往生要集

源信の編纂による仏教書

往生要集(おうじょうようしゅう)は、比叡山中、横川(よかは)の恵心院に隠遁していた源信[1]が、寛和元年(985年)に、浄土教の観点より、多くの仏教経典論書などから、極楽往生に関する重要な文章を集めた仏教書で、1部3巻からなる。

死後に極楽往生するには、一心に仏を想い念仏の行をあげる以外に方法はないと説き、浄土教の基礎を創る。また、この書物で説かれた、地獄極楽の観念、厭離穢土欣求浄土の精神は、貴族や庶民らにも普及し、後の文学思想にも大きな影響を与えた。

一方、易行とも言える称名念仏とは別に、瞑想を通じて行う自己の肉体の観想と、それを媒介として阿弥陀仏身として観仏する観想念仏という難行について多くの項が割かれている。

また、その末文によっても知られるように、本書が撰述された直後に、北宋台州の居士で周文徳という人物が、本書を持って天台山国清寺に至り、中国の僧俗多数の尊信を受け、会昌の廃仏以来、五代の混乱によって散佚した教法を、中国の地で復活させる機縁となったことが特筆される。

内容

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  • 巻上
    • 大文第一 厭離穢土 - 地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天人の六道を説く。
    • 大文第二 欣求浄土 - 極楽浄土に生れる十楽を説く。
    • 大文第三 極楽証拠 - 極楽往生の証拠を書く。
    • 大文第四 正修念仏 - 浄土往生の道を明らかにする。
  • 巻中
    • 大文第五 助念方法 - 念仏修行の方法論。
    • 大文第六 別時念仏 - 臨終の念仏を説く。
  • 巻下
    • 大文第七 念仏利益 - 念仏による功徳。
    • 大文第八 念仏証拠 - 念仏による善業。
    • 大文第九 往生諸行 - 念仏の包容性。
    • 大文第十 問答料簡 - 何よりも勝れているのが念仏であると説く。

解釈

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法然

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法然は、一見すると天台の教えに沿ったこの書の主眼は、

導和尚云 若能如上念念相続畢命為期者 十即十生 百即百生 若欲捨専修雑業者 百時希得一二 千時希得三五

善導の『往生礼讃偈』の引用文より、観想念仏から専修念仏へ誘引するための書として重視した[2]。また法然は『選択本願念仏集』において、

往生礼讃云 若能如上念念相続畢命為期者 十即十生 百即百生 何以故 無外雑縁得正念故 与仏本願相応故 不違教故 随順仏語故 若欲捨専修雑業者 百時希得一二 千時希得五三 (中略) 私云 見此文 弥須捨雑修専 豈捨百即百生専修正行 堅執千中無一雑修雑行乎 行者能思量之
(訓読)往生礼讃に云く、「若し能くかみの如く念念相続して、畢命を期とる者は、十は即ち十ながら生じ、百は即ち百ながら生ず。何を以ての故に。外の雑縁無く、正念を得るが故に。仏の本願と相応するが故に。若し専を捨てゝ雑業ぞうごふを修せむと欲する者は、百の時にまれに一二を得、千の時に希に五三を得。 (中略) 私に云はく、此の文を見るに、いよ/\須く雑を捨てゝ専を修すべし。豈に百即百生の専修正行を捨てゝ、堅く千中無一の雑修雑行を執せむや。行者能く之を思量せよ。[3]

と『往生礼讃偈』の同部分を引用し、註釈を加え専修念仏を説いた。

親鸞

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法然を師とする親鸞も同様に、当時の貴族の間で流行していた観想念仏の教えを説きつつ、観想念仏を行えない[4]庶民に称名念仏の教えを誘引するための書と受けとめる[2]。この事は、『正信念仏偈』「源信章」と『高僧和讃』「源信大師」における評価から見取ることができる。そのため浄土真宗各派において『往生要集』は正依の聖教とされる。

主な引用書

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参考文献

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  • 『往生要集』 上巻、石田瑞麿 校注、岩波書店[5]岩波文庫 青316-1〉、1992年。ISBN 4-00-333161-3 
  • 『往生要集』 下巻、石田瑞麿 校注、岩波書店〈岩波文庫 青316-2〉、1992年。ISBN 4-00-333162-1 
  • 黒田覚忍『はじめて学ぶ七高僧―親鸞聖人と七高僧の教え』本願寺出版社、2004年。ISBN 4-89416-238-5 

別訳版

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脚注

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  1. ^ 別名、恵心僧都。
  2. ^ a b 『はじめて学ぶ七高僧』を参考。
  3. ^ 法然『選択本願念仏集』 大橋俊雄校注、岩波書店(岩波文庫 青340-1)、1997年、P37〜39より引用。
  4. ^ 当時の庶民の生活状況は、天災・戦禍などにより生活が逼迫していた。
  5. ^ ワイド版も刊行(1994年9月)。元版は『日本思想大系6 源信』石田瑞麿校注(岩波書店、1970年、新装版1991年)。旧岩波文庫版は花山信勝訳註(復刊1988年)
  6. ^ 元版は『日本の名著4 源信』川崎庸之責任編集、中央公論社。なお講談社学術文庫で、中村元『往生要集を読む』が再刊(元版は岩波書店)。

外部リンク

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