書道I 2単位
書道II 2単位
書道III 2単位
外国語 コミュニケーション英語I 3単位[注釈 2] 「コミュニケーション英語I」
(英語以外の外国語を履修する場合は、
学校設定科目として設ける1科目とし、
その標準単位数は3単位とする。)
コミュニケーション英語II 4単位
コミュニケーション英語III 4単位
論理・表現I 2単位
論理・表現II 4単位
論理・表現III 2単位
家庭 家庭基礎 2単位 「家庭基礎」、「家庭総合」のうちから1科目
家庭総合 4単位
情報 情報I 2単位 「情報I」
情報II 2単位
理数 理数探求基礎 1単位
理数探求 2単位 - 5単位
総合的な学習の時間 3単位 - 6単位 (必修)

なお「専門教育を主とする学科」(専門学科)においては、一部の「必修科目」を「専門教育に関する各教科」に属する科目によって代替することも認められている[6]が、普通科においてはこのような措置は一切ない。

特別支援学校の高等部

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特別支援学校の高等部における教育課程の基準は、特別支援学校高等部学習指導要領(文部科学省告示)に定められる。

視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者、病弱者

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視覚障害者、聴覚障害者、肢体不自由者または病弱者である生徒に対する教育を行う特別支援学校においては、高等学校、中等教育学校の後期課程に準じた、主に「普通教育に関する各教科」による教育活動が行われている。

そのほか、教科外活動として総合的な学習の時間や特別活動に加え、自立活動もある。また、学校によっては専門教科や、学校設定教科・学校設定科目を履修させる学校もある。

卒業までに取得が必要な単位数[7]および「単位」の計算については、高等学校、中等教育学校の後期課程に準じて行われる。

知的障害者

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知的障害者である生徒に対する教育を行う特別支援学校における各教科については次のとおりである。

  • 特に示す場合を除き、全ての生徒に履修させるもの
国語、社会、数学、理科、音楽、美術、保健体育、職業
  • 学校や生徒の実態を考慮し、必要に応じて設けることができるもの
外国語、情報

これらの教科のほか、教科外活動として道徳、総合的な学習の時間、特別活動ならびに自立活動もある。

各教科、道徳、総合的な学習の時間、特別活動(ホームルーム活動に限る)および自立活動の総授業時数は、 各学年とも1,050単位時間(1単位時間は50分として計算するものとする)を標準とし、特に必要がある場合にはこれを増加することができる。この場合、各教科等の目標および内容を考慮し、各教科および総合的な学習の時間の配当学年および当該学年における授業時数、道徳、特別活動および自立活動の各学年における授業時数を適切に定めるものとする。

それぞれの授業の1単位時間は、生徒の実態および各教科等の特質を考慮して適切に定めるものとする。

教育課程

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多くの学校では、2つ以上の類型をおいて、卒業後の進路に対応した教育が行われる。一般的に文系・理系の類型を置く学校が多い。通常文系・理系の類型選択は2年次に行われることが多い。一部の進学校においては、共通テストへの対応や、広い教養を身につけることを目的に2年生まで共通の教育課程で行い、3年次から類系選択を行うところがある。その他、学校の事情や特色に応じて、文理系・英語系などの様々な類型が置かれる。一方で類型を置かない学校もある。その場合も様々な選択科目をおいて、おのおのの進路に対応した教育課程となっている[8]

必修となっている科目のほとんどは1年次に配当されていることが多い。

文系

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主に文系大学短期大学を含む)や専門学校への進学、公務員への就職を進路志望とする生徒に提供される類型である。国語地理歴史公民英語に重点を置いた教育課程が組まれる。さらに私立大学進学に対応したコースと数学の履修も重視した国公立大学に対応したコースに分かれる学校もある。

理系

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主に理系の大学への進学に対応した類型である。数学・理科・英語に重点を置いた教育課程が組まれる。一方で国公立大学の多くはは国語・地理歴史を共通テストの受験科目として課すため、これら2教科の授業も行う。数学は数学IIIまで履修するのが通常だが、看護学・農学・薬学などの一部学科においては数学IIIまで試験範囲としていない大学があるため、多くの学校では数学II・数学Bまで履修するコースを置いていることがある。理科のうち基礎がない科目は化学、物理、生物、地理の4科目であるが、地学を設置する高校は少なく[9]、残りの3科目の中から1または2科目選択させるところがほとんどである。

文理系

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6教科の内容をまんべんなく履修できる類型である。主に国公立大学受験を希望する生徒のために置かれる。特に文系学部向けであることが多い。

新しい普通科

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普通科総合選択制

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新しい普通科のあり方の1つ。基礎学力を重視しながら、生徒の興味関心や進路に応じて、幾つか設定されたエリアから1つを選んで学習する。生徒は各エリアごとに指定されたエリア指定科目を履修する。エリア指定科目と必履修科目を除く科目は自由選択科目と呼ばれ、生徒が自由に選択して履修できる。総合学科の系列と異なり、エリアは1つを選択して履修しなければならない。選択科目の割合は、従来の普通科より多く、普通科単位制より少ない。また、系列とは異なり、エリアは専門性を深めていくものではなく、生徒の興味関心を引き出すために設置されている。どのエリアを選択しても、進学・就職両方に対応している。概ねエリア選択科目は4科目8 - 12単位程度である。 普通科総合選択制またはこれに類する新しい普通科は、北海道・神奈川県・京都府・大阪府・兵庫県(エリア選択制)などに設置されている。 複数の専門学科が設置されている高等学校で採用されている総合選択制とは異なる。 しかし、専門的な学習を深めるには不向きなシステムのため、大阪府などの一部の高校では普通科専門コースへの改編が進んでいる。

普通科単位制

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必修科目以外は、全て選択科目となっている。授業はほとんどがクラス単位ではなく、選択した科目ごとに生徒が教室を移動して授業を受ける。学年の概念がなく、ときには2年生と3年生が同じ教室で授業を受けることがある。しかしクラス単位の活動は、ホームルームや行事、必履修科目の授業などで行われる。生徒の興味・関心・進路希望にきめ細かく対応できる。進学校で様々な受験科目に対応するために採用される進学型単位制普通科。そして、生徒が原級留置(留年)することを防ぐため、卒業までに74単位を取得できれば卒業できるように採用している高校がある。多様な選択科目を実現するために、教員の加配が行われる。

進路・就職難易度

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普通科における卒業後の進路は、大学進学、専門学校進学、就職(就業)、高卒無業者に分かれる。

学科別の高卒者における就職難易度

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文部科学省によると、「2024年3月高等学校卒業予定者」の2023年10月末時点の就職希望者の内定率(就職内定率)を学科別でみると「工業科卒」が88.4%であり、最も就活に強い学科となっている。2位以下は「看護学科卒(5年課程5年次の内定率)」88.1%、「商業科卒」82.8%、「水産科卒」80.7%、「農業科卒」79.2%、「福祉科卒」78.6%、「情報科卒」78.3%、「家庭科卒」78.1%となっている。「2024年3月高等学校卒業予定者」の平均就職内定率は前年同期比1.1ポイント増の77.2%であった。「総合学科卒」75.0%、「普通科卒」64.1%、この2科のみ全学科平均を下回った。普通科卒での就職希望者は、最も高卒で就職難易度が高いという結果であった[2]

普通科コース設置校

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普通科コース設置校を表示するには右の [表示] をクリックしてください。⇒⇒⇒⇒⇒

専門学科ほどではないにしろ、普通科の中で専門科目が履修出来るものをコース制と呼ぶ。入試段階から一般コースを分けて選抜する学校と、2年生進学時に選択する学校がある。体育コース・音楽コース・美術コース・福祉コース・情報コース・理数コース・国際コースなどがある。

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脚注

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注釈

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  1. ^ 生徒の実態及び専門学科の特色等を考慮し、特に必要がある場合にはその単位数の一部を減じることができる(標準単数が2単位であるものを除く。)
  2. ^ a b 生徒の実態及び専門学科の特色等を考慮し、特に必要がある場合には、2単位とすることができる。

出典

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  1. ^ 小学科別生徒数(本科)”. 統計センター. 2024年8月4日閲覧。
  2. ^ a b 24年3月卒の高校生就職内定率77.2%「工業科」トップ(リセマム)”. Yahoo!ニュース. 2023年12月18日閲覧。
  3. ^ ただし、「専門教育に関する各教科」を開設することを妨げるものではなく、普通科であっても法令上は専門教育を主体とした教育課程を編制することが可能であり、そのような学校も少数ある。
  4. ^ 例えば、週に1回・50分の授業を1年間受けたら1単位となる。但し、週に5回・10分間の授業を1年間受けて1単位とすることも可能。
  5. ^ 【総則編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説”. 文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室. pp. 220-221, 224. 2024年10月7日閲覧。
  6. ^ 例えば、工業に関する学科においては、社会と情報、情報の科学のいずれかを専門教科「工業」の科目「情報技術基礎」で代替できる。
  7. ^ 自立活動については、授業時数を単位数に換算して、この単位数に含めることができる。また総合的な学習の時間の単位数については、学校や生徒の実態に応じて適切に定めるものとする。
  8. ^ たとえば  上溝南高等学校平成28年度入学生教育課程 http://www.kamimizominami-h.pen-kanagawa.ed.jp/cal.html#H28cal
  9. ^ 吉田幸平、高木秀雄「高等学校理科「地学基礎」「地学」開設率の都道府県ごとの違いとその要因」『地学雑誌』第129巻第3号、2020年、337-354頁、doi:10.5026/jgeography.129.337 

関連項目

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