放送衛星
放送衛星(ほうそうえいせい、Broadcasting Satellite、BS)とは、衛星放送専用に設計・製作された人工衛星である。通信衛星(CS)の1つとして位置づけられる。直接放送衛星(Direct Broadcast Satellite)とも呼ばれる。
概要
編集放送衛星の基本的な機能は通信衛星と同様、搭載した中継器(トランスポンダ)で地上から送信(アップリンク)した電波を受信したのち別な周波数に変換し地上に向けて再送信する(ダウンリンク)ことである。通信衛星との違いは送信出力や使用する周波数帯、カバーする地域、所有者や法的な位置づけなどに見られる。
通信衛星では当初はCバンド(6/4GHz)Kaバンド(30/20GHz)などがよく用いられ、放送衛星ではKuバンド(14/12GHz)が用いられる(周波数はアップリンク/ダウンリンクの周波数帯)。ただしKuバンドは降雨時の減衰が著しいため赤道地域では影響の少ない2.6GHz帯も利用される。
直接放送の場合、個別受信のためアンテナの大きさに制約がある。このためKuバンドにおいて100~200W程度の高出力を要求される。
静止衛星のカバー範囲は本来は概ね地球の半分であるが国際通信に用いられ、特定の通信事業者間の通信に限られる通信衛星と異なり不特定多数の視聴者が受信できる直接放送衛星においては政治的・文化的事情から近隣の国に対するダウンリンクの漏洩(スピルオーバー)を厳しく制限する必要がある。日本の放送衛星ではスピルオーバーを最小限に抑制するため、アンテナの形状に工夫が凝らされている。
また日本では放送衛星は放送事業者、通信衛星は通信事業者により所有されその目的もそれぞれの業務に限定されたが1989年の放送法改正により通信事業者も受託放送事業者として通信衛星を用いた放送ができるように、また2001年(平成13年)には電気通信役務利用放送法を新設し通信事業者の通信衛星サービスを用いて他事業者が行う衛星役務利用放送制度が誕生した。現在、日本では専ら放送に用いるために打ち上げた人工衛星を放送衛星と呼称しており東経110度Kuバンド右旋円偏波によるBSデジタル放送とBSアナログ放送が行われているほか、2004年(平成16年) - 2009年(平成21年)に東経144度Sバンド左旋円偏波による移動体向け放送サービスを行っていた衛星も放送衛星に区分されている。通信事業者が打ち上げた衛星のなかには映像配信に特化した広帯域中継器のみを持つものも少なからずあり、その大半を直接放送の用途に使用している機体もあるがそちらはなおも通信衛星とされている。
日本においての放送衛星の周波数の割り当ては当該記事詳述のとおり、BS1-BS23のうちの奇数番号の12個のチャンネルが割り当てられている。このため、アナログ放送時代はBSの放送チャンネルがすべて奇数(当時はBS1-BS15のうちの8つであったが、実際に使用されたのは6つ[注釈 1])である。また2002年から始まった通信衛星の「東経110°CS放送[注釈 2]」はこの名残りから[要出典]物理チャンネルはND2-ND24のうちの偶数番号の12チャンネルとなっている。
左旋と右旋
編集放送衛星は、電波の偏波面(振動面)が時間の経過とともに回転する「円偏波 (えんへんぱ)」の方向に向かって、左回りが「左旋円偏波 (させんえんへんぱ)」、右回りは「右旋円偏波 (うせんえんへんぱ)」という。日本の衛星放送では、既存BS(2016年に実施された4K・8K試験放送を含む)・および110度CSでは右旋が使用されてきたが、2017年の4K試験放送では110度CSの左旋、2018年12月1日に開始された4K・8K本放送(実用放送)においては、既存の右旋には現行の2Kハイビジョン放送に加えて4Kを割り当てるとともに、新たにBS左旋と110度CS左旋に4K・8Kを割り当てている。[1]
歴史
編集- 1945年 - イギリスの小説家アーサー・C・クラークが衛星放送を提案
- 1965年 - NHK、独自の衛星放送構想を発表
- 1974年 - 米国、応用技術衛星ATS-6で2.6GHz帯で中継実験
- 1976年 - カナダ、通信技術衛星CTSで放送実験
- 1984年 - 中国、東方紅2号を打ち上げ
日本
編集東経110度放送衛星
編集- 1978年(昭和53年)
- 1984年(昭和59年)
- 1986年(昭和61年)
- 2月12日 - 放送衛星2号b(BS-2b)「ゆり2号b」N-IIロケット7号機で打上げ。これによりNHKの衛星放送2チャンネル体制が確立(12月25日、NHK衛星第2テレビジョン=BS-11ch開局。これで第1テレビは総合テレビ、第2テレビは教育テレビの時差編成中心に)
- 1987年(昭和62年)
- 7月4日 - NHKがゆり2号bによるNHK衛星第1テレビジョン(BS1)24時間独自編成開始(地球による食のシーズン=2-4月と9-10月の深夜から未明及び年数回の月による食の日中の休止時間除く)
- 1989年(平成元年)
- 1990年(平成2年)
- 1991年(平成3年)
- 4月1日 - 初の民間放送局であるWOWOWおよびSt.GIGAによる衛星放送開始(前年11月30日よりノンスクランブルでのサービス放送で実質開局していたが、この日より正式なスクランブルをかけた有料放送を開始)
- 4月19日 - NHKが補完衛星BS-3HをNASAのアトラスで打ち上げるが失敗
- 8月25日 - 放送衛星3号-b(BS-3b)「ゆり3号b」NASDAのH-Iロケット8号機で打上げ
- 11月25日 -ハイビジョン試験放送(8時間/日)開始(当初はハイビジョン推進協会に免許が割り当てられ、NHK・民放・家電メーカーが時間・曜日に関係なくランダムに番組を編成するようになっていた。また一般視聴を目的とした放送では事実上世界史上初のハイビジョン専門放送局であった)
- 1994年(平成6年)
- 1997年(平成9年)
- 1998年(平成10年)
- 4月29日 - BSAT-1b(BS-4b)打ち上げ。8月1日から運用開始(予備機)
- 2000年(平成12年)
- 6月2日 - 国際電気通信連合(ITU)世界無線通信会議(WRC-2000)閉幕。日本にBS放送帯域として12.0 - 12.2 GHz右旋円偏波が新たに割り当てられ、BS-17,19,21,23チャンネルとして追加された。[2]
- 12月1日 - BSデジタル放送開始(BSAT-1bを使用。これによって民間放送系列のBS放送が一斉開局。またアナログハイビジョンの「実用化試験放送」は民放BSの開局に伴い事実上終了し、以後はデジタルへの円滑な移行を目的としてNHK BSハイビジョン放送のサイマル放送のみとなる)
- 2001年(平成13年)
- 2003年(平成15年)
- 2007年(平成19年)
- 2010年(平成22年)
- 2011年(平成23年)
- 3月31日 - NHKのBSデジタルハイビション放送終了。NHKのBS1/BS2がハイビジョン放送へ移行。これに伴い、「NHK衛星第1テレビジョン」は「NHK BS1」[注釈 3]、「NHK衛星第2テレビジョン」は「NHK BSプレミアム」にそれぞれ正式チャンネル名を変更
- 7月24日 - BSアナログ放送終了[注釈 4]
- 7月18日 - サッカー女子日本代表がアメリカとのW杯の決勝戦で、ビデオリサーチ社が2008年から調査をしているBSの視聴率調査で初の二桁視聴率である10.7%を記録。BSの視聴率10%を超えたのは2011年9月11日のサッカー女子ロンドン五輪アジア最終予選の10.1%と合わせて2回だけだった[3]
- 8月7日 - 東経110度CSとのBS・CSハイブリッド衛星BSAT-3c打ち上げ(当初は7月2日に打ち上げ予定だった)
東経144度放送衛星
編集- 2003年(平成15年)
- 1月17日 - 2.6GHz帯衛星デジタル音声放送が放送方式として制度化される(東経144度左旋円モバイル向け放送 2,630 - 2,655MHz)
- 2004年(平成16年)
- 2009年(平成21年)
- 3月31日 - 15時、モバHO!放送終了
準天頂放送衛星
編集脚注
編集注釈
編集出典
編集関連項目
編集- 人工衛星
- 静止衛星
- 衛星放送
- 通信衛星(CS)
- フットプリント (人工衛星)
- 放送衛星を用いたサービス